2023年12月11日月曜日

「ひよ子」饅頭の工場見学に行ってきました【ひよ子立体商標事件 商3条2項】

 

 商標弁理士のT.T.です。
 12月といえば、クリスマスシーズンということで、「カーネル・サンダース人形」の立体商標登録4153602)でお馴染みKFC」のチキンが食べたくなる季節となりました。でも、今年のクリスマスは、立体商標は立体商標でも、チキンはチキンでも、「ひよ子立体商標事件」の「ひよ子」饅頭とかいかがですか? 

 指定商品を「まんじゅう」とした「ひよ子」立体商標のように、商品の形状そのもの表したに過ぎない立体商標は、通常、識別性がないとして登録が認められません(313)。しかし、「ひよ子」立体商標は、長年の使用による全国的な周知性を獲得したことが立証され、識別力を有しているとして、商標法32項を適用して登録が認められました(登録4704439号、権利者:株式会社ひよ子(被告))。 

登録4704439号 30類「まんじゅう」

2023年12月4日月曜日

クリスマスケーキに「athlete Chiffon」はいかがですか?【athlete Chiffon事件 商3-1-3】

 商標弁理士のT.T.です。
 12月といえば、クリスマスシーズンということで、ケーキが食べたくなる季節となりましたが、商標弁理士的おススメなクリスマスケーキに、「athlete Chiffon」はいかがですか?
 何故おススメかといえば、今秋出来立てホヤホヤの審決取消訴訟「athlete Chiffon事件」があったからです。
(写真:athlete Chiffon

 「athlete Chiffon事件」(令和5(行ケ)10038)とは、商願2021-093231athlete Chiffon(標準文字)」(43類 飲食物の提供等)について、その識別性を争った事件です。

商願2021-093231 43類 飲食物の提供等

 知財高裁は、まず、「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等といった、運動選手向けであるという商品又は役務を表すものとして「アスリート(athlete)」の文字を語頭に配した語が広く使用される実情があると認定しました。また、「バナナシフォン」「バレンタインシフォン」等といった、語頭に提供対象・原材料・味を表す語が配された場合、語頭の部分は、後半に続く「シフォンケーキ」の種類、内容を表すものであると容易に理解できると認定しました。

2023年11月6日月曜日

子育て世代と商標弁理士に魅力的な街・流山市おおたかの森【おおたかの森事件 50条・正当な理由】

 商標弁理士のT.T.です。
 T.T.の周囲にも既婚者・子育て世代が多くなってきており、彼らが好む話題といえば、「どの場所が住みやすい」とか「どの場所が子供の教育によい」ばかりで、実家暮らしの独身貴族T.T.には、会話内容についていけない一抹の寂しさを感じることがあります。そんな既婚者・子育て世代たちにとっては、特に「千葉県流山市・おおたかの森」が魅力的な場所のようです。 

 確かに、「千葉県流山市・おおたかの森」は、つくばエクスプレスと東武野田線がクロスする「流山おおたかの森駅」を中心にショッピングセンターやマンションが割拠し、既婚者・子育て世代には魅力的に映る街なのでしょう。そして、商標弁理士にとっては、不使用取消審判の「正当な理由」(商標法502項但書)が争点となった事件「おおたかの森事件」としても魅力的な街なのです。

おおたかの森事件」(平成20年(行ケ)1034410160)とは、流山市在住のX(個人)の登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」に対して、流山市で「おおたかの森」という純米吟醸酒等を製造販売していた酒小売業「有限会社かごや商店」が「33類 日本酒,洋酒,果実酒」について、また、同じく流山市で「おおたかの森」という和菓子を製造販売していた和菓子屋「菓匠 美しまや」Y(個人)が「30類 和菓子,洋菓子,飴菓子」について、それぞれ不使用取消審判を請求した事件です(取消2007-300926・取消2007-301260)。

