2022年6月14日火曜日

日南にちなんだ旅【日南市章事件 4①6】

 

 商標弁理士のT.T.です。 

 特許事務所では、商標登録出願の際、より確実な登録を目指すため、事前に商標調査をおススメします。その調査は、商標の態様に応じて、文字調査図形調査の2種類が行われます。
 文字調査の場合は、各種データベース、書籍、ネット検索等を駆使することにより、登録可否に目途を付けることが可能ですが、図形調査の場合は少々やっかいであります。

それが、「国・地方公共団体等の標章であって著名なもの(商416号)」の存在です。J-PlatPat等、各種データベースでは、先行調査との類否を追うことができますが、「国・地方公共団体等の標章であって著名なもの」との類否までは追うことができません。そして、47都道府県はまだしも、全国約1700ある市町村の紋章の中で、どれが著名なのか、知る由もないでしょう。

そのため、超レアケースですが、図形調査で先行商標との類否は問題ナシとしたとしても、その商標が、商標法416号に該当するとの拒絶理由通知を不意打ちされることもあるようです。 
 そんな、商標法416号を象徴する事件の一つとして「日南市章事件」(知財高裁 平成24年(行ケ)10125号)があります。

日南市章事件」(知財高裁 平成24年(行ケ)10125)とは、商願2009-054010「図形+『DAIWA』が結合した商標」(第6類「建築用又は構築用の金属専用材料」等)の図形部分が、著名な宮崎県日南市の市章と類似であるから、商標法416に該当するとの拒絶審決(不服2011-10066)に対し、その妥当性を争った事件です。
 知財高裁は、日南市章が、日南市の公共施設やホームページ、新聞、書籍等に表示されたからといって、本願商標の指定商品の需要者等が一般に目にするものとは認められないとし、また、マンホールの蓋に刻印された日南市章についても、マンホールの蓋を扱う需要者等の数が明らかでなく、本願商標の指定商品の取引者等のうちどの程度を占めるか不明として、日南市章の著名性を否定しました。
 さらに、本願商標と日南市章の類否についても、本願商標の図形部分は、「日」という漢字の古代書体に由来するありふれた図形で、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものでないことから、本願商標から図形部分を抽出し、日南市章と比較することは許されないとして、類似性も否定しました。
 したがって、商願2009-054010「図形+『DAIWA』が結合した商標」は、商標法416号に該当しないものとして、後に登録されました(登録5551739号)。

(左商願2009-054010、右:日南市章

  このように、「日南市章事件」では、著名性を否定された日南市章ですが、そんな宮崎県日南市とは、いったいどのような場所なのでしょう。それを探るべく、JR日南線の「日南駅」に降り立ってみることにしました。
 早速、駅名標から日南市章が出迎えてくれました。

 さて、裁判では、「マンホール」の蓋に刻印された日南市章が、著名性に関する一つの争点となりましたが、確かに、街中を歩いていると、日南市章が刻印されたマンホールの蓋が多数点在しています。

 それだけでなく、日南市には「ポケモンマンホール」もあり、「ヤシの木みたいなポケモン」と「イースター島のモアイ像」みたいなポケモンがデザインされています。事実、日南の道端にはヤシの木が植えられており、モアイ像をウリにした公園「サンメッセ日南」があるのです。


 しかしながら、それよりも日南市最大のウリは、「鵜戸神宮」ではないでしょうか。
 「鵜戸神宮」とは、日南市東部、日向灘の断崖絶壁に位置する神社で、国指定の名勝です。神武天皇の父親にあたる「日子波瀲武鸕鷀草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)」を主祭神として、その本殿が洞窟の中にあるので、神秘的です。


 「鵜戸神宮」の名物と言えば、崖下に鎮座する岩、「亀石」でしょう。「運」と掘られた素焼の玉(5100円)を崖の上から放り投げ、「亀石」のしめ縄内側にヒットすれば、願い事が叶うとのことです。素焼の玉を、女性は右手で、男性はなぜか左手で投げなければならないようですが、残念ながら私は左利きです。しめ縄の内側に楽々ヒットできましたので、私の将来は約束されたに違いありません(?)。


 

また、「鵜戸神宮」は、安産や育児の神社として有名なようです。本殿の裏側には、その形状を女性の乳房に見立てた「お乳岩」というものがあり、そこから滴り落ちる水で作られた「おちちあめ」を舐めると御利益があるそうです。
 男の私が、「おちちあめ」を舐めても、特に意味はなさそうですが、「おちちあめ」から作った飲み物「おちちあめ湯」(一杯100円)を飲むことにしました。「おちちあめ湯」には生姜が入っており、旅のラストスパートで、体調を崩し気味だった私にとっては、大変御利益がありました。


