2022年4月19日火曜日

原告&被告の「湯ートピア」巡り【湯~とぴあ事件 結合商標の類否】

 


 商標弁理士のT.T.です。 

 さて、弁理士試験に合格し、弁理士になることは、人生に大いなる変化をもたらすかもしれませんが、「ユートピア」な人生がすぐ待ち受けているかというと、そうでもないと思います。何故ならば、たとえ弁理士になっても、知識と能力の向上のため、終わらない修行の日々が延々続くからです。 

しかしながら、人生の「ユートピア」に辿り着くのは難しいとしても、「湯~とぴあ事件」(平成27年(ネ)10037号)の「湯ートピア」には簡単に辿り着くことができます。 

何故ならば、被告「湯~トピアかんなみ」は、静岡県函南町に位置し、原告「ラドン健康パレス 湯~とぴあ」は、山梨県甲斐市に位置しているため、頑張れば、東京から電車を使い、日帰りで巡ることができるからです。

 「湯~とぴあ事件」とは、登録3112304「ラドン健康パレス\湯~とぴあ」42類「入浴施設の提供」)の商標権者(原告)が、温泉施設「湯~トピアかんなみ」を運営する静岡県函南町(被告)を商標権侵害で訴えた事件です。
 知財高裁は、原告商標の下段「湯~とぴあ」部分について、入浴施設の提供という役務において、全国的に広く使用されているため識別力が弱く、上段「ラドン健康パレス」部分も、一般名称的な意味を示すにすぎず識別力が弱い等の理由で、原告商標は全体として一体的に観察するものであると認定し、被告標章も識別力が弱い「湯~トピア」と地名「かんなみ(函南)」の結合である等の理由で、全体として一体的に観察するものであると認定したことから、両者は非類似であると判断し、商標権侵害には該当しないとしました(知財高裁 平成27年(ネ)10037)。
(左:原告商標、右:被告標章)


 まず訪れた「湯~トピアかんなみ」(被告)は、静岡県「三島駅」から南へ伸びる伊豆箱根鉄道・駿豆線の「伊豆仁田駅」で下車し、そこから東へ徒歩約20分で辿り着くことができます。


 「湯~トピアかんなみ」は、一見、地域にある普通の日帰り入浴施設(利用料700円)といった印象を受けますが、実は、サウナに力を入れているようで、「オンドルサウナ」と、「高温サウナ」の二種のサウナを備えています。 


そして、露天風呂も備え付けており、富士山を望むこともできます。ただし、浴槽に浸かりながらの富士山鑑賞は、仕切り壁に遮られてちょっと難しいです。しかしながら、浴槽脇のベンチに座りながらであれば、仕切り壁を越えて、ちょうど富士山を眺めることができます。サウナから上がった後、露天風呂のベンチで休憩すれば、目も心も体も整えることができるでしょう。


(※休憩食事スペースより撮影) 

 ところで温泉と言えば、その温泉のロゴ入りのタオルですね。150円を支払うと、「湯~トピアかんなみ」ロゴ入りの小タオルを手に入れることができます。ちなみに、スタッフさんは、背中に「湯~トピアかんなみ」ロゴがプリントされたTシャツを着ていましたが、こちらは非売品とのことで、商標弁理士としては少し悔しいです。

 

次に向かった「ラドン健康パレス 湯~とぴあ」(原告)は、「湯~トピアかんなみ」(被告)から一気に北上します。

昼頃に静岡県「伊豆仁田駅」を出発し、駿豆線→JR東海道線→JR身延線→JR中央東線と、途中昼休憩を挟みつつも、乗り継ぐこと約5時間半、夕方には山梨県「竜王駅」に到着しました。そこから南へ徒歩約12分で「ラドン健康パレス 湯~とぴあ」に辿り着くことができます。


ラドン健康パレス 湯~とぴあ」は、ザ・昭和な雰囲気を残す温泉ホテルであり、開発され尽した丸の内に目が慣れた私としては、何だか懐かしい気持ちにさせてくれます。私、平成ヒトケタ生まれですが。

もちろん、日帰り入浴も可能であり、利用料は700円です。
 そして、「ラドン健康パレス」の名のとおり、受付ロビーには、ラドン発生装置が鎮座していました。SFみたいな轟音を唸らせ、浴室へラドンが送られているようです。

 浴室は、通常の温泉ラドン温泉の二種類というシンプルな構成ながらも、レンガ造りの壁からなる重厚な雰囲気が、それを感じさせません。泉質は、ツルツル美肌効果があるらしく、その証拠に、浴室の床も手すりもツルツル滑ります。老人と弁理士受験生は注意が必要です。

 そして、ラドン温泉とは、上記のラドン発生装置から出たラドンを湯に混ぜたものではなく、密閉された空間にラドンとイオンとオゾンを混ぜた空気を充満させた温泉なのです。しかし侮るなかれ、ややヌルい湯だったにも関わらず、湯上り後、体の芯から熱を発して、ポカポカと温まっている感覚がありました。恐るべしラドン。


(ラドンだけじゃなくてネオンもすごい!)

  なお、「ラドン健康パレス 湯~とぴあ」では、タオルは貸出のみであり、登録3112304号「ラドン健康パレス\湯~とぴあ」ロゴ入りのタオルは販売していませんでした、無念。そのかわり、「湯ーとぴあ」の字がプリントされたトートバッグが売っていたので、記念に購入しました(2000円)。

 ということで、今回は「湯ートピア」求め、一日で静岡と山梨を縦断しましたが、やはり、温泉巡りは心と体に癒しを与え、まさにユートピアです。
 ただし日帰りとなると、スケジュール的には、朝6時半頃に家を出発し、帰宅が23時半頃になるので、ユートピアではなかったですが。 

T.T.