登録4786694

2023年10月23日月曜日

商標弁理士♂がバレナイ二重を付けても本当にバレないか?【バレナイ二重事件 商標権の効力の制限(26条)】


 商標弁理士の
T.T.です。
 T.T.は、まだ弁理士受験生だった頃、渋谷の予備校代を捻出するために、渋谷のドラッグストアで品出しバイトをしていたことがありました。 

品出しで特に大変と感じていたのが、T.T.とは縁もない、女性用化粧品の陳列でしょう。多岐にわたる用途がある女性用化粧品は、覚えるのが大変でしたが、知見を広げられた点では有意義だったと思います。 

そんな女性用化粧品の中で、特に印象的だったのが、ノーブル株式会社の「バレないふたえ」という商品です。その名の通り、バレないように二重を作るためのテープですが、そこまでして二重になりたいのかと、美に対する女性の執念に驚かされました。

(写真:ノーブル株式会社の「バレないふたえ」)
 

ところが、「バレないふたえ」は正式名称ではなく、本当の商品名は「Prudor(プリュドール)」という罠です。確かに、「バレないふたえ」の文字は、大きく明瞭な書体で目立つように表示されている一方で、その上方でPrudor(プリュドール)」の文字が、小さくやや不明瞭に表示されており、一見しても、「バレないふたえ」が商品名のように思えてしまいます。

2023年10月16日月曜日

喜多方ラーメン御三家から見える地域団体商標「喜多方ラーメン」の登録可能性 #チザラー

 

 商標弁理士の
T.T.です。
 ところで、202311月に、テレビゲームの人気シリーズ「桃太郎電鉄」の最新作が発売されるそう。「桃太郎電鉄」とは、ざっくり言えば、KONAMI鉄道会社版モノポリーで、全国の駅近物件を買い漁りながら、金儲けをするゲームです。購入できる駅近物件には、宇都宮駅の「ギョーザ屋」や、舞浜駅の「某テーマパーク」と、ご当地色が出ていますが、その中でコスパが良い駅の一つとして知られるのが、喜多方駅の「喜多方ラーメン屋」でしょう。

(写真:JR磐越西線・喜多方駅)

 喜多方ラーメンとは、その名の通り福島県喜多方市が発祥で、「平打ち熟成多加水麺」と呼ばれる麺が使用されたラーメンを指します。小麦粉に加えた水分の割合が35%以上(多加水)の生地を、「熟成」させることでコシが増し、麺の断面が長方形になるよう平たく打たれることで(平打ち)、スープが絡みやすくなった縮れとモチモチ食感が特徴となっています。
(写真:喜多方ラーメン)

 また、喜多方ラーメンといえば、「札幌ラーメン」「博多ラーメン」と共に、日本三大ラーメンの一つとして数えられ、ラーメン界では大変知られているでしょう。商標界においても、地域団体商標の登録要件の一つ「需要者の間で広く認識されている(商標法7条の2第1項)」が争われた喜多方ラーメン事件」としても大変知られています。 

 「喜多方ラーメン事件」(平成21(行ケ)10433)とは、「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」が、地域団体商標・商願2006-29479喜多方ラーメン」(43類「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」)を出願したところ、本願商標は、出願人又はその構成員の業務に係る役務を表示するものとして、福島県及びその隣接県の需要者の間で広く認識されていないことから、地域団体商標の登録要件を満たしていないとして拒絶審決となり、その審決取消訴訟で登録の可否が争われた事件です。

 知財高裁は、①喜多方市内のラーメン店の協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」への加入状況は、多く見積もって6割弱であり、未加入者には全国的に知られる「A食堂」等の有力店舗もあった事情、「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」の構成員でない者(「喜多方ラーメン蔵」や「喜多方ラーメン坂内」のチェーン店等)が、喜多方市外で相当期間「喜多方ラーメン」の表示を使用等していた事情を勘案した結果、審決同様に、商願2006-29479「喜多方ラーメン」の周知性が否定され(商標法7条の2第1項違反)、商標登録は認められませんでした。

