2022年1月26日水曜日

(商標法的)オススメな京都スイーツは何ですか?【PAPA JOHN’S事件(50②但書)】

 商標弁理士のT.T.です。

 突然ですが、京都旅行で食べるスイーツといえば、何でしょうか?やはり、老舗の和菓子でしょうか?それとも、宇治抹茶パフェ?宇治碾茶パフェ?(一応地域団体商標だし?)

いいえ。商標弁理士の私ならば、PAPA Jon’s」のチーズケーキがイチオシです!何故ならば、商標法的には、「PAPA JOHN’S事件」があったからでしょう。

PAPA JOHN’S事件」とは、京都のチーズケーキ屋「PAPA Jon’sが、米国巨大ピザチェーン「PAPA JOHN’S(日本未進出)の所持する登録3199279号「PAPA JOHN’S」(30類 ピザ)等に対し、不使用取消審判を請求した事件で、いわゆる準備行為等が、商標を使用していなかったことの「正当な理由」(商標法502項但書)となるか争点になったことで知られています知財高裁 平成17年(行ケ)1009510098号)。


(左:登録3292534号、右:登録3199279号)

 商標権者たる米国巨大ピザチェーン「PAPA JOHN’Sは、日本進出の提携先を探すため、複数の日本企業と交渉や、自社ウェブページ(英語)や「Newsweek」等でフランチャイジー募集広告を出す等、準備行為を行っていましたが、未だ日本進出を果たせず審判請求登録前3年以内に日本国内においてピザを販売・提供していませんでした。

ところが審決では、商標権者には、日本では「ピザハット」や「ドミノピザ」が既に進出していたことや、マスター・フランチャイジー(提携先)としてふさわしい資力・資格を持った日本企業が少なく、捜すことには困難を伴い一定の時間を要する等、「責めに帰すことができない事情」が存在していたことから、「(商標権者が)具体的な準備が進めてきており,本件商標について真摯なる使用の意思が認められるから,正当な理由がある」として、請求は棄却されました(取消2003-030606~取消2003-030609)。

しかしながら、その審決取消訴訟知財高裁 平成17年(行ケ)1009510098号)にて、知財高裁は、上記「責めに帰すことができない事情」について、商標権者の内部事情 (経営判断により本件商標を日本国内において使用することは十分に可能であった)にすぎず、「正当な理由」には該当しないと判断したことから、審決が取消されました(つまり、米国巨大ピザチェーン「PAPA JOHN’S」の商標登録登録3199279等)は取消された。)。 

 なお、青本その他参考書を見ても、「正当な理由」とは、①天災地変、②第三者の故意・過失に起因するもの、③法令による使用禁止、が挙げられており、「準備行為」が例示されていないため、単に商標の使用の準備をしていただけでは、商標登録が取り消されてしまう可能性が高いように思えます。

 

 さて、京都のチーズケーキ屋「PAPA Jon’sは、チャールズ・ローシェ氏が故郷ニューヨークの味を楽しんでもらおうと開業したお店です(公式サイト)。その名のとおり、チャールズ・ローシェ氏の父親が店名の由来であり、「Jon」は父親のファーストネームで、ロゴの中心に表示されているのは父親の肖像とのこと。


(画像:登録5044664号 30類「菓子及びパン」等、43類「飲食物の提供」等)

創業者がアメリカ人ということで、外資系企業と思いきや、バリバリの地元ローカル企業であり、京都御所北側の本店の他、京都市内にのみ数店舗を展開しています。だから、京都名物と言っても過言ではないのです!
 
 そして、「PAPA Jon’s」の定番は、「ニューヨークチーズケーキ」です。すごいサクサクです!個人的には、チーズケーキって、しっとりとしたイメージが強いだけに、度肝を抜かれます。 


 ところで、上記「PAPA JOHN’S事件」で係争となったものは「ピザ」でしたが、京都「PAPA Jon’s」でもピザは提供されていました。しかしながら、私が「PAPA Jon’s」に到着したのはオヤツ時であり、そもそも昼食は別で済ましていたので、ピザを食べる気分にありませんでした。

(立て看板にも、ピザが提供されていることが書いてある。)

 その代わりに購入したのが、クッキーです。たまたま目の前を歩いてた地元ヤンキーが、「ここ
PAPA Jon’sのクッキーメチャメチャおいしんだぜ!」って立ち話してたのを盗み聞きしてしまったので、衝動買いしちゃいました。

クッキーも、粉モンで、円盤形状なので、実質ピザを食べたようなものでしょう。「ニューヨークチーズケーキ」と同じくサクサクで、もちろんヤンキーの言った通りおいしかったです。

T.T.


