商標弁理士のT.T.です。
不正競争防止法で、少年の厨二心がくすぐられる事件といえば、剣の形状について争われた「ドラゴン・キーホルダー事件」でしょうが、それと並んでゾクゾクさせられるのが、銃の形状等ついて争われた「ベレッタM92F事件」(平成10年(ワ) 23338 号・21508号)でしょう。そうすると、以前に「ドラゴン・キーホルダー」の原告版・被告版をコレクションしたのと同様に、「ベレッタM92F」も原告版・被告版の両方をコレクションしたくなってきました。 そもそも「ベレッタM92F」といえば、イタリアの老舗銃器メーカー「ピエトロ・ベレッタ社(Fabbrica d'Armi Pietro Beretta S.p.A.)」の拳銃です。米軍でも正式採用されたほどの名銃で、全国の少年が憧れないはずがありません。といいつつ、漫画「シティーハンター」好きだった私は、主人公・冴羽獠の愛銃「コルトパイソン」派でしたが。
(写真:ベレッタM92F) (写真:コルトパイソン)
「ベレッタM92F事件」(平成10年(ワ) 23338 号・21508号)とは、被告「東京マルイ」が「ベレッタM92F」の外観を実物大で模した玩具銃(エアソフトガン)を製造・販売したことが、周知表示混同惹起行為(不競法2条1項1号)等に該当するとして、原告「ピエトロ・ベレッタ社」と、ピエトロ・ベレッタ社からライセンスを受けて「ベレッタM92F」等の玩具銃を製造・販売していた原告「ウエスタンアームズ」から、「BERETTA」等の表示や玩具銃の形状の差し止め・損害賠償を求める訴えを提起された事件です。
東京地裁は、「模型の形状や模型に付された表示が本物のそれと同一であったとしても、模型の当該形状や表示は、模型としての性質上必然的に備えるべきものであって、これが商品としての模型自体の出所を表示するものでない」とのことから、被告の「ベレッタM92F」は、出所表示機能・自他商品識別機能を有する態様で使用されていない、即ち、「商品等表示」として「使用」されていないとして、原告らの請求を棄却しました。
(被告の商品形態)
さて、原告「ピエトロ・ベレッタ社」は、イタリア北部の街「ガルドーネ・ヴァル・トロンピア(Gardone Val Trompia)」に本社を構え、気軽に行けそうな感じではありませんが、ライセンス供与先だった原告「ウエスタンアームズ」は、渋谷・宮益坂の雑居ビル1階に店舗を構え、行こうと思えば行けるところにあります。
(原告:ウエスタンアームズ) 実は私自身、「ウエスタンアームズ」の存在自体は、弁理士になる遥か昔、小学生の頃から知っていました。何故ならば、当時通っていた渋谷某学習塾の道中で、いつも見かけていたからです。
少年だった私は、もしもオトナ帝国やゾンビが街を攻めてきたときには、「ウエスタンアームズ」で武器を調達することばかり妄想していました(18禁なので買えないが…)。そんな私も、大人になり、生ける屍となってしまいましたが、まさか、知財専門家の立場から、「ウエスタンアームズ」の玩具銃を入手するとは思いもしなかったでしょう。
「ウエスタンアームズ」の「ベレッタM92F」は、銃に注入したガスの圧力でBB弾を発射しながら銃上部のスライドがブローバック(後退)する「ガスブローバック」方式の玩具銃です。
(写真:原告の「ベレッタM92F」(M92FS ダイハード ガンブラックver.))
「ガスブローバック」の玩具銃は、従来から様々なメーカーで販売されていましたが、その機構は、スライドがブローバックした後にBB弾が発射されるという実銃とは真逆の挙動をするため、リアルさに欠けていました。そこで「ウエスタンアームズ」は1993年、実銃同様にBB弾が発射された後にスライドがブローバックする、通称「マグナブローバック」機構を搭載した「ベレッタM92F」を発明し、業界を震撼させました(特許2561421号・特許2561429号・商標登録3265047号)。
一方の被告「東京マルイ」は、モーター駆動によってBB弾を発射する「電動ガン」を初めて開発・販売したことで名を馳せた、玩具銃の国内最大手メーカーです。
「ベレッタM92F事件」で争われた「東京マルイ」の「ベレッタM92F」は、「被告商品一」「被告商品二」「被告商品三」の3点ありましたが、2023年時点で絶版せずに販売継続されているのは「被告商品三」こと「M92Fミリタリーモデル」のみのようです。こちらは、銃上部のスライドを手動で後退させてBB弾を排莢し、空気圧で発射する機構です。
さあ、せっかく原告・被告の「ベレッタM92F」が揃ったということで、いろいろ比べてみましょう。
■外観
東京マルイの「ベレッタM92F」は、左右でパーツが二分割された「モナカ構造」のため合わせ目が目立ち、プラスチック独特のテカリもあることから、全体としておもちゃっぽいです。一方、ウエスタンアームズの「ベレッタM92F」では、左右の合わせ目がなく、マッドな塗装も相まって、本物さながらの外観に仕上がっています。
(写真:パーツが左右でに分割された「モナカ構造」)
ウエスタンアームズ「ベレッタM92F」の本物っぽさは、細かい装飾にも表れており、グリップ部分の三本矢のエンブレムや、スライド左部の「PB(ピエトロ・ベレッタ)」刻印は、ライセンス契約していただけあってか、ピエトロ・ベレッタ社のものと全く同じものが付されています。しかし、東京マルイ「ベレッタM92F」では、グリップ部分のエンブレムが、三本の「剣」になっており、スライド左部の刻印も「MB」となっていました。
(ベレッタ社の登録商標(左:登録946371号、右:登録4190219号))(写真:原告・ウエスタンアームズの刻印) (写真:被告・東京マルイの刻印) ■撃ち心地
玩具銃を自宅内で撃つと、物を壊すおそれがあり、かと言って、自宅の庭で撃つと不審者に間違われるおそれがあることから、近所のシューティングレンジで、原告版・被告版の「ベレッタM92F」を撃ち比べることにしました。
(写真:Target-1新宿店) ウエスタンアームズの「ベレッタM92F」は、トリガーを引くと、実銃とほぼ同じ1kg超ある重量も相まって、ブローバックによる重い反動が発生します。また、ブローバックにより、BB弾が自動で排莢され、連射を可能としています。しかも、全弾撃ち尽くした後は、実銃同様にスライドがホールドオープンします。そのため、実銃の雰囲気を味わうことができ、楽しいです。
(写真:スライドがホールドオープンした状態) 一方、東京マルイの「ベレッタM92F」は、一発一発撃つごとに、手動でスライドを引き、BB弾の排莢及び空気の圧縮をしなければならず、連射は不可です。一発一発手動で排莢しなければならない点でいえば、縁日の射的と同じ気分になりますが、それはそれで楽しいです。
このように、原告「ウエスタンアームズ」と被告「東京マルイ」の「ベレッタM92F」を商品クオリティという観点で勝負したところ、外観や撃った時のリアルさを見れば、原告「ウエスタンアームズ」の圧勝でしょう。それもその筈で、東京マルイの「ベレッタM92F(被告商品三)」は3311円で購入できたのに対し、ウエスタンアームズの「ベレッタM92F」は34650円であり、その価格差10倍なので当然でしょう。
つまり、原告「ウエスタンアームズ」の「ベレッタM92F」は、「知的財産」の勝負では負けたものの、「知的」の文字を抜いた「財産」的価値としては、勝っていたという訳です。
(T.T.)
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