2022年11月16日水曜日

芸術と食欲の秋には「竹久夢二事件」【観念類似】

  

 商標弁理士のT.T.です。    
 秋は「芸術の秋」と言われますが、商標法的に注目すべき芸術家は「竹久夢二」でしょう。何故ならば、商標の観念類似で争った「竹久夢二事件」(東京高裁 平成2(行ケ)130号)があるからです。 

 そもそも「竹久夢二」(18841934)とは、画家・詩人であり、本名を竹久茂次郎といいます。特に美人画が有名で、「夢二式美人」と呼ばれる独特な作風は、夢二の恋人であった3人の女性、たまき彦乃お葉から大きく影響を受けたものであり、大正ロマンを代表する芸術として、現代でも根強いファンがいます。

(写真:竹久夢二(少年山荘で撮影))

(竹久夢二の美人画)

 「竹久夢二事件」(東京高裁 平成2(行ケ)130号)とは、鳩サブレーで有名な株式会社豊島屋(原告)の登録商標「夢二」(登録1931437号 指定商品「菓子,パン」)に対し、個人M(被告)が、自己の登録商標「竹久夢二」(登録1180508号 指定商品「菓子,パン」)を引用し、商標法4111号に違反するとして無効審判(無効S62-8267を請求した事件となります。
 審判官の合議体は、「『竹久夢二』の文字は……明治から昭和初期における画家で独特な画風を有するものとして世人に熟知されている本名『竹久茂次郎』の著名な雅号を表示するものであり、また、『夢二』とも略称されて著名であることから、単に『夢二』という場合にも世人は著名な『竹久夢二』を直感する」として、本件商標「竹久夢二」と引用商標「夢二」は、観念が「竹久夢二」で共通する類似した商標であり、商標法4111号に違反すると判断し、無効審決としました。
 審決を不服とした株式会社豊島屋は、審決取消訴訟を提起しましたが、東京高裁も審決と同様に、両商標が「竹久夢二」の観念で共通する類似した商標であるとして、請求を棄却しました。

(本件商標:登録1931437

(引用商標:登録1180508

 さて、引用商標の登録1180508号「竹久夢二」ですが、気になる点といえば、商標法4条1項8号と、同7号でしょう。 

商標法4条1項8号は、「他人の著名な雅号」等は、原則、商標登録を認めない規定となっていますが、確かに、審決でも言及されている通り、「竹久夢二」は、本名「竹久茂次郎」の著名な雅号に該当するため、気になります。しかしながら、同8号は、現に生存している者に適用される規定で、既に故人となった「竹久夢二」には適用されません。
 ちなみに、竹久夢二は死後70年以上経過しているので、著作権法的に、彼の作品は、とっくの昔にパブリックドメインとなっています。 

 そして、商標法4条1項7号は、公序良俗違反の商標は登録を認めない規定となっていますが、商標審査便覧42.107.04)によると、「竹久夢二」のような、歴史上の人物名からなる商標は、公序良俗違反に該当する可能性があるとしています。
 しかしながら、商標審査便覧に「歴史的人物名」についての取り扱いが規定されたのは、2009年からであり、それより前であれば登録が認められた例も多く存在します。1976年に登録された登録1180508号「竹久夢二」も、その一つであり、登録査定時には417号には該当しなかったということです。(ただし、商417号は、後発的無効理由(商4616号)であり、除斥期間がない点(商471項)には留意が必要。)

 ところで、商標法4条1項7号の「歴史的人物」に該当するかは、「当該歴史上の人物と出願人との関係」等の事情を総合的に勘案して判断されるとのことですが、登録1180508号「竹久夢二」の商標権者・M氏は、「竹久夢二」と全く無関係とはまでは言い切れません。

 商標権者・M氏は、岡山県瀬戸市の「邑久(おく)」で、「竹久夢二本舗敷島堂」というお菓子屋を営業しており、「邑久」の地は、竹久夢二の生誕地であり、生家も残っています。また、お菓子の製造・販売において「竹久夢二」の名を使用するにあたり、竹久夢二の長男から快諾を得ているそうです。



