2022年9月21日水曜日

「弁理士(登録番号00001)」の特許事務所があった聖地でワインを嗜む【ENOTECA事件】

 商標弁理士のT.T.です。
 当ブログで前回取り上げた「瓦そば事件」の記事に反応していただいた「瓦そば弁理士」様をはじめとして、最近、二つ名を名乗る弁理士や知財系弁護士が続々登場しています。その上、したたかに商標登録まで狙っている者もいるようです。例えば、登録6415028号「逆転弁理士」、商願2022-064706パエリア弁理士」、商願2022-078874画伯弁護士」とか。
 そんな私も、知財系判決の現場ばかり旅していることから、漫画・アニメの舞台なった土地を実際訪れる「聖地巡礼」になぞらえ、「聖地巡礼弁理士」なんて、同業から言われたりしたことがありました。 

突然ですが、創英には、「夜の交流会」制度というものがありまして、終業後に所員同士の懇親会を奨励しています。
 そこで、商標弁理士R.H.が「夜の交流会」をしたいというので、私は、場所として、銀座の「カフェ&バー エノテカ・ミレ」を提案しました。そうです、この「カフェ&バー エノテカ・ミレ」こそが、正真正銘、知財業界の聖地なのです。 

 そもそも、「カフェ&バー エノテカ・ミレ」は、一部に「エノテカ」の文字が入っていることからも伺えるように、ワインショップで有名な「エノテカ」が運営するレストランです。「エノテカ」といえば、ご存じ「ENOTECA事件」(平成27(行ケ)10058号)でしょう。

ENOTECA事件」(平成27(行ケ)10058)とは、登録5614496号「Enoteca Italiana」(第35類「飲食料品の小売等役務」等)に対し、登録5136985号「ENOTECA」(第35類「飲食料品の小売等役務」等)等を引例とした商標法4111号違反等を理由に、「エノテカ(原告)」が請求した無効審判で(無効2014-890023)、棄却審決となったことから、審決取消訴訟で争われた事件です。
 知財高裁は、Enotecaからは原告の周知な営業表示「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じ、Italianaからは「イタリアの」の観念が生じて役務の提供場所等を認識させることから、登録5614496号「Enoteca Italiana」は、不可分的に結合しているとは認められず、Enoteca」の文字部分が要部として抽出されることから、引用商標「ENOTECA」等と類似し、商標法4111号に該当すると判断しました。

 ちなみに、登録5614496号「Enoteca Italiana」の商標権者の一人は、イタリアの企業で、実際、ボローニャで「Enoteca Italiana」を営業しているようです。欧州の知財系判決ネタが溜まったら、いつか行ってみたいですね。

 ところで「エノテカ」は、本店が広尾のため、本当に「ENOTECA事件」を勉強したいなら広尾まで行くのが筋でしょう。しかし、あえて銀座の「カフェ&バー エノテカ・ミレ」を選んだのは、創英・丸の内オフィスから徒歩で行けるのもありますが、最も大事なのは、「銀座すずらん通り」と「みゆき通り」がクロスした、中央区銀座68-3という立地です。そうです、この地は、「登録番号00001」岡村輝彦弁理士の特許事務所、すなわち、初代特許事務所があった聖地なのです。

(写真:中央区銀座68-3

 当ブログで以前取り上げた「弁理士第1号は、スゴい人だった!?」(2021721日)によれば、189971日に、岡村輝彦博士が「弁理士00001号」として登録されたことを紹介しました。そして、官報によれば、岡村弁理士の特許事務所の住所は「東京市京橋區(区)南鍋町二丁目五番地」とのことですが、これが、現在の東京都中央区銀座68-3に当たるのです。

現在の東京都中央区銀座6―8-3には、「銀座尾張町TOWER」と呼ばれる商業ビルが建っていて、もちろん初代特許事務所なんてものは既に存在せず、1階テナントは、弁理士とは真逆のキラキラしたジュエリーショップです。
 そして、「カフェ&バー エノテカ・ミレ」は、1階ジュエリーショップを通り抜け、階段を上った2階にあり、隣に「エノテカ」ワインショップが併設された、銀座にしてはカジュアルなレストランとなります。


 

さて、今回の「夜の交流会」では、自分からこの場所を提案してみたものの、T.T.は、ワインの違いは全く知らない男です(商標の違いが分かる男ではありますが。)。そのため、メニューのチョイスは、周囲にお任せし、ひとまずコース料理を注文して、ワインを3本開けました。