地域団体商標・商願2006-29479

 喜多方ラーメンというと、自然発生的に登場したようにも思えますが、実は、列記とした元祖があり、藩欽星さん(故人)が生み出したと言われています。
 藩欽星さんは、中国浙江省生まれですが、1925年に来日し、1927年に鉱山で働く伯父を頼って、喜多方へやって来ました。そこで、見よう見まねで打った中華麵を屋台で売っていたことが、喜多方ラーメンの始まりとなりました。

  今でも、喜多方市には、藩欽星さんの子孫によって中華料理屋「源来軒」が営業されています。「源来軒」は「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」の構成員のようで、軒先には「老麺会」の垂れ幕が掲げられていました。

(写真:源来軒


 さて、喜多方市には「喜多方ラーメン御三家」というものがあり、先ほどの元祖「源来軒」に加え、市内の人気店舗「満古登食堂(まこと食堂)」と「坂内食堂」の3つとなります。

 「満古登食堂」は、醤油スープの人気店となります。ところが、「満古登食堂」は、「喜多方のれん会」という組合には加入していますが、「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」には加入していません。どうやら、判決文に登場する有力店舗「A食堂」とは、「満古登食堂」のことを指していたようです。

(写真:満古登食堂

※満古登食堂は、2023930日に閉店し、76年の歴史に幕を閉じた。

 そして、「坂内食堂」は、塩味スープの人気店となります。こちらの方は、「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」に加入しています。

(写真:坂内食堂)

 ところが、この「坂内食堂」から暖簾分けで登場したのが、判決文にも登場するチェーン店「喜多方ラーメン坂内」です。「喜多方ラーメン坂内」は、もちろん「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」に加入しておらず、関東を中心に全国60店舗以上も展開しており、「喜多方ラーメン」の普通名称化に貢献しています。

(写真:喜多方ラーメン坂内 内幸町ガード下店

 このように、元祖「源来軒」は特に異論がないとしても、「満古登食堂」の組合未加入と、「坂内食堂」の暖簾分けによる普通名称化は、「喜多方ラーメン」における「協同組合 蔵のまち喜多方老麺会」らの出所表示としての周知性を否定する一因になっています。「喜多方ラーメン御三家」であっても、地域団体商標登録要件としての足並みが揃っておらず、そりゃ、地域団体商標「喜多方ラーメン」は、登録が厳しいのも納得な感じがしました。 

 ちなみに、喜多方市は「蔵のまち喜多方」という側面もあり、むしろ、昔は喜多方ラーメンよりも知られていた程です。喜多方の蔵の街並みは、キャンディ・キャンディ事件の倉敷と比べても、食べ歩きの店とかは特にありませんが、かえって写真映えする景色が広がり、2時間程でサクッと循環できます。なお、喜多方ラーメン御三家の方は、全部巡るのに、並び時間も含め、のべ5時間かかりました。

(T.T.)

(写真:喜多方の蔵の街並み)


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2023年10月2日月曜日

JR「塩釜線」廃線跡で巡る「塩釜レール入事件」【民法92条 慣習】

 商標弁理士のT.T.です。
 いつも知財系の事件ばかり追っており、今回も東北地方の知財事件の地を巡っていたのですが、途中、日本酒「浦霞」で有名な宮城県塩釜市を通るということで、せっかくだから民法の超有名判例「塩釜レール入事件」の地を巡るべく、途中下車することにしました。 

 「塩釜レール入事件」(大正10()2号)とは、民法92条の「慣習」に関する判例です。

民法92
 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。

 塩釜在住の「丹野六右衛門(原告)」氏が、新潟市の「合名会社横山本店(被告)」から肥料用大豆粕を購入する売買契約を結び、約款では430日に「塩釜レール入」で引渡すとしました。「塩釜レール入」とは、荷物が塩釜駅に到着した後に代金を請求できるという「商慣習」です。 