 さて、竹久夢二生誕の地「邑久(おく)」は、大都会・岡山駅からJR赤穂線で東へ進むこと約25分の「邑久駅」にあります。
 同一称呼からなる駅名に、東京の「尾久駅」があり、近くのJR車両基地「尾久車両センター」から珍しい車両が見られるとのことで、鉄道マニアの聖地とされているようですが、こっちの「邑久駅」は、これといった特徴がなく、一面一線の典型的地方都市の駅です。しかしながら、「邑久」は、竹久夢二マニアの聖地でもあり、商標法マニアの聖地でもあるのです。

 竹久夢二の生家は、夢二が16歳まで過ごしていた家であり、邑久駅から東へ約3km進んだところにあります。
 夢二少年が実際に使用していた部屋も残っており、部屋の窓枠には、夢二の姉「竹久松香」と書かれた夢二少年の落書きも残されています。「竹久松香」は鏡文字で縦に並列して2つ書かれており、姉が他家へ嫁いで家を離れてしまったため、その寂しさから姉に帰ってきて欲しいと、おまじないの意味を込めて書かれたとか。そんなシスコン的な一面も、夢二の美人画に影響を与えたと言われています。

(写真:夢二の生家)

(写真:夢二の部屋)

(写真:「竹久松香」の落書き)

 夢二の生家の近くには、東京の世田谷に建っていた夢二の邸宅「少年山荘」を復元したものもあります。
 「少年山荘」は、夢二自らが設計した家とのことで、邸宅としてはイビツな感じがします。特に、夢二の恋人「お葉」が使っていたとされる部屋(1階奥)は、入口からして秘密の部屋な雰囲気を漂わせ、全的的にピンク色の内装で、官能的です。

(写真:少年山荘の外観)

(写真:「お葉」の部屋)

 そして、被告の「竹久夢二本舗敷島堂」は、邑久駅と夢二生家の中間あたりに位置します。そこで販売されている白餡饅頭が「夢二」で、いちご味の「いちご夢二」もあります。他に「夢二」の名を冠したお菓子として、チーズブッセ「夢二浪漫」や、和菓子「夢二の宵待草」もありました。ちなみに、文字商標「夢二」も、竹久夢二本舗敷島堂により、登録済みです(登録5021529号)。

(白餡饅頭「夢二」)

(白餡饅頭いちご味「いちご夢二」)

(チーズブッセ「夢二ロマン」)

(和菓子「夢二の宵待草」)

  白餡饅頭「夢二」の包装箱には、夢二の美人画がプリントされており、箱の大きさに応じて絵が異なるので、思わずコンプリートしたくなります。これら包装箱にプリントされた美人画の実物は、岡山市の「夢二郷土博物館・本館」にて展示されています。おそらく、数ある夢二の美術館の中で、夢二の傑作とされる作品を最も多く所蔵しているのが「夢二郷土美術館・本館」のはずなので、夢二の生家や敷島堂と併せて行くことをおススメします。

(「夢二」10個入り包装箱)

(「夢二」20個入り包装箱)

(特注の詰め合わせは、晩年の傑作「立田姫」の絵柄)

(写真:岡山市「夢二郷土美術館・本館」)

 一方で、登録無効となってしまった、原告・豊島屋登録1931437号「夢二」ですが、実は、登録1673657号「夢路」との連合商標でした。
 連合商標制度(旧商標法7条)とは、同一人が所有する類似商標は、すべて「連合商標」として登録しなければならず、連合商標同士の分離移転を禁止することで、商品・役務の出所混同を防止することを目的とした制度でしたが、1996年に廃止されました。

登録1931437(指定商品「菓子及びパン」)

 そんな登録1673657号「夢路」の方は、未だ権利が存続しており、外皮に焦がし黄粉を使用した珍しい饅頭として、豊島屋の鎌倉本店限定で販売されています。
 ところで「夢路」といえば、夢二の初期の雅号が「竹久夢路」であり、実際、作品のサインにも「夢路」と書かれていることが確認できます。

(鳩サブレーの豊島屋の「夢路」)

(1911年発行「女子文壇」の口絵の「夢路」サイン)

