創英国際特許法律事務所、意匠商標部門のブログです。
日々の弁理士業務からメンバーのプライベートまで(?)、ゆるく紹介していきたいと思います!
少しでも部門の雰囲気を感じ取って頂ければ幸いです。
2023年12月11日月曜日
2023年12月4日月曜日
クリスマスケーキに「athlete Chiffon」はいかがですか?【athlete Chiffon事件 商3-1-3】
知財高裁は、まず、「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等といった、運動選手向けであるという商品又は役務を表すものとして「アスリート(athlete)」の文字を語頭に配した語が広く使用される実情があると認定しました。また、「バナナシフォン」「バレンタインシフォン」等といった、語頭に提供対象・原材料・味を表す語が配された場合、語頭の部分は、後半に続く「シフォンケーキ」の種類、内容を表すものであると容易に理解できると認定しました。
2023年11月6日月曜日
子育て世代と商標弁理士に魅力的な街・流山市おおたかの森【おおたかの森事件 50条・正当な理由】
確かに、「千葉県流山市・おおたかの森」は、つくばエクスプレスと東武野田線がクロスする「流山おおたかの森駅」を中心にショッピングセンターやマンションが割拠し、既婚者・子育て世代には魅力的に映る街なのでしょう。そして、商標弁理士にとっては、不使用取消審判の「正当な理由」(商標法50条2項但書)が争点となった事件「おおたかの森事件」としても魅力的な街なのです。
2023年10月23日月曜日
商標弁理士♂がバレナイ二重を付けても本当にバレないか?【バレナイ二重事件 商標権の効力の制限(26条)】
品出しで特に大変と感じていたのが、T.T.とは縁もない、女性用化粧品の陳列でしょう。多岐にわたる用途がある女性用化粧品は、覚えるのが大変でしたが、知見を広げられた点では有意義だったと思います。
そんな女性用化粧品の中で、特に印象的だったのが、ノーブル株式会社の「バレないふたえ」という商品です。その名の通り、バレないように二重を作るためのテープですが、そこまでして二重になりたいのかと、美に対する女性の執念に驚かされました。
ところが、「バレないふたえ」は正式名称ではなく、本当の商品名は「Prudor(プリュドール)」という罠です。確かに、「バレないふたえ」の文字は、大きく明瞭な書体で目立つように表示されている一方で、その上方で「Prudor(プリュドール)」の文字が、小さくやや不明瞭に表示されており、一見しても、「バレないふたえ」が商品名のように思えてしまいます。
2023年10月16日月曜日
喜多方ラーメン御三家から見える地域団体商標「喜多方ラーメン」の登録可能性 #チザラー
また、喜多方ラーメンといえば、「札幌ラーメン」「博多ラーメン」と共に、日本三大ラーメンの一つとして数えられ、ラーメン界では大変知られているでしょう。商標界においても、地域団体商標の登録要件の一つ「需要者の間で広く認識されている(商標法7条の2第1項)」が争われた「喜多方ラーメン事件」としても大変知られています。
「喜多方ラーメン事件」(平成21年(行ケ)10433号)とは、「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」が、地域団体商標・商願2006-29479「喜多方ラーメン」(43類「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」)を出願したところ、本願商標は、出願人又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、福島県及びその隣接県の需要者の間で広く認識されていないことから、地域団体商標の登録要件を満たしていないとして拒絶審決となり、その審決取消訴訟で登録の可否が争われた事件です。
知財高裁は、①喜多方市内のラーメン店の「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」への加入状況は、多く見積もって6割弱であり、未加入者には全国的に知られる「A食堂」等の有力店舗もあった事情、②「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」の構成員でない者(「喜多方ラーメン蔵」や「喜多方ラーメン坂内」のチェーン店等)が、喜多方市外で相当期間「喜多方ラーメン」の表示を使用等していた事情を勘案した結果、審決同様に、商願2006-29479「喜多方ラーメン」の周知性が否定され(商標法7条の2第1項違反)、商標登録は認められませんでした。
喜多方ラーメンというと、自然発生的に登場したようにも思えますが、実は、列記とした元祖があり、藩欽星さん(故人)が生み出したと言われています。
藩欽星さんは、中国浙江省生まれですが、1925年に来日し、1927年に鉱山で働く伯父を頼って、喜多方へやって来ました。そこで、見よう見まねで打った中華麵を屋台で売っていたことが、喜多方ラーメンの始まりとなりました。