にほんブログ村
にほんブログ村

2022年1月20日木曜日

おもしろ駅弁容器と商標

 商標弁理士のT.T.です。
 当ブログでもご存じのとおり、私は色んな場所へ行ってますが、旅のスタイルは基本的に鉄道です。その理由はいつか語るとして、やはり鉄道旅の楽しみの一つが、駅弁だと思います。
 そんな駅弁好きにたまらないイベント、「57回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」が、202217日~20日まで京王百貨店新宿で開催されていました。
 私が、そこでお目当てにしたのが、「新SL大樹日光埋蔵金弁当プレミアム(東武日光線 東武日光駅)」。一見、お子様ランチに見えて、中身は鱒寿司の高級駅弁です(2000円)。

 そうです。
 私は、駅弁の中でも、食べることではなく、おもしろい形状の容器を集めることを楽しみにしているのです!



 なぜ私が、おもしろ駅弁容器のコレクションに魅了されてしまったかといえば、弁理士試験合格直後の冬、青春18きっぷで、最南端「西大山駅」~最北端「稚内駅」の日本南北縦断をしていた時、食した駅弁がきっかけでした。それは、国境の長いトンネルを抜けた末、購入した「雪だるま弁当」(三新軒 新潟県・新津駅)。
 雪だるまの形状をした可愛い弁当箱に具材が詰め込まれており、食べ終わった後は、貯金箱にすることができます。
 その「雪だるま弁当」の容器裏側には、「意匠登録出願済」という興味深い刻印があります。
 「特許出願済」という広告は良く見ますが、「意匠登録出願済」は中々お目にかかれない(私だけ?)。「意匠登録出願済」という表示は、先願主義との関係では問題になるのかもしれませんが、おそらく「雪だるま弁当」は意匠登録されていないことから、意匠権的には単なるハッタリかもしれない?!

 そういうことで、駅弁に表示された「意匠登録出願済」の刻印から、駅弁容器と知的財産法との関係性をますます知りたいと思い、おもしろ駅弁容器のコレクションを始めたわけです。

 

 ところで、この「雪だるま」は、商標登録もされていました(登録2204704号・登録2215284号・登録2215880号・登録2302246号 但し現在、全て権利失効)。

(登録2204704号など)

 「雪だるま」の商標登録は、立体商標制度が施行された199741日以前の商標登録出願なので、全部平面図形です。なぜか指定商品は、「弁当箱」や「弁当」ではなく、21類「なべ類」や4類「せつけん類(薬剤に属するものを除く)」といった全く関係ないものが指定されており、謎が深まります。
 

それでは、立体商標登録(出願)されている駅弁はあるでしょうか?3つありました。

1つ目が、富山駅弁「ますのすし」(登録5120124号)。「富山ますのすし」の文字や、マスの図形等に識別力があることから、登録されて当然でしょう。

(登録5120124号 30類「ますを使用してなるすし」) 

2つめが、松阪駅弁「モー太郎弁当」(商願2010-30834)。その名のとおり、松阪牛が使用された駅弁です。また、容器の蓋を開けると、童謡「ふるさと」のBGMが流れる点でも、他の駅弁とは一線を画しています。しかしながら、なぜか識別性がない等の理由により拒絶査定となっているようです。

(商願2010-30834 30類「べんとう」)

 3つ目が、高崎駅弁「だるま弁当」(商願2021-25379)。こちらも、識別性がない等の理由で拒絶査定となっています。「だるま弁当」は駅弁の中でもかなり有名であり、1973年からこの駅弁容器のまま販売を継続しており、さらに、だるまの生産量8割が高崎であるといった点から考えても、商標登録の余地はあるように思えますが。

(商願2021-25379 30類「弁当」) 

今回は、おもしろ駅弁容器をテーマにしてみましたが、私も、駅弁容器コレクターとしては、まだまだ修行が足りません。東日本の駅弁は、東京駅の駅弁ショップである程度制覇できましたが、西日本の駅弁はまだまだ集めきれていないからです。最近、二つ名を持つ弁理士が増えているらしい(?)ですが、私もいつかは、「駅弁弁理士(エキベンベンリシ)」を名乗れるよう、これからも精進いたします。

T.T.