 しかし、引渡し期日になっても大豆粕が届かなかったため、「丹野六右衛門」氏は「合名会社横山本店」に対し、622日に催告をしたうえで、契約を解除し、債務不履行による損害賠償を請求しました。 

 「合名会社横山本店」は、「丹野六右衛門」氏が代金を支払っていないから、大豆粕を送付する義務は負わないという同時履行の抗弁権(民法533条)の主張をしました。
 しかし、大審院は、「塩釜レール入」が「商慣習」であると認定し、民法92条の適用により、同時履行の抗弁権は認められませんでした。 

 また、「合名会社横山本店」は、仮に「塩釜レール入」の慣習があったとしても、民法92条の「その慣習による意思」があったかは、「丹野六右衛門」氏が立証すべきであり、原判決は証拠に基づかず「その慣習による意思」を認定したため、立証責任の原則に反すると主張しました。
 しかし、大審院は、意思解釈の材料となる事実上の慣習が存在する場合、当事者がその慣習を知っていて、特に反対の意思を表示していないときは、その慣習による意思があると推定するのが相当であるとして、その主張を退けました。 

 以上のことから、「合名会社横山本店」の債務不履行による「丹野六右衛門」氏の損害賠償請求が認定されました。

 「塩釜レール入事件」の舞台となった「塩釜駅」は、確かに、JR東北本線に実在する駅名ですが、これは1959年に新設された駅であり、事件当時、大正時代の「塩釜駅」は別の場所にありました(以下、古い方を「()塩釜駅」という。)。「()塩釜駅」は、塩釜駅から北東へ約1.4km、現在のJR仙石線「本塩釜駅」辺りにあり、事件当時は、東北本線の支線「塩釜線」の終着駅でした。

(写真:現在の東北本線・塩釜駅)

(画像:東北本線・塩釜線・仙石線の路線図)

※仙石線は「塩釜レール入事件」後の1925年に開通。
※塩釜線は、仙石線と合流後、本塩釜駅辺りまで並走。

 塩釜線」は、元々、東北本線の一部として1887年に開通し、当初の「()塩釜駅」は東北本線の終着駅でした。1890年には、東北本線が北へ延伸されることにより、岩切駅から()塩釜駅までが、東北本線の支線となり、後に「塩釜線」と呼ばれるようになりましたが、その後、1997年に「塩釜線」は廃線となってしまいました。 

 そうすると、「塩釜レール入事件」当時の大豆粕輸送ルートは、新潟駅→(信越本線)→新津駅→(磐越西線)→郡山駅→(東北本線)→岩切駅→(塩釜線)→()塩釜駅、と推定されますが、このうち、廃線となった塩釜線をこの足で辿ることで、現代における「塩釜レール入」を再現してみることとしましょう。

 

 塩釜線は、岩切駅が始点でしたが、国府多賀城駅と塩釜駅との間までは東北本線と並走していました。国府多賀城駅から塩釜駅へ至るとき、東北本線は左へカーブしますが、これに対し塩釜線は右へ分岐します。
(写真:左2線が東北本線、右1線が塩釜線跡(国府多賀城駅近くの踏切))

(写真:下り方面(塩釜駅方面)、左側からカーブする東北本線)

 東北本線を右に分岐した先には、いかにも廃線跡な雰囲気を醸し出す、長細い空き地が広がっており、一部が歩道として開放されています。空き地道中にてレンガ橋勾配標を望みつつも、途中で住宅街を突っ切り、さらに進んで仙石線へと合流すると、塩釜線と仙石線の並走区間になり、一部が遊歩道として整備されています。このまま仙石線と並走し続けると、仙石線「本塩釜駅」こと塩釜線「()塩釜駅」に到着しました。

(写真:廃線跡を匂わせる長細い空き地)

(写真:塩釜線レンガ橋跡)

(写真:勾配標(写真左))

(写真:仙石線(右)と並走する塩釜線跡の遊歩道)

(写真:(旧)塩釜駅があった本塩釜駅

 「本塩釜駅」高架下は、駐車場となっており、その脇に塩釜線「()塩釜駅」のプラットフォーム遺構が残っています。そうすると、「塩釜レール入」とは、このプラットフォームに汽車に到着したら、代金が請求できる契約だったのでしょうか?