今でも、喜多方市には、藩欽星さんの子孫によって中華料理屋「源来軒」が営業されています。「源来軒」は「協同組合
蔵のまち喜多方老麺会」の構成員のようで、軒先には「老麺会」の垂れ幕が掲げられていました。
さて、喜多方市には「喜多方ラーメン御三家」というものがあり、先ほどの元祖「源来軒」に加え、市内の人気店舗「満古登食堂(まこと食堂)」と「坂内食堂」の3つとなります。
「満古登食堂」は、醤油スープの人気店となります。ところが、「満古登食堂」は、「喜多方のれん会」という組合には加入していますが、「協同組合
蔵のまち喜多方老麺会」には加入していません。どうやら、判決文に登場する有力店舗「A食堂」とは、「満古登食堂」のことを指していたようです。
そして、「坂内食堂」は、塩味スープの人気店となります。こちらの方は、「協同組合
蔵のまち喜多方老麺会」に加入しています。
ところが、この「坂内食堂」から暖簾分けで登場したのが、判決文にも登場するチェーン店「喜多方ラーメン坂内」です。「喜多方ラーメン坂内」は、もちろん「協同組合
蔵のまち喜多方老麺会」に加入しておらず、関東を中心に全国60店舗以上も展開しており、「喜多方ラーメン」の普通名称化に貢献しています。
このように、元祖「源来軒」は特に異論がないとしても、「満古登食堂」の組合未加入と、「坂内食堂」の暖簾分けによる普通名称化は、「喜多方ラーメン」における「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」らの出所表示としての周知性を否定する一因になっています。「喜多方ラーメン御三家」であっても、地域団体商標登録要件としての足並みが揃っておらず、そりゃ、地域団体商標「喜多方ラーメン」は、登録が厳しいのも納得な感じがしました。
ちなみに、喜多方市は「蔵のまち喜多方」という側面もあり、むしろ、昔は喜多方ラーメンよりも知られていた程です。喜多方の蔵の街並みは、キャンディ・キャンディ事件の倉敷と比べても、食べ歩きの店とかは特にありませんが、かえって写真映えする景色が広がり、2時間程でサクッと循環できます。なお、喜多方ラーメン御三家の方は、全部巡るのに、並び時間も含め、のべ5時間かかりました。

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2023年10月2日月曜日
JR「塩釜線」廃線跡で巡る「塩釜レール入事件」【民法92条 慣習】
塩釜在住の「丹野六右衛門(原告)」氏が、新潟市の「合名会社横山本店(被告)」から肥料用大豆粕を購入する売買契約を結び、約款では4月30日に「塩釜レール入」で引渡すとしました。「塩釜レール入」とは、荷物が塩釜駅に到着した後に代金を請求できるという「商慣習」です。
しかし、引渡し期日になっても大豆粕が届かなかったため、「丹野六右衛門」氏は「合名会社横山本店」に対し、6月22日に催告をしたうえで、契約を解除し、債務不履行による損害賠償を請求しました。
以上のことから、「合名会社横山本店」の債務不履行による「丹野六右衛門」氏の損害賠償請求が認定されました。
「塩釜レール入事件」の舞台となった「塩釜駅」は、確かに、JR東北本線に実在する駅名ですが、これは1959年に新設された駅であり、事件当時、大正時代の「塩釜駅」は別の場所にありました(以下、古い方を「(旧)塩釜駅」という。)。「(旧)塩釜駅」は、塩釜駅から北東へ約1.4km、現在のJR仙石線「本塩釜駅」辺りにあり、事件当時は、東北本線の支線「塩釜線」の終着駅でした。
「塩釜線」は、元々、東北本線の一部として1887年に開通し、当初の「(旧)塩釜駅」は東北本線の終着駅でした。1890年には、東北本線が北へ延伸されることにより、岩切駅から(旧)塩釜駅までが、東北本線の支線となり、後に「塩釜線」と呼ばれるようになりましたが、その後、1997年に「塩釜線」は廃線となってしまいました。
そうすると、「塩釜レール入事件」当時の大豆粕輸送ルートは、新潟駅→(信越本線)→新津駅→(磐越西線)→郡山駅→(東北本線)→岩切駅→(塩釜線)→(旧)塩釜駅、と推定されますが、このうち、廃線となった塩釜線をこの足で辿ることで、現代における「塩釜レール入」を再現してみることとしましょう。
東北本線を右に分岐した先には、いかにも廃線跡な雰囲気を醸し出す、長細い空き地が広がっており、一部が歩道として開放されています。空き地道中にてレンガ橋や勾配標を望みつつも、途中で住宅街を突っ切り、さらに進んで仙石線へと合流すると、塩釜線と仙石線の並走区間になり、一部が遊歩道として整備されています。このまま仙石線と並走し続けると、仙石線「本塩釜駅」こと塩釜線「(旧)塩釜駅」に到着しました。
「本塩釜駅」高架下は、駐車場となっており、その脇に塩釜線「(旧)塩釜駅」のプラットフォーム遺構が残っています。そうすると、「塩釜レール入」とは、このプラットフォームに汽車に到着したら、代金が請求できる契約だったのでしょうか?
