2024年4月1日月曜日

1万円するステーキランチを食べてきました【EMPIRE STEAK HOUSE事件 結合商標の類否】

 商標弁理士のT.T.です。
 さて、4月になったということで、私の弁理士歴もまた一つ歳を重ねました。歳を重ねると、肉が食えなくなってくるとはいいますが、ステーキにまつわる商標事件、「EMPIRE STEAK HOUSE事件」は早めに攻略した方がいい事件の一つでしょう。 

 「EMPIRE STEAK HOUSE事件」(令和4(行ケ)10087)とは、原告(アールジェイジェイ レストラン エルエルシー)が、「43類 ステーキ料理の提供等」を指定役務とした、左向き牛の全身を表した図形と「EMPIRE STEAK HOUSE」の文字の二段併記からなる商標(商願2018-4441)を出願したところ、登録5848647号「EMPIRE(標準文字)」と類似し、商標法4111号に該当すると判断されたことから、拒絶審決となったため、結合商標の類否について審決取消訴訟で争われた事件です。 

商願2018-4441

 知財高裁は、商願2018-4441について、下記の理由により、「EMPIRE」の文字部分が、需要者等に対して自他役務の識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるから、商標の要部であるとして、登録5848647号「EMPIRE(標準文字)」と類似すると判断し(商標法4111号)、商標登録を認めませんでした。

  1. 牛の図形部分は、「ステーキ料理の提供」との関係において、食材が牛であるという印象を与えるに過ぎず、実際に、牛肉に関連した料理を提供する店舗では、食材である牛の全身又は一部をモチーフとした図形を用いる例が見受けられ、広く一般に行われているため、自他役務識別機能を有しない又は極めて弱い。
  2. EMPIRE STEAK HOUSE」の「EMPIRE」の文字は、我が国において「帝国」の意味が容易に理解される親しまれた語で、指定役務について、役務の提供の場所等と関連性を有することは想定できないから、自他役務識別機能が強い。
  3. EMPIRE STEAK HOUSE」の「STEAK HOUSE」の文字は、「ステーキ専門店」を意味する英語で、飲食物の提供の一業態を示すものとして一般に用いられ「ステーキの料理の提供」を行う業界において普通に用いられていることから、役務の提供の場所、質を意味するとして、自他役務機能を有しない又は極めて弱い。
  4. 実際の取引において、「STEAK HOUSE」又は「ステーキハウス」を含むステーキ料理の提供を行う店舗名が、STEAK HOUSE」又は「ステーキハウス」の文字部分を除いて略称される例が見受けられる。
  5. EMPIRE STEAK HOUSE」に外観上まとまりがあって一体的であろうと、称呼がよどみなく一連に称呼できるものであるとしても、ステーキ料理の需要者がどの料理店を選択するかに当たっては、「STEAK HOUSE」の部分は選択に当たって何ら必要な情報を与えるものではないから、需要者が着目するのは「EMPIREの部分である。

 原告の「EMPIRE STEAK HOUSE」は、引用商標権者とライセンス契約を行ったためか、今でも六本木で営業しています。ニューヨークスタイルのステーキが提供されるとのことや、六本木という土地柄から見て、カジュアルそうに思えて、一応、ドレスコードはスマートカジュアルのため、休日のお昼時だというのに、スーツでバシッと決めて来ました。

(写真:EMPIRE STEAK HOUSE
 

 事前に仕入れた情報では、ステーキランチコースは7800円と聞いていたのですが、それは平日限定であり、休日では特別ランチコースということで、9800になります。これに「クランベリージュース」(700円)を加えたので、1万円を超えました。T.T.の普段の昼食代が700円くらいなので、単純計算で15倍です。 

 しかし、1万円超のサービス料は、その期待を裏切りません。ラグジュアリーな感じの内装や、妙に落ち着いたウェイターによる行き届いた接客は、まさに私を「皇帝」だと錯覚させるのでした。
(写真:高級感漂う席)

 もちろん忘れてはならない、メインディッシュの「プライムニューヨークサーロインステーキ」は、アブラ少なめの熟成肉が、外側はカリっと焼き上げられた一方で、中側の柔らかさがナイフを通しても伝わります。何も加えず肉そのものの旨味をそのまま楽しむこともできますが、EMPIRE STEAK HOUSE」オリジナルステーキソースで味変もできます。ステーキソースといえば、茶色系が一般的なように思いますが、オリジナルステーキソースは赤く、トマト+生ワサビ+ビネガーをブレンドした甘みを楽しむことができ、ニューヨーカーが好みそうなところに、ニューヨークスタイルとしてのプライドが垣間見えました。
(写真:プライムニューヨークサーロインステーキ)
 ということで、「EMPIRE STEAK HOUSE」は、結合商標の類否の勉強だけでなく、何か特別な日のための予習にもなった気がして、いつか来るであろう特別な日にまた来てみたいと思いました。嗚呼、商標事件の聖地巡礼も自分にとっては特別な日か。

 ちなみに、六本木はステーキ屋の聖地らしく、周辺を歩いていると、「ステーキハウスハマ」「BENJAMIN STEAK HOUSE」「37 Steakhouse & Ber」「ウルフギャング・ステーキハウス」「ステーキハウスオークドア」といった、「Steak House(ステーキハウス)」を名称の一部に含む飲食店が複数あり、やはり、「STEAK HOUSE」は、「43類 ステーキ料理の提供」との関係で、自他役務識別力が弱いことが窺えました。
(写真:ステーキハウスハマ

(写真:BENJAMIN STEAK HOUSE

(写真:37 Steakhouse & Ber

(写真:ウルフギャング・ステーキハウス

(写真:ステーキハウスオークドア

 一方の、引用商標の登録5848647号「EMPIRE(標準文字)」を使用しているのは、長野県上田市にある「NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE」という店(2013年開業)で、何と偶然なのかニューヨークスタイルのステーキを提供し、また、石窯によるナポリのピザも提供しています。ここでも、店頭に「左向き牛の全身を表した図形」が用いられており、やはり、商願2018-4441の「左向き牛の全身を表した図形」は、「43類 ステーキ料理の提供」との関係で、自他役務識別力が弱いことが窺えます。
(写真:NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE

 ところで、上田市の「EMPIRE」は、結構な人気店らしく、当日来たら、予約で一杯ということで入店ができませんでした。つまり、わざわざ長野県上田市まで行って、何もせずノコノコ帰ってきました。
 長野県上田市といえば、戦国大名・真田氏の居城「上田城」があり、二度にわたる「上田合戦」(第一次:1585年、第二次:1600年)では、攻めて来た徳川の大軍をノコノコ撤退させたことで知られる名城です。図らずも、令和の世において、T.T.は上田合戦を再現してしまったようです。

(写真:上田城)

T.T.


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