にほんブログ村
にほんブログ村

2022年1月11日火曜日

商標登録《第1号》発祥の地(京都)を訪れたら、現在●●になっていた

 商標弁理士のT.T.です。
 第1代特許庁長官が「高橋是清」氏であり、弁理士第1号が「岡村輝彦」博士なのは、以前に当ブログで取り上げたことですが(参照:2021/7/12「弁理士第1号は、スゴい人だった!?」)、そうすると今度は、日本で最初の商標登録(第1号)が気になるわけです。

そもそも我が国の商標制度は、1884年(明治17年)101日に、「明治17年商標条例(太政官布告第19号)」が施行されたことで始まります。施行日と同日に商標登録出願が始まり、188562日に日本で最初の商標登録(第1号)が登場しました(※現在は権利失効)。


(商標登録第1号)

 特許庁データベースのJ-PlatPatでも「最初の公報」を確認できます。
 公報によれば、商標登録1号は、指定商品「第一種膏薬丸薬」で、商標権者「平井祐喜」さんと確認することができます。

さらにググってみると、「宗田文庫図版資料データベース」にて、より詳細なものを確認することができます。それによれば、商標登録1号は、「魚を捌いている途中に指を切り落してしまった男」を表した図形商標のようです。マナ板上に、人差し指が落ちており、とてもナマナマしいです。
 また、商標登録1号は、「養命膏」と呼ばれる傷薬に使用されていたようです。指を切り落としても、くっ付いてしまうぐらい効果があると宣伝したかったのでしょうか?もちろん「養命酒」とは無関係でしょう。

さらに、同データベースによれば、「養命膏」は「京三條通堺町東入北側」で販売されていたことを確認することができます。
 「京三條通堺町東入北側」とは、京都市中京区桝屋町あたりをいい、東西を貫く「三条通」と南北を貫く「堺町通」の交差点の北東部を意味します。



(写真:三条通」と「堺町通」の交差点の北東部)
横切るのが「三条通」、奥へ貫くのが「堺町通」

その詳しい場所を地元住人に聞き込みすると、商標登録1号発祥の地は、なんと、現在「ライオンズマンション」になっていました(1階は、北欧家具の販売店)。
 どうやら、1号商標権者・平井さんの子孫は、30年ほど前に別の場所へ引っ越してしまったようです。それならば、平井さんの子孫は、実は、引っ越し先で薬問屋かドラッグストアを続けているのではないか?と胸を膨らませていましたが、薬の販売自体も50年ほど前に畳んでしまい、全然関係ない職に就いてしまったとのことでした。 

 例え商標登録1号が権利失効したとしても、何らか違う形で、業務上の信用だけでも存続して欲しかっただけに、我が国の商標法制史的には残念でなりません。せめて、「京三條通堺町東入北側」に「史蹟 商標登録第壱号之址」の石碑でも建てて欲しい!(下画像参照)


※補足1:写真の「池田屋事件」跡は、現在、居酒屋チェーン「はなの舞」の「旅籠茶屋 池田屋」として営業しており、当時の業務上の信用の面影を残しています(登録5275239)。

 ※補足2:「アロマとチョンマゲの『ムッシューくに』」という個人ブログには、「養命膏」の実物の写真が掲載されています。

T.T.




にほんブログ村
にほんブログ村

2022年1月4日火曜日

商標「氷山事件」の「しょうざん」とは京都の観光名所の名称らしい?!