好評(?)の当ブログ食レポですが、確かに、食事はワインに合うイタリアン料理が次々出てきて美味しかったのですが、悔しいことに、映える写真が撮れませんでした。やはり、今回のメインは「夜の交流会」ということで、それほど雑談に夢中だったためです。気づくと、2時間があっという間に経過してしまいました。
 結果的に、聖地「初代特許事務所」跡で英気を養いENOTECA事件」を学ぶことができ、そして、創英の所員間の交流も図れる、まさに一石三鳥な時を過ごすことができました。


ところで、「夜の交流」は創英の所員に留まらず、店員さんとも交流(軽い雑談)をしたのですが、つい癖で「実は、この場所は、初代弁理士が経営していた初代特許事務所があった場所で・・・」とウンチクを講釈垂れてしまったところ、弁理士のマイナーさも相まって、何とも微妙な反応をされてしまいました。
 カジュアルな「カフェ&バー エノテカ・ミレ」は、友達や恋人との普段使いにもおススメな店ですが、「初代特許事務所の聖地」だとか「ENOTECA事件」の話を持ち出して、(一般人の)同伴者をドン引きさせないよう注意しましょう。

T.T.


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2022年9月5日月曜日

元祖・瓦そばを食べてきた【瓦そば事件 識別性】

商標弁理士のT.T.です。
 さて、インターネット上の噂によれば、有志の知財関係者が集まって、「『瓦そば事件』を勉強する会」と称し、瓦そばを食べながらドンペリを空ける会が、東京や大阪であったとのこと。 

そもそも「瓦そば」とは、山口県の郷土料理で、「熱した瓦の上で油で炒めた茶そばを盛り、その上に牛肉や錦糸卵、海苔、刻みネギ、などの薬味を乗せ、これを独特のつゆにつけて食する食品」を言います。

「バナナじゃないよ西郷さん」のゴロ合わせでお馴染みの「西南戦争」(1877年)にて、熊本城に籠る新政府軍を包囲した士族軍が、野戦の合間、野草や肉を瓦の上で焼いて食べていたという逸話をヒントに、山口県の川棚温泉で「たかせ」を営業する高瀬慎一氏が1961年に開発したとのこと。
 開発者・高瀬慎一氏は、1988年に「瓦そば」を商標登録しましたが(登録2050583号 指定商品「そばめん、中華そばめん」)、その登録を発端に起こったのが「瓦そば事件」でした(平成4(行ケ)106号)。

 「瓦そば事件」(平成4(行ケ)106)とは、登録2050583号「瓦そば」(指定商品「そばめん、中華そばめん」)に対して、下関市街で「瓦そばセット」を販売していた「株式会社江戸金(被告)」が、無効審判(無効H1-647)を請求した結果、商標法313号・同2項の規定に違反して登録されたことを理由に無効審決となったため、「たかせ」の高瀬慎一氏(原告)が提起した審決取消訴訟です。
 東京高裁は、a)「瓦そば」の表示が、山口県内の川棚温泉・湯田温泉・小野田市の他、宮崎県や熊本県で用いられていたことが刊行物に記載され、一般需要者に広く知られていたことb)「瓦そば」は川棚温泉の名物料理として知られ、原告の「たかせ」の他、「川棚グランドホテルお多福」や「麺食亭」でも提供されていたことc)持ち帰り用「瓦そば」が、原告の「たかせ」の他、被告「江戸金」や「川棚グランドホテルお多福」でも販売されていた事実から、「瓦そば」は、そば料理の名称として知られていただけでなく、商品そばめんの品質・用途を表示するものとして普通に用いられていたことから、識別性がないとし(商3条1項3号違反)、また、原告の「たかせ」が提供・販売する「瓦そば」は、「たかせの瓦そば」として周知性を有していたにすぎず、「瓦そば」の名称自体が原告の業務に係る商品として需要者等に認識されていたわけではないとして(商3条2項違反)、審決に誤りはないとしました。

(登録2050583

この噂の「『瓦そば事件』を勉強する会」は、(ドンペリが飲めるということで)非常に興味深いイベントだったのですが、当ブログが元祖至上主義なのはご存じでしょう。やはり、(心を鬼にして)ちゃんと「瓦そば事件」について勉強したかったので、東京や大阪の店ではなく、事件の当事者たる高瀬慎一氏の「川棚温泉 元祖 瓦そば たかせ」へ私は行くことにしたのです。
 

