今年の行先は、沖縄(石垣島)or北海道(洞爺湖・函館)or山陰の3つから選択でき、T.T.は無論、北海道(洞爺湖・函館)をチョイスしました。何故ならば、沖縄(石垣島)も山陰も商標事件が特にない一方で、北海道の旅程には、函館の「トラピスチヌ修道院」見学があり、ここは「トラピスチヌの丘事件」で知られているからです。
「トラピスチヌの丘事件」(平成7年(行ケ)17号)とは、登録1272868号「トラピスチヌの丘」(30類「キヤンデ-、その他の菓子パン」)について、その商標権者S社(原告)が、「トラピスチヌの丘クッキー」や「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」の表示を用いたクッキー販売していたところ、登録841980号「トラピスチヌバタ-飴」や 登録1155483号「トラピスチヌ\TRAPPISTINES」を用いてクッキーやバター飴を販売していた「天使の聖母トラピスチヌ修道院(被告)」から、商標法51条の不正使用取消審判を請求された事件です(昭61-023859)。
東京高裁は、次の理由により、S社が、故意に指定商品について登録商標に類似する商標を使用し、「トラピスチヌ修道院」の商品と混同を生じさせるおそれがあると認定し(商51条1項)、登録1272868号「トラピスチヌの丘」は登録取消となりました。
<登録商標と使用商標の類似性>
「トラピスチヌの丘クッキー」の表示は、「の丘」の文字部分が小さく表示され、「トラピスチヌ」の文字部分が注意を惹く構成となっていることから、登録1272868号「トラピスチヌの丘」と使用商標「トラピスチヌの丘クッキー」は、称呼・観念が共通するものの、外観が異なるため、互いに類似する商標であるとしました。
また、「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」の表示についても、「THE HILL OF TRAPPISTINES」の文字部分が、登録1272868号「トラピスチヌの丘」を英訳したものと容易に理解し得ることから、登録1272868号「トラピスチヌの丘」と使用商標「THE HILL OF TRAPPISTINES COOKIES」は、観念が同一であるため、互いに類似する商標であるとしました。
<出所混同の有無>
「トラピスチヌ修道院」や、そこで製造・販売されているクッキー等は、一般に広く知られており、また、S社のクッキーは、「トラピスチヌ」や「TRAPPISTINES」の文字を強調するように表示し、その外装箱には「トラピスチヌ修道院」の建物や聖女像を描いた図柄が表示されていることを考慮すると、S社の「トラピスチヌの丘クッキー」は、「トラピスチヌ修道院」の販売する商品であるとの出所混同を生じさせるおそれがあるとしました。
「トラピスチヌ修道院」は、60人程の修道女が暮らす女子修道院ですが、男子の私であっても、敷地内を自由に見学することはできます。S社の「トラピスチヌの丘クッキー」の外装箱に描かれた建物や聖女像は、「トラピスチヌの丘事件」の名の通り、丘の上にあり、聖堂・司祭館と聖テレジア像になります。
ただし、S社の「トラピスチヌの丘クッキー」外装箱の図柄と同じ構図で写真を撮ろうと思っても、聖テレジア像の後ろにある垣根に阻まれるため、この構図を完全再現することは物理的に不可能です。
裁判で登場した「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、修道院敷地内の売店「天使園」で購入することができ、プレーン味とココナッツ味があります。一方、同じく裁判で登場したバター飴は、現在、販売されていないようでした。
ここで勘違いしてはいけないのが、「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、有名な函館土産「トラピストクッキー」とは別物ということです。一見すると、「トラピスチヌ」も「トラピスト」も似たような単語なので、両者は同一商品に思えますが、「トラピストクッキー」は、函館市の左隣・北斗市にある男子修道院「トラピスト修道院」で製造・販売されたものであり、その出所は全く異なります。
両クッキーは、入手難易度にも差があり、有名な「トラピストクッキー」は、函館山や五稜郭タワー等、函館の至る所で購入できますが、「トラピスチヌ修道院」のクッキーは、修道院敷地内の売店「天使園」でしか購入できない希少品です。
ちなみに、「トラピスチヌ修道院」一押しの菓子は、別にクッキーではなく、事件とは全然無関係の「フランスケーキマダレナ(登録812156号)」のようでした。
さて、登録1272868号「トラピスチヌの丘」は、商標法51条1項の不正使用に該当するとして、登録取消となってしまいましたが、S社からは、「トラピストの丘」というチーズタルトが未だ販売されており、函館の至る土産コーナーで見かけることができます。当然、「トラピストの丘」もS社により商標登録されています(登録840720号)。
「トラピストの丘」は、先ほどの男子修道院「トラピスト修道院」が由来なのは明らかであり、パッケージをよーく見ると、「トラピストの丘」の文字の背面に「トラピスト修道院」の建物の図柄が薄っすーら描かれていることからも窺えます。
では、登録840720号「トラピストの丘」は、商標法51条の不正使用取消審判を請求されなかったのかというと、もちろん、「トラピスト修道院」から請求されていました(取消2007-301474)。ただし、「トラピスチヌの丘」とは逆の結論のようで、登録840720号「トラピストの丘」は登録が維持されました。
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