以前、観念類似の「竹久夢二事件」の真相を探るべく岡山に来た時、これといった名物料理が思い浮かばず、夕食は何を食べようか悩まされました。確かに岡山は、くだもの王国ということで、マスカットや桃が有名ですし、鉄道王国ということで、駅弁の種類も豊富ですが、お隣の「広島風お好み焼き」や「讃岐うどん」と肩を並べる程の超A級グルメは見受けられません。
「ゲンコツメンチ事件」と「ゲンコツコロッケ事件」は、いずれも大手コンビニ「ローソン」の所有する登録5752792号「ゲンコツメンチ」(30類「メンチカツを材料として用いたパン」等)と登録5708397号「ゲンコツコロッケ」(30類「パン,サンドイッチ」等)が、登録5100230号「ゲンコツ」(30類「おにぎり,ぎょうざ,しゅうまい」等)と類似するか争われた無効審判事件で、その結論は両事件で異なります。
他方、「ゲンコツコロッケ事件」では、登録5708397号「ゲンコツコロッケ」は、その構成が、8字8音でやや冗長であり、「コ」の字がやや大きく表示されることから、「ゲンコツ」と「コロッケ」で分離観察されるのが自然であり、また、「コロッケ」は識別力がかなり低い一方で、特定の観念が生じない「ゲンコツ」は「コロッケ」よりも識別力が高く、強く支配的な印象を与えることから、「ゲンコツコロッケ」の要部は「ゲンコツ」となるため、5100230号「ゲンコツ」とは類似する(商4条1項11号)と、知財高裁は判断しました(知財高裁 平成29年(行ケ)10169号)。
なお、ローソンでは、 「ゲンコツメンチ」と「ゲンコツコロッケ」の販売が2019年末で終了しており、その後継として2023年現在、「旨みあふれる牛肉メンチ」と「北海道産きたあかりの牛肉コロッケ」という識別力弱そうなものが販売されています。
そんな登録5100230号「ゲンコツ」シリーズは、岡山県を中心に展開する老舗ラーメンチェーン「すわき後楽中華そば」にて提供されているのです。「すわき後楽中華そば」は、添え物として梅干しが提供される点でユニークですが、ラーメン自体は、豚骨ベースの醤油ラーメンで、格別に奇をてらったものではありません。しかしながら、そのオーソドックスさが、岡山県民に愛されているようで、岡山県のタウン情報誌でも、人気ラーメン店1位に輝くほどです。
そして、「ゲンコツ」シリーズとは、「すわき後楽中華そば」のサイドメニューで、「ゲンコツしゅうまい」と「ゲンコツおにぎり」があります。
「ゲンコツおにぎり」は、ラーメンスープの炊き込みご飯で作られたチマキおにぎりで、なんと50年以上の歴史を誇るようです。種類は、判決文にも登場した「梅ゲンコツおにぎり」「わかめゲンコツおにぎり」の他、「金ごま昆布ゲンコツおにぎり」「チャーシューゲンコツおにぎり」の全4種類です。「ゲンコツおにぎり」は、葉に包められたワイルドな見た目や大きさが、ゲンコツを彷彿とさせますが、中身のおにぎり本体は、可愛い三角型で、大きさもコンビニおにぎりと大差なく、ゲンコツという感じはしません。
しかしその味は、背徳感ある味です。巷では、「カップ麺の残り汁と合うご飯」のような背徳感ある商品が販売されていますが、「すわき後楽中華そば」では、左手で「ゲンコツおにぎり」をむしゃぶりつきながら、右手のレンゲで残り汁を啜ることで、その背徳感を見事再現できます。個人的には、背徳感に背徳感を重ねる「チャーシューゲンコツおにぎり」が好きでしたが、酸味で背徳感を多少は中和できる「梅ゲンコツおにぎり」も良いかもしれません。
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