元祖・瓦そばがある「川棚温泉」は、山口県下関市の西部にある温泉地です。下関とはいっても、「川棚温泉」は、我々が最もイメージする下関、すなわち関門海峡付近の街からは遠く離れており、下関駅から山陰本線に乗ること約40分の「川棚温泉駅」が最寄りです。しかし、これもであり、駅前から温泉地まで更に2km離れているのです。だから今回、私にしては珍しく、川棚温泉までは、山口県に赴任している友人の車に乗って来ました。

デカデカ表された「川棚温泉」の入り口看板を通り過ぎると、さっそく見えるのが「元祖 瓦そば たかせ(本館)」です。

もちろん、元祖だけあって、それ目当てに行列ができていました。しかし、自分の前には10組ぐらい並んでいたはずが、10分ぐらいで店内へ通されました。これには吉野家も驚きの回転率です。この回転率の速さが、瓦そばを山口県名物たるものにしたのかもしれません。

回転率に反して、築約100年モノを改装したという店内は、旅館のように広く落ち着いた雰囲気です。実際、かつて「たかせ」では旅館も営業していたとのこと。早速注文したのが、もちろん「元祖・瓦そば」と、ついでに「たかせ」のもう一つの名物「うなめし」もです。


(写真奥:瓦そば、写真手前:うなめし)

「元祖・瓦そば」を食べてみると、錦糸卵のフワフワと、瓦で熱せられた抹茶そばのパリパリが混ざり合う、何とも不思議な食感を感じられます。途中、少し味に変化が欲しいと思ったら、レモン&もみじおろしをツユに入れると、元々サラダ油で脂っこかった瓦そばがさっぱりし始め、飽きを感じさせません。最後、瓦に熱せられた麺が、パリパリを通り越して針金となり、博多人もびっくりのバリ硬ですが、それをカラムーチョのようにパリポリ頬張るのも一興です。
 ちなみに、瓦そばの瓦は、その断面が緩いS字カーブを描いていることから、蕎麦や具を箸で掴む際、瓦から滑り落ちないよう工夫がいるため、食事中は終始ジェンガの如く緊張状態を強いられますが、食べ終わると達成感みたいなものがありました。

「元祖 瓦そば たかせ」には、私が訪れた「本館」の他、「南本館」「東本館」もあります。判決文によれば、瓦そばは「たかせ別館」で初めて提供されたとのことですが、これは現在の「東本館」に当たり、ただいま例のウィルスの影響で休館中です。つまり、真の意味では、私は「元祖・瓦そば」を食べていることにはならないのでした。無念。

「元祖 瓦そば たかせ」の近くには「三春堂」というお菓子屋さんがあり、そこでは「瓦シュー」なるスイーツが売っています。どうやら「元祖 瓦そば たかせ」と「三春堂」は親戚同士とのこと。「瓦シュー」が、「瓦そば」の知名度に便乗したのは間違いないですが、「瓦そば」の瓦のような形態と、瓦のようにパリっとしたシュークリームは、その名に恥じません。瓦そば食後のお口直しや、温泉饅頭の代替品にピッタリでしょう。


ところで、「瓦そば事件」のもう一人の当事者たる被告(無効審判請求人)の「江戸金」は、惜しくも20223月に閉店とのことですが、判決文にも重要証拠として登場した「川棚グランドホテルお多福」は、いまだ健在です。ホテル内レストランでは瓦そばが提供されていて、もちろん、「お持ち帰り用の瓦そば」も売っていました。

(写真:川棚グランドホテルお多福、ホテル内レストラン)

 
(写真左:「たかせ」、写真右「お多福」)

そういえば、せっかく「川棚温泉」に来たのだから、温泉に入ることを忘れてはいけません。ちょうど、「川棚グランドホテルお多福」の大浴場「山頭火」が評判良いとのことなので、入浴することとしました。


内風呂の湯加減はちょうど良い感じでしたが、露天風呂は少々熱かったです。しかし、さらに熱かったのが、露天風呂の石畳でした。「瓦そば」の瓦を意識したと思われる、その黒々とした石畳は、日光に照らされ高温となっており、うっかり踏んだら、足の裏が瓦そばになりました。
 川棚温泉では、「元祖・瓦そば」等の現物を見ることで「瓦そば事件」の勉強にもなりましたし、瓦そばを疑似体験することもできました。

(T.T.

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