いいえ、どうやらこれは旅客用ホームだったようで、貨物のやり取りがあった(旧)塩釜駅の貨物ターミナルは、旅客用ホームから更に奥へ進んで右に曲がった「イオンタウン塩釜」辺りにあったようです。確かに、妙に廊下が長いイオンで、廃線跡を匂わせます。
このように肥料用の大豆粕が運ばれる予定だった塩釜線「(旧)塩釜駅」は、跡形ぐらいしか残っていませんでしたが、原告・丹野六右衛門氏の店舗は、国の登録有形文化財として未だ現存しています(築1914年~)。それが、本塩釜駅((旧)塩釜駅)から西へ約300m進んだ「丹六園」になります。
(なお、被告「合名会社横山本店」は、新潟市中央区上大川前通11番町辺りにあったらしいが、現地へ行ったところ、痕跡は現在なかった。)
「丹六園」は、1720年に丹野六右衛門(初代)が創業した海産物卸商に始まる老舗で、歴代当主が代々「丹野六右衛門」を名乗っています。「塩釜レール入事件」の丹野六右衛門氏は9代目だったようです(現在は12代目?)。
肥料の取り扱いについては、明治時代以降に開始したとのことで、実際、「丹六園」の旧屋号が「丹六肥料問屋」だったことから、「塩釜レール入事件」で9代目・丹野六右衛門氏が被告から購入しようとした肥料用の大豆粕は、他者へ卸売するためものだということが分かります。つまり、「塩釜レール入事件」の損害賠償請求とは、原告自身が肥料を使えなくて困ったから請求するのではなく、商流が滞ったことによる損害だということが良くわかります。
現在、「丹六園」では肥料は取り扱っていないものの、和菓子と陶器を販売しています。特に、「志ほが満」という落雁風の銘菓は、仙台藩にも献上された記録が残るほどです。
ちなみに、丹野六右衛門(10代目)の妻の兄は、民訴法で高名な東北大のS博士(故人)で、その息子も慶應大法学部の名誉教授とのことですが、丹野家親戚の集まりでも「塩釜レール入事件」が話題なったことは一度もなかったようで、店内で対応いただいた丹野家の方も「塩釜レール入事件」は全く知らなかったとのことです。
さて、話を貨物ターミナル(旧)塩釜駅こと「イオンタウン塩釜」に戻しまして、もし現代に「塩釜レール入」を再現するならば、単に「イオンタウン塩釜」に入店するということになるのでしょうが、それだけだと何か味気ないです。やはり、「イオンタウン塩釜」で大豆粕を購入してこそ、現代の「塩釜レール入」っぽいと思います。
ところが、大豆粕は、その名の通り、大豆から油を搾ったカスなので、一見食べられそうですが、現代の主な用途は家畜飼料なので、人間用小売業のイオンでは、そう簡単に大豆粕は購入できなさそうな感じです。
そうすると、イオンで購入できる範囲で、現代の「塩釜レール入」を再現するならば、「イオンタウン塩釜」で「トップバリュ素焼き大豆」を購入、という結論になりました。

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2023年9月19日火曜日
所員旅行で函館に行きました【トラピスチヌの丘事件 商標法51条】
今年の行先は、沖縄(石垣島)or北海道(洞爺湖・函館)or山陰の3つから選択でき、T.T.は無論、北海道(洞爺湖・函館)をチョイスしました。何故ならば、沖縄(石垣島)も山陰も商標事件が特にない一方で、北海道の旅程には、函館の「トラピスチヌ修道院」見学があり、ここは「トラピスチヌの丘事件」で知られているからです。
「トラピスチヌの丘事件」(平成7年(行ケ)17号)とは、登録1272868号「トラピスチヌの丘」(30類「キヤンデ-、その他の菓子パン」)について、その商標権者S社(原告)が、「トラピスチヌの丘クッキー」や「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」の表示を用いたクッキー販売していたところ、登録841980号「トラピスチヌバタ-飴」や 登録1155483号「トラピスチヌ\TRAPPISTINES」を用いてクッキーやバター飴を販売していた「天使の聖母トラピスチヌ修道院(被告)」から、商標法51条の不正使用取消審判を請求された事件です(昭61-023859)。
東京高裁は、次の理由により、S社が、故意に指定商品について登録商標に類似する商標を使用し、「トラピスチヌ修道院」の商品と混同を生じさせるおそれがあると認定し(商51条1項)、登録1272868号「トラピスチヌの丘」は登録取消となりました。
<登録商標と使用商標の類似性>