 

 そしてもうひとつ、日南市で忘れてならないスポットは、九州の小京都「飫肥(おび)」の城下町でしょう。
 「飫肥」は、日南駅の一駅北隣「飫肥駅」を最寄とし、かつての飫肥城を中心とした飫肥藩51000石の城下町として
、今なお江戸時代の街並みが残ることから、「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されているのです。

 そんな飫肥藩を治めていたのが伊東氏です。伊東氏の支配は、足利尊氏の命で日向国へ下向したことに始まったようですが、元は伊豆国伊東の豪族、つまり、八重姫こと新垣結衣と同族です。私としては、出自が怪しい人気戦国大名よりも、地味ながら平安・鎌倉から続く武家の方が、かっこいいと思ってしまう主義であり、飫肥城跡からは、脈々と続いてきた伊東氏の歴史の重みを、ひしひしありがたく感じます。



 そんな日向の伊東一族から出た人物として有名なのは、安土桃山時代の天正遣欧少年使節として派遣された「伊東マンショ」でしょう。小学生の頃、「伊東マンショ」と読み間違え、小野妹子並みの珍名として、爆笑していました。

(写真:日南駅前の伊東マンショ像)

 もう一人、日南市にゆかりある歴史上の人物として、明治時代、ポーツマス条約締結や関税自主権回復を達成した外交官「小村寿太郎」がいます。「飫肥」の城下町では、小村寿太郎の生家が保存されており、小村寿太郎記念館もあります。また、城下町から少し離れた所には、小村寿太郎の墓まであり、彼の遺髪が埋葬されているようです。


「小村寿太郎」も「伊東マンショ」に負けず劣らず、間違えやすい名前であり、よく「小村寿太郎」と読み間違えたものです。商標弁理士となってしまった今では、損害不発生の抗弁の「小僧寿し事件」(最高裁 平成6()110号)の方を連想させてしまいますが。

 (T.T.




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2022年6月7日火曜日

元祖「白熊」は第30類「氷菓」で代替できぬ!【しろくま事件 商標法26条 天文館むじゃき】

 

 商標弁理士のT.T.です。

 カレンダーも6月となり、季節は、ほとんど夏です。アイスクリームが美味しくなってくる季節ですね。
 ところで、私が初見で感動したアイスクリームといえば、丸永製菓の「白くま(棒アイス)」でしょう。ラクトアイスとフローズンフルーツの組合せは、まさに、この世の物とは思えない絶品、と感じた小学生の夏でした。
 そんな小学生だった自分は、まさか、この「白くま(棒アイス)」が、商標の「しろくま事件」(大阪地裁 平成
8年(ワ)12855号)に巻き込まれているとは、知るはずもありませんでした。

 
しろくま事件」とは、登録778416号「白クマ」(指定商品「菓子及びパン」)の専用使用権者であった林一二株式会社(原告)が、丸永製菓株式会社(被告)の販売する「白くま」の氷菓及びラクトアイスに対し、商標権侵害であるとして訴訟を提起した事件です。
大阪地方裁判所は、しろくま」が、鹿児島県を中心とした九州地方において、飲食店で提供される「かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたもの」を意味する普通名称であり、飲食店で提供される飲食物が、流通型商品に加工し販売される実情があることから、被告商品が、飲食店で提供される「かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたもの」の同一物又は代用物と観念される場合には、普通名称であるとしました。
 その上で、かき氷に冷涼感や食感が近い「氷菓」は、かき氷の代用物であることから、「しろくま」は「氷菓」の普通名称であると判断しました。一方で、食感がクリームに近い「ラクトアイス」は、かき氷の代用物でないとして、「しろくま」は「ラクトアイス」の普通名称に該当しないと判断しました(なお、慣用商標にも該当しないとした)。
 したがって、被告が、ラクトアイスに「白くま」の標章を付して使用していたことは、商標権侵害に当たるとして、差止・廃棄となりましたが、氷菓に「白くま」の標章を付して使用することは、普通名称を普通に用いられる方法で表示した商標につき(商2612号)、商標権の効力が及ばないとしました(大阪地裁 平成8年(ワ)12855号 参照:大判例)。
(左:原告「林一二株式会社」の白クマ、右:登録商標(登録778416号))