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2022年4月11日月曜日

静岡県富士市の「かつれつえん」??【勝烈庵事件 不競法・周知性】

 商標弁理士のT.T.です。 
 さて4月といえば、新卒入社シーズンということで、今年も多くの新卒が創英に入所いたしました。
 ところで私の新卒時代は、某メーカーに就職したのですが、その工場は、静岡県富士市にありました。入社日から2カ月間が工場研修ということで、私は富士市に滞在したことがあったのです。
 だから私は、4月というと、富士市で過ごした日々を懐かしみ、そんな富士市を代表する有名な知財判決「勝烈庵事件」(横浜地裁 昭和56()2100号)をも思い起こしてしまいます。 

 「勝烈庵事件」とは、横浜市のとんかつ料理店「勝烈庵」(原告)が、富士市のとんかつ料理店「かつれつあん」(被告)に対して、「かつれつあん」の表示が、いわゆる周知表示混同惹起行為(旧不競法112号)に該当するとして、差止及び損害賠償等を請求した事件です。
 横浜地裁は、原告の営業表示「勝烈庵」が横浜市周辺で周知であることを認定した上で、富士市付近でも周知であるか検討した結果、①被告の最寄駅「富士駅」と横浜・東京は電車で23時間を要し、通勤や気楽に日帰りで出かけることを想定しうる距離関係にはないことから、くちコミによる方法で「勝烈庵」が周知性を獲得したとは推認できず、マスメディアによって「勝烈庵」が全国的に紹介されたといっても、その頻度はさほどのものではなく、また、富士市の住人にとって、遠隔地にある「勝烈庵」の紹介は、特に関心を引く事項ではないことから、マスメディアによる方法で「勝烈庵」が周知性を獲得したとは推認できない、といった理由により原告の訴えを退けました(横浜地裁 昭和56()2100)。 




(写真:原告「勝烈庵」の馬車道総本店と、勝烈定食(1760円))

 上の写真が示す通り、原告「勝烈庵」は、未だ横浜や鎌倉でとんかつ料理店を営んでいるようですが、被告・富士市「かつれつあん」は、どうなってしまったのか、元・富士市民(?)としては気になってしまうのです。

 手始めに、判決文に記載された情報を元に、被告店舗が入居していたという「鈴久ビル」を検索してみましたが、ヒットせず、また、被告店舗の住所を検索してみると、グーグルマップは富士駅北側の製紙工場を指し示してしまいます。

 「勝烈庵事件」は、昭和58年(1983年)に判決が出た事件だけあって、時間が相当経過していることから、富士市「かつれつあん」は、もはや存在していないのでしょうか?

 ただし、「富士市 かつれつあん」と検索すると、気になるお店がヒットします。それが「かつれつ」です。

 

 どうやら「かつれつえん」は、富士市の老舗とんかつ料理店らしく、名前も「かつれつあん」と、どことなく似ています。しかし、その最寄駅は、富士駅のひとつ北隣「柚木駅(ゆのきえき)」です。判決文では、富士市「かつれつあん」の最寄駅が、富士駅とのことですが、「かつれつえん」は富士駅から大きく離れてしまっています。 

 やはり、「かつれつえん」は、たまたまそういう名前だったというだけであって、富士市「かつれつあん」とは、一切関係ない可能性が高そうに思えます。

しかし、その真相を確かめようにも、私が住む東京都から富士市は、判決文に記載の通り、電車で3時間程度かかってしまいます。とんかつを食べるためだけに往復6時間程度をかけるのは、非常に馬鹿馬鹿しいことですし、何よりも、行ってみた結果、富士市「かつれつあん」と一切関係ないことが判明した場合には、とても虚しいです。

そのため、「かつれつえん」に行くのを渋ること、数年が経過してしまいました・・・

 

・・・ところが4月某日、別件で、富士市を経由する”用事”があったため、丁度良いからお昼ごはんに「かつれつえん」へ行ってみることにしました。 

改めて、「かつれつえん」の場所を説明すると、JR東海道線から「富士駅」でJR身延線に乗り換え、その隣の「柚木駅」が最寄駅となります。柚木駅から県道369号線を西へ進むこと約10右手に「かつれつえん」の看板が見えてきたら、到着です。



 「かつれつえん」は、古民家を改造した風な内装となっており、とても落ち着きます。
 そして、私が注文したのは「とんかつ定食」(1200円)で、ジューシーなとんかつに加え、マシマシの野菜とポテサラも付いてくるので、とても満足いたしました。また、赤味噌を使用した汁物も珍しく、グッドポイントです。

 

さて、私の目的は、食レポをすることではなく、「かつれつえん」と富士市「かつれつあん」の関係性について真相を突き止めることなのです。お会計時、馬鹿なことだと思いながらも、店主に尋ねてみました。 

「すみません、このお店は、昔、富士市にあった『かつれつあん』と何か関係があるのでしょうか?」 

「それ、ウチのことです。」  

!?!?!?意外な即答に、思わず興奮が高まります。
 どうやら35年前のこと、富士駅近くにあった店舗から、現在の場所へ引っ越し、それと同時に店名を「かつれつあん」から「かつれつえん」へ変更したのが真相のようです。


ということで、「かつれつえん」は正真正銘、富士市「かつれつあん」だったのでした。
 「かつれつえん」では、ジューシーなとんかつを食べることができ、判決の後日談も知ることができ、もう私はお腹いっぱいです。

皆さまも、静岡県にお立ち寄りの際は、ハンバーグレストラン「さわやか」ではなく、「かつれつえん」に行くことをおススメいたします。 
 無理を承知に言いますが、特に弁理士受験生には、「かつれつえん」へ行くことをおススメいたします。

知財裁判で勝っ(カッ)ただけに。

T.T.


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