2023年7月24日月曜日

「キャンディ・キャンディ事件」に因んだ2つの珍スポット【二次的著作物】

商標弁理士のT.T.です。
 「キャンディキャンディ」とは、1975年から1979年まで、雑誌「なかよし」(講談社)に連載されていた大ヒット少女漫画で、20世紀初頭の米国・英国を舞台に、孤児の少女キャンディ(キャンディス・ホワイト)が成長していく物語です。
(画像:キャンディ♡キャンディ)
 
出典:平成9年(ワ)19444号の目録一

 平成ヒトケタ生まれのT.T.にとって、「キャンディキャンディ」は全く世代じゃありませんが、刺さる人には刺さるようで、例えば、私の母も、華の女子大生だった頃は(198X年)、主人公キャンディのツインテール髪型で登校していたとか。
むしろ、知財専門家T.T.にとっての「キャンディキャンディ」といえば、二次的著作物に関する最高裁判例「キャンディ・キャンディ事件」としてしか刺さりません。

キャンディ・キャンディ事件最高裁 平成12年(受)798とは、「キャンディ・キャンディ」の原作者・水木杏子先生(原告)が、その漫画家・いがらしゆみこ先生ら(被告ら)に対し、連載漫画の一コマ(目録一)や雑誌の表紙絵(目録二)に描かれた主人公キャンディを二次的著作物とし、漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有すること等を確認し、また、被告らは、リトグラフや絵はがき用に新たに書き下ろした主人公キャンディの原画(目録三)を作成・複製・頒布してはならないことを請求した事件となります。

(左:目録二・表紙絵、右:目録三・新規書下ろし原画)
 
出典:平成9年(ワ)19444号

事件の詳しい経緯は、水木先生のウェブサイト等のネット記事や「封印作品の闇―キャンディ・キャンディからオバQまで」(安藤健二著 大和書房)等に譲るとして、最終的に、最高裁では原著作物の二次的著作物に対する保護範囲が争点となりました。

最高裁は、「二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し,原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者である上告人が有するものと同一の種類の権利を専有し,上告人の権利と被上告人の権利とが併存することになるのであるから,上告人の権利は上告人と被上告人の合意によらなければ行使することができないと解される。」として、二次的著作物全体について原著作権者が権利を主張できるとの判断を示しました

  結果として、「キャンディ・キャンディ事件」の影響により、原作漫画は2001年より絶版となり、映像作品やグッズも市場から姿を消しました。T.T.も、原作漫画を読もうと試みたものの、中古市場ではプレミア価格がついて手が出ず、都内漫画喫茶に数店舗のみ置いてあるだけで、読むのに苦労した程です。 

 一方、作品は消滅しようとも、「キャンディ・キャンディ事件」にまつわるスポットキャンディキャンディ博物館」と「いがらしゆみこ美術館」は、未だ健在なようなので、著作権法の勉強も兼ねて、行ってみることにしました。 

■キャンディキャンディ博物館(葛飾区柴又)

 東京都葛飾区柴又といえば、映画「男はつらいよ」の舞台でもあり、柴又帝釈天の門前町として、昭和情緒あふれる場所です。柴又帝釈天参道から少し外れたところにある、昭和レトロをテーマにしたカフェ「セピア」の2階に「キャンディキャンディ博物館があります。

(写真:柴又駅)

(写真:キャンディ♡キャンディ博物館)

 「キャンディキャンディ博物館」は、館長の「キャンディ・ミルキィ」氏がコレクションした「キャンディキャンディ」公式グッズを展示した小さな博物館です。もちろん、公式グッズは、美術の著作物(漫画の原画)の「複製品」であり、「原作品」ではないはずなので、展示権(著25条)は及ばないでしょう。

(写真:キャンディ♡キャンディ博物館の内部)