 しかしながら、冒頭の通り、丸永製菓のラクトアイス「白くま」は未だに販売されています。おそらく、原告と被告で何かしらの取引があったのだと推察されます。

(被告「丸永製菓株式会社」の「白くま」の氷菓)

 

 さて、判決によれば、被告(丸永製菓)は、「白くま」の標章の使用が、「普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標の使用」(商2612号)、又は、「慣用商標の使用」(同4号)であり、商標権侵害に該当しないと主張するため、「しろくま」の元祖について、次のように説明していました。

 もともと『しろくま』は、鹿児島市内のある店舗で、フルーツ等をのせた練乳がけのかき氷の名称として使用されていたところ、徐々に他の店舗においてもフルーツ等をのせた練乳がけのかき氷を『しろくま』の名称で提供するようになり、鹿児島県内の一般消費者の間で、『しろくま』は普通名称ないし慣用商標として使用されるようになった。

ここで登場する「鹿児島市内のある店舗」とは、「天文館むじゃき」のことです。「しろくま」の元祖には、諸説あるようですが、丸永製菓は、「天文館むじゃき」説を採用しているようです。

 

 「天文館むじゃき」(本店)は、鹿児島中央駅と鹿児島駅の中間に位置する、鹿児島最大の繁華街「天文館」に位置します。「天文館むじゃき」(本店)では、同ビル内で、1階の「白熊菓琲」の他、2階と4階でもグループ系列の飲食店を営業しており、どの店舗でも、元祖「白熊」を食べることができるようです。

 流石、元祖を名乗るだけあって、大行列ができていましたが、2階や4階の飲食店は、並ばずに入店できたようです。確かに、白熊を食べることだけがお目当てならば、2階か4階でも良かったでしょうが、ご存じの通り、私は元祖至上主義。だから、元祖と思われる1階「白熊菓琲」に、あえて並び続けました。

  並ぶこと約15分、「天文館むじゃき(白熊菓琲)」に入店できたのが昼頃だったため、元祖「白熊」の前座と昼食を兼ね、同じく「白熊」の名を冠する「しろくまちゃんのフレンチトースト」(740円)と「しろくまアートカプチーノ」(510円)を注文しました。
 特に「しろくまアートカプチーノ」は、呼子のいか活造りを食す時も無感情だった私ですら、可愛すぎて飲むのに3分躊躇してしまいました。

そして、いよいよ登場したのが、元祖「白熊」740円)です。むじゃきオリジナルのミルクソースのかかったかき氷と、フルーツの組合せが美味しいのは、もちろんのこと、容器の底までフルーツが敷き詰められており、最後まで飽きさせません。

 元祖「白熊」には、フルーツの他、謎の丸い菓子が飾り付けられています。これは、「白くまちゃんのおへそ」と言いまして、サツマイモで出来たスイートポテトです。ここだけ謎の鹿児島っぽさ全開です。
 せっかく「白くまちゃんのおへそ」を鹿児島っぽさ全開にするならば、サツマイモと同じく、鹿児島県が生産量1位の「ゴマ」を素材にした菓子にすべきだったのでは、と思います。へそゴマだけに。

(お土産用 680円)


 ところで、「天文館むじゃき」のかき氷が、「白熊」と呼ばれるようになったのは上面から見たレーズンとサクランボの配置が、まるで白熊の顔のように見えたから、とのことです。しかしながら、見た目だけでなく、その食感も「白熊」たる所以ではないかと、私は思っています。
 即ち、元祖「白くま」のかき氷部分の食感が、とてもフワフワしており、まるで「白熊の毛皮」のようなのです。

『しろくま』は、練乳がかけられているとはいえ、かき氷を元とし、しかも、そのことを消費者が認識している以上、冷涼感や食感は、「氷」である。(中略)冷涼感が大きく、食感が「氷」により近く、また、そのイメージも「氷」により近いのは「氷菓」である。このように、一般には、「氷菓」については「かき氷」の延長にある代用物と認識されているとみるのが合理的である(後略)。

と判決で裁判官は述べていますが、あの毛皮のようなフワフワ食感は、市販の「氷菓」では、再現が不可能でしょう。判決に異論はないですが、つまり、元祖「白熊」は、かき氷や氷菓ではなく、「白熊」という食べ物である。
 なお、本物の白熊の毛皮は、「お湯につける前の春雨」の触り心地らしいですが。

 (T.T.


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