(写真:本塩釜駅高架下の(旧)塩釜駅プラットフォーム跡)

 いいえ、どうやらこれは旅客用ホームだったようで、貨物のやり取りがあった()塩釜駅の貨物ターミナルは、旅客用ホームから更に奥へ進んで右に曲がった「イオンタウン塩釜辺りにあったようです。確かに、妙に廊下が長いイオンで、廃線跡を匂わせます。

(写真:(旧)塩釜駅の貨物ターミナルがあったイオンタウン塩釜

 このように肥料用の大豆粕が運ばれる予定だった塩釜線「()塩釜駅」は、跡形ぐらいしか残っていませんでしたが、原告・丹野六右衛門氏の店舗は、国の登録有形文化財として未だ現存しています(築1914年~)。それが、本塩釜駅(()塩釜駅)から西へ約300m進んだ「丹六園」になります。

(写真:丹六園)

(なお、被告「合名会社横山本店」は、新潟市中央区上大川前通11番町辺りにあったらしいが、現地へ行ったところ、痕跡は現在なかった。) 

 「丹六園」は、1720年に丹野六右衛門(初代)が創業した海産物卸商に始まる老舗で、歴代当主が代々「丹野六右衛門」を名乗っています。「塩釜レール入事件」の丹野六右衛門氏は9代目だったようです(現在は12代目?)。 

 肥料の取り扱いについては、明治時代以降に開始したとのことで、実際、「丹六園」の旧屋号が「丹六肥料問屋」だったことから、「塩釜レール入事件」で9代目・丹野六右衛門氏が被告から購入しようとした肥料用の大豆粕は、他者へ卸売するためものだということが分かります。つまり、「塩釜レール入事件」の損害賠償請求とは、原告自身が肥料を使えなくて困ったから請求するのではなく、商流が滞ったことによる損害だということが良くわかります。 

 現在、「丹六園」では肥料は取り扱っていないものの、和菓子と陶器を販売しています。特に、「志ほが満」という落雁風の銘菓は、仙台藩にも献上された記録が残るほどです。

(写真:銘菓「志ほが満」)

 ちなみに、丹野六右衛門(10代目)の妻の兄は、民訴法で高名な東北大のS博士(故人)で、その息子も慶應大法学部の名誉教授とのことですが、丹野家親戚の集まりでも「塩釜レール入事件」が話題なったことは一度もなかったようで、店内で対応いただいた丹野家の方も「塩釜レール入事件」は全く知らなかったとのことです。

 

 さて、話を貨物ターミナル()塩釜駅こと「イオンタウン塩釜」に戻しまして、もし現代に「塩釜レール入」を再現するならば、単に「イオンタウン塩釜」に入店するということになるのでしょうが、それだけだと何か味気ないです。やはり、「イオンタウン塩釜」で大豆粕を購入してこそ、現代の「塩釜レール入」っぽいと思います。 

 ところが、大豆粕は、その名の通り、大豆から油を搾ったカスなので、一見食べられそうですが、現代の主な用途は家畜飼料なので、人間用小売業のイオンでは、そう簡単に大豆粕は購入できなさそうな感じです。
 そうすると、イオンで購入できる範囲で、現代の「塩釜レール入」を再現するならば、「イオンタウン塩釜」で「トップバリュ素焼き大豆」を購入、という結論になりました。

(T.T.)