館長の「キャンディ・ミルキィ」氏は、「キャンディキャンディ」風(?)のコスプレをしたおじ様で、女装界隈ではwikipediaに載るほどの有名人らしいですが、「キャンディ・キャンディ事件」の当事者とは無関係の一個人です。しかしながら、当博物館が設立された経緯は、事件とは無関係ではないようで、事件をキッカケとして原作漫画が絶版となったことにより、「読者権」が蔑ろにされていることに対し、著作権法への問題提起のため設立されたとのことでした(ちなみに、「読者権」なんてものは著作権法にはない。)。

(写真:キャンディ・ミルキィ館長)
 

 そんな「キャンディ・ミルキィ」館長に因んだメニュー「キャンディちゃんパンケーキ」が1階の喫茶店「セピア」では提供されています。パンケーキには、少女漫画のありふれた手法で描かれた「キャンディ・ミルキィ」館長の肖像画(スッピンVer.&化粧Ver.がプリントされていて、「キャンディキャンディ」とは一切無関係とのことです。

(左:スッピンVer.、右:化粧Ver.)

■いがらしゆみこ美術館(岡山県倉敷市)

 現代では、石油コンビナートの工業都市という側面を持つ岡山県倉敷市ですが、その名の通り、古くは蔵の集積地であり、未だ残る蔵屋敷の伝統的街並みは「美観地区」として保護されています。そんな倉敷「美観地区」の趣ある風景の中に、異彩を放つメルヘンチックな建築物いがらしゆみこ美術館」があります。

(写真:倉敷の美観地区)

(写真:いがらしゆみこ美術館)

いがらしゆみこ美術館」では、いがらしゆみこ先生の直筆原画やキャラクターグッズが展示されています。もちろん、事件の影響により、「キャンディキャンディ」の原画やグッズは展示されていませんが。

(写真:いがらしゆみこ美術館の内部)
 その一方で、美術館2階には、ちゃっかり「キャンディキャンディ」原作漫画が陳列され、自由に手に取り読むことができますし、そもそも館内BGMは、アニメ「キャンディキャンディ」の主題歌がエンドレスで流れており、いったいどうなっていることやら?
(写真:陳列された「キャンディ♡キャンディ」)

 ところで、「いがらしゆみこ美術館」最大のウリは、いがらしゆみこ作品を鑑賞することよりも、むしろ、いがらしゆみこ作品をイメージしたお姫様ドレスをレンタルし、写真撮影できることのようです。実際、美術館内は、コスプレ目当ての女性でごった返しており、著作権法を究めるために来たのは私ぐらいでした。

 せっかく来たならば、T.T.もお姫様コスプレすべきだったのかもしれませんが、そもそも男である上に、T.T.の出自は肥前国の土豪なので、ヨーロッパ貴婦人の格好は、身分不相応と思い、遠慮しておきました。 

(写真:レンタル用お姫様ドレス)

美術館1階には、飲食店「カフェプリンセス」が併設されており、ここの名物は「プリンセス・ピンクカレー」です。カレー皿にプリントされた男女は、「キャンディキャンディ」の登場人物(キャンディとアンソニー)にも見えなくもないですが、完全オリジナルキャラの「お姫様」と「王子様」らしいです。

(写真:プリンセス・ピンクカレー)

このカレーには、オリジナルストーリーがあり、「お姫様」と「王子様」の間には、愛の障壁(ライス)が立ちはだかるというラブロマンスです。ワイングラスからライスの型へ「ピンクカレー」を注ぐことで、2人の愛のボルテージが高まる様子を表現し、最終的にカレーを完食すると、愛の障壁が取り払われたことで、2人は永遠に結ばれ、ストーリーは完結します。

(写真:愛のボルテージが高まった様子)

岡山県産赤ワインがブレンドされた「プリンセス・ピンクカレー」は、恋のように甘口カレーで、辛党の私なら直ぐ完食できました。つまり、お姫様と王子様は、いとも簡単に結ばれてしまいました。
 リアル人生は、「プリンセス・ピンクカレー」みたいに容易くは行きませんが。

(お土産としても購入できます。)
(T.T.)


にほんブログ村
にほんブログ村