「トラピスチヌの丘クッキー」の表示は、「の丘」の文字部分が小さく表示され、「トラピスチヌ」の文字部分が注意を惹く構成となっていることから、登録1272868号「トラピスチヌの丘」と使用商標「トラピスチヌの丘クッキー」は、称呼・観念が共通するものの、外観が異なるため、互いに類似する商標であるとしました。
また、「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」の表示についても、「THE HILL OF TRAPPISTINES」の文字部分が、登録1272868号「トラピスチヌの丘」を英訳したものと容易に理解し得ることから、登録1272868号「トラピスチヌの丘」と使用商標「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」は、観念が同一であるため、互いに類似する商標であるとしました。
<出所混同の有無>
「トラピスチヌ修道院」や、そこで製造・販売されているクッキー等は、一般に広く知られており、また、S社のクッキーは、「トラピスチヌ」や「TRAPPISTINES」の文字を強調するように表示し、その外装箱には「トラピスチヌ修道院」の建物や聖女像を描いた図柄が表示されていることを考慮すると、S社の「トラピスチヌの丘クッキー」は、「トラピスチヌ修道院」の販売する商品であるとの出所混同を生じさせるおそれがあるとしました。
「トラピスチヌ修道院」は、60人程の修道女が暮らす女子修道院ですが、男子の私であっても、敷地内を自由に見学することはできます。S社の「トラピスチヌの丘クッキー」の外装箱に描かれた建物や聖女像は、「トラピスチヌの丘事件」の名の通り、丘の上にあり、聖堂・司祭館と聖テレジア像になります。
ただし、S社の「トラピスチヌの丘クッキー」外装箱の図柄と同じ構図で写真を撮ろうと思っても、聖テレジア像の後ろにある垣根に阻まれるため、この構図を完全再現することは物理的に不可能です。
裁判で登場した「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、修道院敷地内の売店「天使園」で購入することができ、プレーン味とココナッツ味があります。一方、同じく裁判で登場したバター飴は、現在、販売されていないようでした。
ここで勘違いしてはいけないのが、「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、有名な函館土産「トラピストクッキー」とは別物ということです。一見すると、「トラピスチヌ」も「トラピスト」も似たような単語なので、両者は同一商品に思えますが、「トラピストクッキー」は、函館市の左隣・北斗市にある男子修道院「トラピスト修道院」で製造・販売されたものであり、その出所は全く異なります。
両クッキーは、入手難易度にも差があり、有名な「トラピストクッキー」は、函館山や五稜郭タワー等、函館の至る所で購入できますが、「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、修道院敷地内の売店「天使園」でしか購入できない希少品です。
ちなみに、「トラピスチヌ修道院」一押しの菓子は、別にクッキーではなく、事件とは全然無関係の「フランスケーキマダレナ(登録812156号)」のようでした。
さて、登録1272868号「トラピスチヌの丘」は、商標法51条1項の不正使用に該当するとして、登録取消となってしまいましたが、S社からは、「トラピストの丘」というチーズタルトが未だ販売されており、函館の至る土産コーナーで見かけることができます。当然、「トラピストの丘」もS社により商標登録されています(登録840720号)。
「トラピストの丘」は、先ほどの男子修道院「トラピスト修道院」が由来なのは明らかであり、パッケージをよーく見ると、「トラピストの丘」の文字の背面に「トラピスト修道院」の建物の図柄が薄っすーら描かれていることからも窺えます。
では、登録840720号「トラピストの丘」は、商標法51条の不正使用取消審判を請求されなかったのかというと、もちろん、「トラピスト修道院」から請求されていました(取消2007-301474)。ただし、「トラピスチヌの丘」とは逆の結論のようで、登録840720号「トラピストの丘」は登録が維持されました。

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