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2023年9月19日火曜日

所員旅行で函館に行きました【トラピスチヌの丘事件 商標法51条】

 商標弁理士のT.T.です。
 創英のイベントの1つに所員旅行があり、例のウイルスにより永らく行われませんでしたが、2023年より再開することとなりました。

今年の行先は、沖縄(石垣島)or北海道(洞爺湖・函館)or山陰の3つから選択でき、T.T.は無論、北海道(洞爺湖・函館)をチョイスしました。何故ならば、沖縄(石垣島)も山陰も商標事件が特にない一方で、北海道の旅程には、函館の「トラピスチヌ修道院」見学があり、ここは「トラピスチヌの丘事件」で知られているからです。

 「トラピスチヌの丘事件」(平成7(行ケ)17)とは、登録1272868号「トラピスチヌの丘」(30類「キヤンデ-、その他の菓子パン」)について、その商標権者S社(原告)が、「トラピスチヌの丘クッキー」や「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」の表示を用いたクッキー販売していたところ、登録841980号「トラピスチヌバタ-飴」や 登録1155483号「トラピスチヌ\TRAPPISTINES」を用いてクッキーやバター飴を販売していた「天使の聖母トラピスチヌ修道院(被告)」から、商標法51条の不正使用取消審判を請求された事件です(昭61-023859)。

登録1272868

(S社の使用商標:外装箱の「トラピスチヌの丘クッキー」)

(S社の使用商標:包装袋の「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」)

 東京高裁は、次の理由により、S社が、故意に指定商品について登録商標に類似する商標を使用し、「トラピスチヌ修道院」の商品と混同を生じさせるおそれがあると認定し(商511項)、登録1272868号「トラピスチヌの丘」は登録取消となりました。 

<登録商標と使用商標の類似性>
 「トラピスチヌの丘クッキー」の表示は、の丘」の文字部分が小さく表示され、トラピスチヌ」の文字部分が注意を惹く構成となっていることから、登録1272868号「トラピスチヌの丘」と使用商標「トラピスチヌの丘クッキー」は、称呼・観念が共通するものの、外観が異なるため、互いに類似する商標であるとしました。

また、「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」の表示についても、「THE HILL OF TRAPPISTINES」の文字部分が、登録1272868「トラピスチヌの丘」を英訳したものと容易に理解し得ることから、登録1272868号「トラピスチヌの丘」と使用商標「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」は、観念が同一であるため、互いに類似する商標であるとしました。 

<出所混同の有無>
 「トラピスチヌ修道院」や、そこで製造・販売されているクッキー等は、一般に広く知られており、また、S社のクッキーは、「トラピスチヌ」や「TRAPPISTINES」の文字を強調するように表示し、その外装箱には「トラピスチヌ修道院」の建物や聖女像を描いた図柄が表示されていることを考慮すると、S社の「トラピスチヌの丘クッキー」は、「トラピスチヌ修道院」の販売する商品であるとの出所混同を生じさせるおそれがあるとしました。 

<故意の有無>
 S社は、「トラピスチヌ修道院」と同じ函館市内で営業していたこと、また、長年に渡り「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」の表示を用いたクッキー等が、「トラピスチヌ修道院」より製造・販売されていた事実が一般に知られていること、さらに、S社の使用商標が、「トラピスチヌ」及び「TRAPPISTINES」を強調した構成であったこと等を考慮すると、S社は、商品が出所混同を生じさせることを当然に認識していたとして、その故意が認定されました。

トラピスチヌ修道院」は、60人程の修道女が暮らす女子修道院ですが、男子の私であっても、敷地内を自由に見学することはできます。S社の「トラピスチヌの丘クッキー」の外装箱に描かれた建物や聖女像は、「トラピスチヌの丘事件」の名の通り、丘の上にあり、聖堂・司祭館聖テレジア像になります。 

(写真:トラピスチヌ修道院)

(写真:聖堂・司祭館)

(写真:テレジア(19世紀の聖人)の像)

ただし、S社の「トラピスチヌの丘クッキー」外装箱の図柄と同じ構図で写真を撮ろうと思っても、聖テレジア像の後ろにある垣根に阻まれるため、この構図を完全再現することは物理的に不可能です。 

