2022年6月7日火曜日

元祖「白熊」は第30類「氷菓」で代替できぬ!【しろくま事件 商標法26条 天文館むじゃき】

 

 商標弁理士のT.T.です。

 カレンダーも6月となり、季節は、ほとんど夏です。アイスクリームが美味しくなってくる季節ですね。
 ところで、私が初見で感動したアイスクリームといえば、丸永製菓の「白くま(棒アイス)」でしょう。ラクトアイスとフローズンフルーツの組合せは、まさに、この世の物とは思えない絶品、と感じた小学生の夏でした。
 そんな小学生だった自分は、まさか、この「白くま(棒アイス)」が、商標の「しろくま事件」(大阪地裁 平成
8年(ワ)12855号)に巻き込まれているとは、知るはずもありませんでした。

 
しろくま事件」とは、登録778416号「白クマ」(指定商品「菓子及びパン」)の専用使用権者であった林一二株式会社(原告)が、丸永製菓株式会社(被告)の販売する「白くま」の氷菓及びラクトアイスに対し、商標権侵害であるとして訴訟を提起した事件です。
大阪地方裁判所は、しろくま」が、鹿児島県を中心とした九州地方において、飲食店で提供される「かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたもの」を意味する普通名称であり、飲食店で提供される飲食物が、流通型商品に加工し販売される実情があることから、被告商品が、飲食店で提供される「かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたもの」の同一物又は代用物と観念される場合には、普通名称であるとしました。
 その上で、かき氷に冷涼感や食感が近い「氷菓」は、かき氷の代用物であることから、「しろくま」は「氷菓」の普通名称であると判断しました。一方で、食感がクリームに近い「ラクトアイス」は、かき氷の代用物でないとして、「しろくま」は「ラクトアイス」の普通名称に該当しないと判断しました(なお、慣用商標にも該当しないとした)。
 したがって、被告が、ラクトアイスに「白くま」の標章を付して使用していたことは、商標権侵害に当たるとして、差止・廃棄となりましたが、氷菓に「白くま」の標章を付して使用することは、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標につき(商2612号)、商標権の効力が及ばないとしました(大阪地裁 平成8年(ワ)12855号 参照:大判例)。
(左:原告「林一二株式会社」の白クマ、右:登録商標(登録778416号))

 しかしながら、冒頭の通り、丸永製菓のラクトアイス「白くま」は未だに販売されています。おそらく、原告と被告で何かしらの取引があったのだと推察されます。

(被告「丸永製菓株式会社」の「白くま」の氷菓)

 

 さて、判決によれば、被告(丸永製菓)は、「白くま」の標章の使用が、「普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標の使用」(商2612号)、又は、「慣用商標の使用」(同4号)であり、商標権侵害に該当しないと主張するため、「しろくま」の元祖について、次のように説明していました。

 もともと『しろくま』は、鹿児島市内のある店舗で、フルーツ等をのせた練乳がけのかき氷の名称として使用されていたところ、徐々に他の店舗においてもフルーツ等をのせた練乳がけのかき氷を『しろくま』の名称で提供するようになり、鹿児島県内の一般消費者の間で、『しろくま』は普通名称ないし慣用商標として使用されるようになった。

ここで登場する「鹿児島市内のある店舗」とは、「天文館むじゃき」のことです。「しろくま」の元祖には、諸説あるようですが、丸永製菓は、「天文館むじゃき」説を採用しているようです。

 

 「天文館むじゃき」(本店)は、鹿児島中央駅と鹿児島駅の中間に位置する、鹿児島最大の繁華街「天文館」に位置します。「天文館むじゃき」(本店)では、同ビル内で、1階の「白熊菓琲」の他、2階と4階でもグループ系列の飲食店を営業しており、どの店舗でも、元祖「白熊」を食べることができるようです。

 流石、元祖を名乗るだけあって、大行列ができていましたが、2階や4階の飲食店は、並ばずに入店できたようです。確かに、白熊を食べることだけがお目当てならば、2階か4階でも良かったでしょうが、ご存じの通り、私は元祖至上主義。だから、元祖と思われる1階「白熊菓琲」に、あえて並び続けました。

  並ぶこと約15分、「天文館むじゃき(白熊菓琲)」に入店できたのが昼頃だったため、元祖「白熊」の前座と昼食を兼ね、同じく「白熊」の名を冠する「しろくまちゃんのフレンチトースト」(740円)と「しろくまアートカプチーノ」(510円)を注文しました。
 特に「しろくまアートカプチーノ」は、呼子のいか活造りを食す時も無感情だった私ですら、可愛すぎて飲むのに3分躊躇してしまいました。

そして、いよいよ登場したのが、元祖「白熊」740円)です。むじゃきオリジナルのミルクソースのかかったかき氷と、フルーツの組合せが美味しいのは、もちろんのこと、容器の底までフルーツが敷き詰められており、最後まで飽きさせません。

 元祖「白熊」には、フルーツの他、謎の丸い菓子が飾り付けられています。これは、「白くまちゃんのおへそ」と言いまして、サツマイモで出来たスイートポテトです。ここだけ謎の鹿児島っぽさ全開です。
 せっかく「白くまちゃんのおへそ」を鹿児島っぽさ全開にするならば、サツマイモと同じく、鹿児島県が生産量1位の「ゴマ」を素材にした菓子にすべきだったのでは、と思います。へそゴマだけに。

(お土産用 680円)


 ところで、「天文館むじゃき」のかき氷が、「白熊」と呼ばれるようになったのは上面から見たレーズンとサクランボの配置が、まるで白熊の顔のように見えたから、とのことです。しかしながら、見た目だけでなく、その食感も「白熊」たる所以ではないかと、私は思っています。
 即ち、元祖「白くま」のかき氷部分の食感が、とてもフワフワしており、まるで「白熊の毛皮」のようなのです。

『しろくま』は、練乳がかけられているとはいえ、かき氷を元とし、しかも、そのことを消費者が認識している以上、冷涼感や食感は、「氷」である。(中略)冷涼感が大きく、食感が「氷」により近く、また、そのイメージも「氷」により近いのは「氷菓」である。このように、一般には、「氷菓」については「かき氷」の延長にある代用物と認識されているとみるのが合理的である(後略)。

と判決で裁判官は述べていますが、あの毛皮のようなフワフワ食感は、市販の「氷菓」では、再現が不可能でしょう。判決に異論はないですが、つまり、元祖「白熊」は、かき氷や氷菓ではなく、「白熊」という食べ物である。
 なお、本物の白熊の毛皮は、「お湯につける前の春雨」の触り心地らしいですが。

 (T.T.


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