2023年12月11日月曜日

「ひよ子」饅頭の工場見学に行ってきました【ひよ子立体商標事件 商3条2項】

 

 商標弁理士のT.T.です。
 12月といえば、クリスマスシーズンということで、「カーネル・サンダース人形」の立体商標登録4153602)でお馴染みKFC」のチキンが食べたくなる季節となりました。でも、今年のクリスマスは、立体商標は立体商標でも、チキンはチキンでも、「ひよ子立体商標事件」の「ひよ子」饅頭とかいかがですか? 

 指定商品を「まんじゅう」とした「ひよ子」立体商標のように、商品の形状そのもの表したに過ぎない立体商標は、通常、識別性がないとして登録が認められません(313)。しかし、「ひよ子」立体商標は、長年の使用による全国的な周知性を獲得したことが立証され、識別力を有しているとして、商標法32項を適用して登録が認められました(登録4704439号、権利者:株式会社ひよ子(被告))。 

登録4704439号 30類「まんじゅう」

 この登録4704439「ひよ子」立体商標に対し、有限会社二鶴堂(原告)から無効審判を請求され(無効2004-89076)、識別性(商313号・同2項)を争うこととなった事件が、「ひよ子立体商標事件」になります(平成17(行ケ)10673)。
※ちなみに、原告・有限会社二鶴堂は、「二鶴の親子」という「ひよ子」そっくりな饅頭を売っていた。 

(原告・有限会社二鶴堂の「二鶴の親子」)

 知財高裁は、次の理由により、「ひよ子」立体商標が、九州地方や関東地方を含む地域の需要者に広く知られているとは認定したものの、全国的な周知性を獲得するまでには至っていないと認定しました。

  1. 被告の直営店舗の多くは九州北部、関東地方等に所在し、必ずしも日本全国にあまねく店舗が存在しない。
  2. 「ひよ子」饅頭の販売形態や広告宣伝状況は、需要者が文字商標「ひよ子」に注目するような形態で行われていた。
  3. 原告の「二鶴の親子」をはじめ、全国各地に23もの業者が、鳥の形状の焼き菓子を製造販売していた。
  4. 鳥の形状の和菓子は、「虎屋」が江戸時代から「鶉餅(うずらもち)」を作っており、他にも全国各地で作られていることから、鳥の形状の和菓子は、わが国で伝統的なものである。
  5. 「ひよ子」饅頭の形状は、虎屋の「鶉餅」よりも単純な形状であるから、「ひよ子」立体商標の形状は、伝統的な鳥の形状の和菓子を踏まえた単純な形状の焼き菓子として、ありふれている。 
    (虎屋の「鶉餅」)

 そのため、登録4704439号「ひよ子」立体商標は、商標法32の「使用をされた結果需要者の何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」との要件を満たさないことから、識別性がない(3号)として、登録が無効となりました。

 「ひよ子」饅頭といえば、博多や東京のお土産とのイメージがありますが、その発祥は、どちらでもなく、福岡県の内陸都市「飯塚市です。なぜ飯塚市かといえば、飯塚市は元々炭鉱都市で、炭鉱労働者がエネルギー源として甘い菓子を好んだことから、お菓子作りが盛んな街だったためです。 

(写真:福岡県飯塚市「飯塚駅」)

(写真:三菱飯塚炭鉱第二坑跡)

 「ひよ子」饅頭の工場は、今も、飯塚市に2か所あり(飯塚総合工場、穂波工場)、西日本エリアで販売されている「ひよ子」饅頭は全てここから製造されています。ちなみに、東日本エリアの「ひよ子」饅頭は、埼玉県草加市の「東京工場」で製造されています。 

 これら全国3カ所にある「ひよ子」工場のうち、飯塚市「穂波工場」が唯一、工場見学ができるのです(要予約・無料)。もちろん、製造現場は撮影禁止ですが、廊下一本道の見学ルートで、ガラス越しから、「ひよ子」饅頭の製造ラインを眺めることができます。 