商標弁理士のT.T.です。

 突然ですが、創英の福利厚生といえば、「東急ハーヴェストクラブ」に宿泊できることです。「東急ハーヴェストクラブ」とは、東急不動産グループが全国展開する会員制リゾートホテルのことで、要は会社の保養所みたいなものです(参照:東急ハーヴェストクラブウェブサイト)。 

その中でも今回は、「東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯」に宿泊することにしましたその場所は、都の西北の地「鷹峯」の「しょうざんリゾート京都」というリゾート施設の敷地内にあります。


(画像 上:しょうざんリゾート京都の看板 下:東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯)


 そうです。
 あの「氷山事件」に登場する「しょうざん」です。

(左:出願商標「氷山」 右:引用商標「しょうざん」)

 「氷山事件」とは、出願商標「氷山」(指定商品:硝子繊維糸)と引用商標「しょうざん」(指定商品:糸)の類否を争った事件であり、最高裁は、両者の称呼が比較的近似する場合であっても、外観と観念が著しく相違し、硝子繊維糸の特殊な取引実情では称呼のみによって商標を識別等することはほとんど行われないとしたため、両者は非類似であると判断しました(最高裁 昭和39年(行ツ)110)。
 下記の「氷山事件」判旨は、我が国の商標の類否判断を基礎づけるものとして、商標に関わる者なら、誰もが知っていることでしょう。

「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」(最高裁 昭和39年(行ツ)110


 「氷山事件」の「氷山」は、上記画像が示す通り、「日東紡績株式会社」の商標であることは知られていますが、「しょうざん」の方は、創業者・松山政雄氏の苗字「松山」を音読みしたものであり、元々、着物メーカーとして創業したものですが、現在では、京都洛北でリゾートホテル・結婚式場・各種飲食店・ゴルフ場等を運営する総合リゾート企業にもなっています。 


(画像:「しょうざんリゾート京都」鳥観図 パンフレットより引用)

 「しょうざん」のリゾート事業の起源は、第2次大戦後すぐまで遡り、着物の製造販売等で財を成した創業者・松山政雄氏が、京都鷹峯に、東京ドーム約2.5個分の土地を購入し、日本庭園を造って一般公開したことに始まるようです(参照:しょうざんリゾート京都ウェブサイト「しょうざん誕生の歴史」)。 

 その日本庭園が、通称「しょうざん庭園」。「しょうざん庭園」は、有料の「北庭」と無料の「南庭」が存在し、北山から移植された樹齢300年~500年の「北山杉」や、各地から移築された古い木造建築物を楽しむことができます。
 なお、「しょうざん(松山)」だからといって、「松」が植えられ、「山」が築かれている訳ではない模様。





 「しょうざん庭園」の他にも、「しょうざんリゾート京都」の敷地内を散策していると、至る所に「しょうざん」の表示を発見することができます。

 「しょうざん」印の立て看板、自動車、アジサイ園・・・商標弁理士からすれば、垂涎ものでしょう。ただし、「氷山事件」の引用商標「しょうざん」と同じフォントのものは、現在使われていないようで、とても心残りでした。


 旅行といえば、お土産です。「しょうざんリゾート京都」には、お土産コーナー「しょうざん 染織工芸館」があります。「しょうざん」製の物のみを取扱っている訳ではなく、
京都の食品・工芸品が幅広く販売されています。

 その中でも私は、「しょうざん」で作られたというシルクウール生地(布切れ)を購入しました。理由は、「氷山事件」の引用商標「しょうざん」(指定商品:糸)に一番近いものだったからです。


 店員さんに、この布の用途を伺ったところ、特に決まった用途はないとのこと。今のところ、私には、他の弁理士さんに「これは『氷山事件』の『しょうざん』で購入した布なんだぜっ!」自慢することぐらいしか用途はなさそうです。

 なお、シルクウール生地を購入すると、「しようざん」「松山」「SHOZAN」の標章が付された包装表紙に入れてもらえます。


 ところで、私が東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯に宿泊した2021年末は、生憎の大雪。しょうざんリゾート京都から、雪で白く染まる鷹ヶ峯を臨むことができました。つまり・・・

 私は、しょうざんで、氷山を見た!

T.T.




にほんブログ村
にほんブログ村