(写真:S社の外装箱と同じ構図は再現不可)

 裁判で登場した「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、修道院敷地内の売店「天使園」で購入することができ、プレーン味とココナッツ味があります。一方、同じく裁判で登場したバター飴は、現在、販売されていないようでした。

(写真:天使園)

(写真:トラピスチヌ修道院のクッキー)

 ここで勘違いしてはいけないのが、「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、有名な函館土産「トラピスクッキー」とは別物ということです。一見すると、「トラピスチヌ」も「トラピス」も似たような単語なので、両者は同一商品に思えますが、「トラピストクッキー」は、函館市の左隣・北斗市にある男子修道院「トラピスト修道院」で製造・販売されたものであり、その出所は全く異なります。
 両クッキーは、入手難易度にも差があり、有名な「トラピスクッキー」は、函館山や五稜郭タワー等、函館の至る所で購入できますが、「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、修道院敷地内の売店「天使園」でしか購入できない希少品です。 

(写真:トラピストクッキー)

 ちなみに、「トラピスチヌ修道院」一押しの菓子は、別にクッキーではなく、事件とは全然無関係の「フランスケーキマダレナ(登録812156号)」のようでした。 

(写真:フランスケーキマダレナ)

 
 さて、登録1272868号「トラピスチヌの丘」は、商標法511項の不正使用に該当するとして、登録取消となってしまいましたが、S社からは、「トラピスの丘」というチーズタルトが未だ販売されており、函館の至る土産コーナーで見かけることができます。当然、「トラピスの丘」もS社により商標登録されています(登録840720号)。

(写真:トラピストの丘)

(登録840720号

 「トラピストの丘」は、先ほどの男子修道院「トラピスト修道院」が由来なのは明らかであり、パッケージをよーく見ると、「トラピストの丘」の文字の背面に「トラピスト修道院」の建物の図柄が薄っすーら描かれていることからも窺えます。

(写真:「トラピストの丘」の背面に修道院建物が薄っすら写る)

 では、登録840720号「トラピスの丘」は、商標法51条の不正使用取消審判を請求されなかったのかというと、もちろん、「トラピス修道院」から請求されていました(取消2007-301474)。ただし、「トラピスチヌの丘」とは逆の結論のようで、登録840720号「トラピスの丘」は登録が維持されました。

 取消2007-301474の審決によれば、S社の使用商標「トラピストの丘」は、「トラピスト」の文字部分のみを強調することなく一連一体の構成からなるところ、S社の登録840720号「トラピストの丘」とは色彩と書体を異にする類似商標であるとしましたが、トラピスト修道院が使用する「トラピスト商標」とは明らかに別異のものであるから、S社が、商品が出所混同を生じさせることを認識していたとは認められなかったため、登録840720号「トラピストの丘」は、商標法511項の不正使用に該当しないと判断されたとのことです。 
(トラピスト修道院の「トラピスト商標」)
  このように、「トラピスチヌの丘」と「トラピスの丘」では、使用商標を一連一体に表示するか否か、そして、外装箱に建物等の図柄を目立つように描いたか否かで、故意出所混同判断が分かれた点では、商標法51条の不正使用取消審判の事例として、興味深いものと思います。 

 ここまで長文を書いていて、まるでT.T.は「トラピスチヌ修道院」に命賭けてたみたいになっていますが、実は、所員旅行のスケジュール3日(9月8日~10日)の中で、「トラピスチヌ修道院」を見学してたのは、たった30分ほどに過ぎません。
 所員の皆は、花より団子ということで、修道院よりも、そこに隣接する「市民の森売店」の超美味しいソフトクリームを夢中に嘗め回していましたが、T.T.は、修道院を嘗め回すように見学していました(おかげで、修道院前での集合写真撮影に危うく遅刻しそうになった。)。
(T.T.)

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