塩釜在住の「丹野六右衛門(原告)」氏が、新潟市の「合名会社横山本店(被告)」から肥料用大豆粕を購入する売買契約を結び、約款では4月30日に「塩釜レール入」で引渡すとしました。「塩釜レール入」とは、荷物が塩釜駅に到着した後に代金を請求できるという「商慣習」です。
しかし、引渡し期日になっても大豆粕が届かなかったため、「丹野六右衛門」氏は「合名会社横山本店」に対し、6月22日に催告をしたうえで、契約を解除し、債務不履行による損害賠償を請求しました。
以上のことから、「合名会社横山本店」の債務不履行による「丹野六右衛門」氏の損害賠償請求が認定されました。
「塩釜レール入事件」の舞台となった「塩釜駅」は、確かに、JR東北本線に実在する駅名ですが、これは1959年に新設された駅であり、事件当時、大正時代の「塩釜駅」は別の場所にありました(以下、古い方を「(旧)塩釜駅」という。)。「(旧)塩釜駅」は、塩釜駅から北東へ約1.4km、現在のJR仙石線「本塩釜駅」辺りにあり、事件当時は、東北本線の支線「塩釜線」の終着駅でした。
「塩釜線」は、元々、東北本線の一部として1887年に開通し、当初の「(旧)塩釜駅」は東北本線の終着駅でした。1890年には、東北本線が北へ延伸されることにより、岩切駅から(旧)塩釜駅までが、東北本線の支線となり、後に「塩釜線」と呼ばれるようになりましたが、その後、1997年に「塩釜線」は廃線となってしまいました。
そうすると、「塩釜レール入事件」当時の大豆粕輸送ルートは、新潟駅→(信越本線)→新津駅→(磐越西線)→郡山駅→(東北本線)→岩切駅→(塩釜線)→(旧)塩釜駅、と推定されますが、このうち、廃線となった塩釜線をこの足で辿ることで、現代における「塩釜レール入」を再現してみることとしましょう。
東北本線を右に分岐した先には、いかにも廃線跡な雰囲気を醸し出す、長細い空き地が広がっており、一部が歩道として開放されています。空き地道中にてレンガ橋や勾配標を望みつつも、途中で住宅街を突っ切り、さらに進んで仙石線へと合流すると、塩釜線と仙石線の並走区間になり、一部が遊歩道として整備されています。このまま仙石線と並走し続けると、仙石線「本塩釜駅」こと塩釜線「(旧)塩釜駅」に到着しました。
「本塩釜駅」高架下は、駐車場となっており、その脇に塩釜線「(旧)塩釜駅」のプラットフォーム遺構が残っています。そうすると、「塩釜レール入」とは、このプラットフォームに汽車に到着したら、代金が請求できる契約だったのでしょうか?
いいえ、どうやらこれは旅客用ホームだったようで、貨物のやり取りがあった(旧)塩釜駅の貨物ターミナルは、旅客用ホームから更に奥へ進んで右に曲がった「イオンタウン塩釜」辺りにあったようです。確かに、妙に廊下が長いイオンで、廃線跡を匂わせます。
このように肥料用の大豆粕が運ばれる予定だった塩釜線「(旧)塩釜駅」は、跡形ぐらいしか残っていませんでしたが、原告・丹野六右衛門氏の店舗は、国の登録有形文化財として未だ現存しています(築1914年~)。それが、本塩釜駅((旧)塩釜駅)から西へ約300m進んだ「丹六園」になります。
(なお、被告「合名会社横山本店」は、新潟市中央区上大川前通11番町辺りにあったらしいが、現地へ行ったところ、痕跡は現在なかった。)
「丹六園」は、1720年に丹野六右衛門(初代)が創業した海産物卸商に始まる老舗で、歴代当主が代々「丹野六右衛門」を名乗っています。「塩釜レール入事件」の丹野六右衛門氏は9代目だったようです(現在は12代目?)。
肥料の取り扱いについては、明治時代以降に開始したとのことで、実際、「丹六園」の旧屋号が「丹六肥料問屋」だったことから、「塩釜レール入事件」で9代目・丹野六右衛門氏が被告から購入しようとした肥料用の大豆粕は、他者へ卸売するためものだということが分かります。つまり、「塩釜レール入事件」の損害賠償請求とは、原告自身が肥料を使えなくて困ったから請求するのではなく、商流が滞ったことによる損害だということが良くわかります。
現在、「丹六園」では肥料は取り扱っていないものの、和菓子と陶器を販売しています。特に、「志ほが満」という落雁風の銘菓は、仙台藩にも献上された記録が残るほどです。
ちなみに、丹野六右衛門(10代目)の妻の兄は、民訴法で高名な東北大のS博士(故人)で、その息子も慶應大法学部の名誉教授とのことですが、丹野家親戚の集まりでも「塩釜レール入事件」が話題なったことは一度もなかったようで、店内で対応いただいた丹野家の方も「塩釜レール入事件」は全く知らなかったとのことです。
さて、話を貨物ターミナル(旧)塩釜駅こと「イオンタウン塩釜」に戻しまして、もし現代に「塩釜レール入」を再現するならば、単に「イオンタウン塩釜」に入店するということになるのでしょうが、それだけだと何か味気ないです。やはり、「イオンタウン塩釜」で大豆粕を購入してこそ、現代の「塩釜レール入」っぽいと思います。
ところが、大豆粕は、その名の通り、大豆から油を搾ったカスなので、一見食べられそうですが、現代の主な用途は家畜飼料なので、人間用小売業のイオンでは、そう簡単に大豆粕は購入できなさそうな感じです。
そうすると、イオンで購入できる範囲で、現代の「塩釜レール入」を再現するならば、「イオンタウン塩釜」で「トップバリュ素焼き大豆」を購入、という結論になりました。
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