この判例勉強会も4回目を迎えましたが、4回目の発表が終わるころ、事件が起きました!
次回の日程を組んでいる最中、なんとK商標部門長は、(しれっと)「次回からもうオレは出なくてもいいかな。」といい出したのです! しかし、間髪入れずH弁理士から引き留められ、K商標部門長は次回以降もめでたく参加いただくことになりました。
そんな存続も危うい勉強会となってきていますが、私が担当した裁判例「肌優事件」(事件番号:知財高裁
平成21年(行ケ)第10071号)をご紹介したいと思います。
この裁判例は、漢字の順序が逆転した商標同士の類否が、知財高裁で類似と判断されるまでしつこく争われた事件です。
主な時系列は以下のとおりです。
平成17年5月20日 出願(商願2005-44585)
平成18年2月3日 登録(登録第4926734号)平成19年7月27日 異議申立維持決定(異議2006-90188)
平成21年2月4日 無効審判請求不成立審決(無効2008-890053)
平成21年10月28日 無効審決取消判決(知財高判 平21(行ケ)10071)
商標登録後に、異議申立て、無効審判、知財高裁と3度にわたり、登録商標同士が似ているかが争われました。争われた商標がこちらです。
本件商標 引用商標
登録4926734号 登録第4640129号
第5類「ばんそうこう」他 第5類「ばんそうこう、医療用テープ」他
久光製薬株式会社 日東電工株式会社
ご覧いただき、いかがでしょうか。
逆転商標と名付けられたように、漢字の「肌」と「優」の2文字が入れ替わった商標同士という印象を持つ方は多いと思います。ただ、引用商標は、漢字「優肌」の上段に小さく「ゆうき」の平仮名が、下段に大きく「YU-KI」の欧文字が併記されているため、本件商標とは異なる印象を持つ方もいると思います。
特許庁では、この本件商標と引用商標が似ているかどうかの類否を、次のように判断しました。
①外観(見た目)は、明確に区別し得る(非類似)
②観念(意味内容)は、ともに特定の意味を有しない造語のため比較できない(非類似)③称呼(呼び名)は、「キユウ」「ハダユウ」「ハダヤサ」の3つが生じる本件商標と、「ユウキ」のみが生じる引用商標とは、どれと対比しても互いに相紛れるおそれはない(非類似)
⇒以上から、両商標は非類似
これに対し、裁判所(知財高裁)では、氷山印最高裁判決を引用のうえで、取引の実情を考慮して、次のように両商標の類否を判断しました。
①観念は、ともに「肌に優しい」「優しい肌」「優美な肌」等が生じる(同一又は類似)
②外観は、下記点から離隔的(同じ時・同じ場所で並べないで)に観察すると紛らわしい(類似)・確定した固有の意味を有していない造語
・漢字そのものが持つ意味が重要
・2つの漢字「肌」と「優」が共通
・指定商品「ばんそうこう」との関連性が強い文字を選択
・横書きで語順を正確に記憶しにくい
③称呼は、「キユウ」「ハダユウ」「ハダヤサ」が生じる本件商標と、「ユウキ」が生じる引用商標とは、どれと対比しても類似しない(非類似)
⇒以上から、観念と外観が類似し、本件商標は複数の称呼が生じるため、類否判断にあたり称呼(非類似)を重視するのは妥当でなく、両商標は類似する
知財高裁で考慮された「取引の実情」は、下記表の「引用商標の使用態様、宣伝広告の掲載」をはじめ、6項目以上に及びます。
商標 | 販売開始 |
標章使用 |
表示方法※例 |
宣伝広告 |
優肌絆
(優肌絆不織布,優肌絆スキンカラー,優肌絆プラスチック,優肌絆アルファを含む)
|
H6.11~ |
H6.11~ |
包装箱上面・側面に大きな文字で表示(ふりがな付き) ※優肌絆 |
誌臨牀看護,Nursing Today, 月刊ナーシング,透析ケア等の月刊誌広告 日本看護学会等
のパネル展示
|
優肌パッド |
H11~ |
H12.4~ |
同上
※優肌
| 同上 |
優肌パーミエイド |
H14~ |
H14.10~ |
同上(四角の囲み)
※優肌パーミエイド
| 同上 |
優肌パーミパッド |
H15~ |
H16.5~ |
同上
※優肌パーミパッド
|
同上 |
優肌パーミロール |
H16~ |
H16.8~ |
同上 ※優肌パーミロール |
同上 |
私は、「取引の実情」のなかで、商品の特徴として認定された内容が興味深いと思いました。
具体的には、看護・医療の現場では、かぶれがなく、剥がすときに痛くない製品開発が要望されていて、そうした要望を踏まえ、固定機能を維持しつつ皮膚の損傷を低減する低刺激のばんそうこうが開発されたといったストーリーを交えたくだりです。
このようなストーリーを交えることにより、「固定テープ、ばんそうこう」という商品に「肌に優しい」というイメージが刷り込まれ、上述の①観念、②外観の判断が非類似から類似へと傾いたのではないかと想像します。
さいごに、今、商標調査(商標の出願前に使用・登録できるかを事前に調べて報告すること)を日々行っていますが、この裁判例を通じて、調査の際は文字の順序を入れ替えて似ているかという観点も忘れないようにしようと思う今日この頃でした。
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