 その味は、信玄餅のようで、まるで山梨県を連想させます。山梨県といえば、夢二の恋人の中で、夢二が最も愛したとされる「彦乃」の出身地が山梨県です。
 また、「夢路」の包装箱(裏面)には、「素朴なお味は、何か夢路をたどり、なつかしい故郷の風物を想い出し頂けるのでは、あの山あの川、古き我が家―――。」と説明書きが記載されていますが、この説明書きからも「夢二」と「彦乃」を連想させます。何故ならば、夢二は、自らを「川」に例え、彦乃を「山」に例え、互いに手紙をやりとりしたり、また、それをモチーフとして山と川が描かれた作品も複数あるためです。

(豊島屋「夢路」の包装箱裏面)
 

 このように、豊島屋の「夢路」も、所々で「竹久夢二」との共通点が感じられ、実は「夢路」も、「竹久夢二」をモチーフしたお菓子ではないのかと、夢が膨らみます。そこで気になって、豊島屋に問い合わせてみましたが、残念ながら、「夢路」と「竹久夢二」は特に関連ないとの回答。 

 今回の「竹久夢二事件」に関連して、私は、生家から墓場まで、全国ありとあらゆる夢二スポットや美術館を訪れました。竹久夢二の美人画は、最初は、旧い画風の絵程度にしか感じませんでしたが、夢二について知っていくにつれ、美人画の作風に裏打ちされた、恋を拗らせている感じの夢二が、同じく恋を拗らせている私にとって、非常に共感を覚えました。
 ただ、夢二が恋を拗らせているのは、3人の恋人たちを中心に、出会い・別れ・死別といった葛藤があったからこそであり、私は単にモテないだけだからなのですが。

(写真:「夢二」と「たまき」が営業していた雑貨屋「港屋」跡(東京・八重洲))

(T.T.)

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2022年10月31日月曜日

2つの「那須の御用邸」【御用邸事件 4①7】

 

 商標弁理士のT.T.です。
 さて、私が弁理士になった一番のキッカケは、最早、士業しか生きる道がないほど、人生の瀬戸際に立たされていたためでしょう。しかし結局は、私の中に士業という選択肢があったのは、不動産鑑定士だった祖父の影響が大きかったと思います。
 そんな私の祖父は、不動産鑑定士の第一期生として、様々興味深い不動産を取り扱ったとのことでした。例えば、ニュースで毎年報じられる銀座の土地の値段は、その評価基準を祖父が初めて定めたとか、一見プライスレスに思える「御用邸」も鑑定したとか。 

 ところで「御用邸」とは、「皇室の別邸」を意味し、現在では、那須(栃木県)、葉山(神奈川県)、須崎(静岡県)の三か所にあります。
 そのうち、「那須の御用邸」がある「那須高原」を舞台として、登録商標「御用邸」の有効性について争ったのが、「御用邸事件(知財高裁 平成25(行ケ)10028号)です。

 「御用邸事件」(知財高裁 平成25(行ケ)10028)とは、「株式会社いづみや」が販売していたお菓子「御用邸の月」(登録5415157号)に対して、「御用邸チーズケーキ」を販売する「株式会社庫や」と創業者X氏から、登録商標「御用邸」(登録3161363号)の商標権を侵害しているとして訴訟を提起されたため、逆に、「株式会社いづみや(被告)」が、登録3161363号「御用邸」に対して、公序良俗違反(商417号)を理由とした無効審判(無効2012-890048を請求した結果、無効審決となったことから、原告X氏が提起した審決取消訴訟です。
 知財高裁は、「『御用邸』が皇室の別邸であることは広く知られて」いることから、「皇室と何らの関係もない者が,自己の業務のために指定商品について『御用邸』の文字を独占使用することは,皇室の尊厳を損ね,国民一般の不快感や反発を招くものであり,相当ではない」として、登録3161363号「御用邸」公序良俗違反(商417号)を認定しました。

(登録3161363号)

  もちろん、公序良俗違反で商標登録が無効になったとしても、特段、商標として「御用邸」の使用を禁止された訳ではないため、現在でも、原告側の「御用邸チーズケーキ」は販売されています。被告の「御用邸の月」も販売されています。
 即ち、我々のような庶民は、通常、御用邸に立ち入ることは不可能ですが、那須高原では2つの御用邸を楽しむことができるのです。 

 

 まず、被告の「御用邸の月」とは、あの「杜の都銘菓」系統のお菓子で、まさに那須を照らす満月のようです。


「御用邸の月」が販売されているのは、JR黒磯駅からバスで約10分、「お菓子の城」バス停で下車してすぐの「お菓子の城 那須ハートランド」です。

 「お菓子の城」とメルヘンチックな銘を打っていますが、別に建物はお菓子で出来ていません。しかし、お城の中がお菓子工場になっており、量産されていく「御用邸の月」をガラス越しから眺めることができます。最初、真っ平だった生地が、いつの間に、ふっくらとした「御用邸の月」に変貌する製造工程は、例え商標の専門家じゃないとしても、弁理士として見逃せません。

 


そして次に、原告側の「御用邸」こと「御用邸チーズケーキ」とは、すごく濃厚チーズケーキです。


 「御用邸チーズケーキ」が販売されているのは、「お菓子の城」バス停から奥へ進むこと約1km「チーズガーデン前」バス停で下車してすぐの「チーズガーデン(那須本店)」です。


こちらも「チーズガーデン」とメルヘンチックな銘を打っていますが、別に地面はチーズで出来ていません。「チーズガーデン」のエントランスに来てみると、デカデカ「御用邸」と掲げられ、ロイヤルな風格を感じられます。

 「御用邸チーズケーキ」は、お持ち帰りだけでなく、チーズガーデン内にあるレストラン「しらさぎ邸」でも味わうことができます。

 早速注文したのが、「4種のチーズケーキ」です。4種とは、「御用邸チーズケーキ」と「御用邸栗チーズケーキ(季節限定)」と、その他2種のチーズケーキになります。一緒に頼んだ紅茶の名も「御用邸」。まさに(商標法上の)公序良俗違反づくしです。

(左端:御用邸栗チーズケーキ、右端:御用邸チーズケーキ)

(紅茶「御用邸」)

 ということで、那須では2つの「御用邸」を訪れた訳ですが、T.T.は、自家用車を持っておらず、公共交通機関を乗り継いできた都合上、被告「御用邸の月」の紙袋を持ったまま、原告側の「チーズガーデン」に乗り込む事態となってしまいました。例えるならば、阪神の応援席に単身、巨人のユニフォームを着て応援するような自爆行為に等しいです。私の存在自体が、公序良俗違反にならないか心配でした。


(T.T.)

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2022年10月22日土曜日

ヴィエンチャン出張

創英ASEANオフィスのIです。

本ブログ、最近は「聖地巡礼弁理士」の独り舞台となっている感がありますが、、久しぶりに投稿させていただきます。

さて、この2年半の間は、新型コロナ禍のためリアルな交流が制限され、対面でのミーティングの機会が失われていましたが、私が駐在しているタイは、2020326日に発令された非常事態宣言が9月末をもって解除され、また、101日から新型コロナの分類が「危険な感染症」から「監視すべき感染症」(インフルエンザ等と同じ分類)に格下げされ、名実ともにアフターコロナとなりました。

そのようなタイミングで、JETROさんからお声がけをいただき、タイの隣国であるラオスの首都ヴィエンチャンへと行って参りました。

今回のミッションは、ラオス知財局と商標ワークショップを行い、審査官の皆さん向けに「識別力に関する日本の商標審査」をレクチャーすることでした。

ラオス知財局の皆さんは、特に識別力に関する日本の審決・判決例に興味津々であり、ワークショップは私が一方的に話すというよりは、途中途中で、「これはなぜ識別力が認められたのか(あるいは、認められなかったのか)」「こういった場合はどのように判断されるのか」等々、多くの質問を受けてディスカッションが行われ、更にそこから別の具体的なケースへと展開して議論が大きく盛り上がり、大変充実したワークショップとなりました。用意されていた時間では時間が足りず、別のセッションの後にあらためてQ&Aの時間を設けたほどでした。



仕事のあとの楽しみといえば食事ですが、ラオスはかつてフランス領であった影響で、安くて美味しいフランス料理が食べられます。(私は今回初めて知ったのですが。。)折角ですので夕食に有名店を訪問し、コース料理を堪能しました。
2,000円程でこんなに美味しいフランス料理が食べられるとは!と驚きでした。



今回、ワークショップ以外には、ラオス知財局の視察やラオス現地代理人事務所の訪問等も行うことができ、
28か月ぶりの海外出張は、リアルな交流の重要性を思い出させてくれた貴重な機会となりました。 

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