(写真:飯塚市・「ひよ子」穂波工場)

(写真:工場内ロビー)

 「ひよ子」饅頭の作り方といえば、私が小学生の頃に通っていた学習塾Nで、社会科の先生から、本物のヒヨコから中身をくり抜いて作っていると教わりました。しかし、そんなことは全くなく、包餡機で白餡を生地に包むプレス機で「ひよ子」の形に成形オーブンで焼く17分)電熱ヒーターで目付け冷却30分)包装・箱詰め、というほぼ全自動流れ作業を経て、約60分で完成します。 

 本物のヒヨコが、卵から長い時間かけて温められ誕生する一方で、「ひよ子」饅頭の製造工程で最も時間をかけているのは冷却であり、やはり、「ひよ子」と本物のヒヨコは、別物だと感じさせられました。
 また、「ひよ子」饅頭の目は凹みによって表現されていますが、「ひよ子」饅頭の成形時点ではまだ目がなく、オーブンで焼いた後、電熱ヒーターで穴をあけて目付けをするのは、拷問っぽくて残酷に感じました。なお、昔の「ひよ子」饅頭は、木型に生地を入れて成形し、焼きゴテで目付けをしていたとのことなので、昔の方がもっと残酷な感じだった模様。

(写真:昔の「ひよ子」の木型)

 その他の見所としては、廊下一本道の見学ルートの壁に沿って、「ひよ子」の歴史年表が記されていたことでしょうか。もちろん、その年表には、2003年(平成15年)829日:『ひよ子』が立体商標で登録(登録4704439号)」との記述は見当たりませんでした。 

 工場見学が終わった後は、併設の工場直売所で買い物もできますが、工場できたてホヤホヤの「ひよ子」饅頭も試食できます。試食するのは、目付け直後、冷却前の「ひよ子」饅頭なので、まだ温かいです。
 生まれたばかりで、つぶらな瞳で見つめてくる「ひよ子」を食べてしまうのは心苦しいですが、市販の「ひよ子」饅頭と比べ、外皮がサクサクし、熱がこもった白餡がフカシ芋のようで、新食感でした。

(写真:工場直売所)
(写真:つぶらな瞳で見つめる出来立ての「ひよ子」)

 さて、「ひよ子立体商標事件」の原告「有限会社二鶴堂」も、「ひよ子」と同じく福岡県の企業ということで、工場見学のついでに、「ひよ子」饅頭のそっくりさん・原告の「二鶴の親子」も買いに行くことに。ところが2023年時点で、「二鶴の親子」は絶版していました。残念。 

(写真:原告「有限会社二鶴堂」(福岡市))

 一方で、「ひよ子立体商標事件」の判決では、「ひよ子」の形状は「鶉餅(うずらもち)」よりも単純な形状であると、しれっとディスられていましたが、その虎屋の「鶉餅」は売っていました。その名の通り、ウズラを模した大福です。 

(写真:虎屋赤坂本店)

(左:ひよ子、右:鶉餅)

 しかし、実際に見比べてみると、確かに、羽が模様で表現されている分、「鶉餅」の方が「ひよ子」よりも創作性が上と思えますが、大した差ではないように思えます。味はどちらも美味しいし、どちらも違った可愛さがあります。ただし、「ひよ子」が1個約160に対し、「鶉餅」は1540と、お気軽に買える感じでないお値段です。

(写真:「ひよ子」と「鶉餅」の比較)

 「鶉餅」の購入難易度やや高めなのは、お値段だけでなく、時期的要因もあります。いつでも購入できるものでなく、毎年121日~15日だけの限定販売なのです。
 おかげで、「ひよ子」饅頭の工場見学が20233月だったにもかかわらず、なかなか直ぐにブログ化できず、202312月まで、ネタを長く温め続けなければならない羽目となりました。ヒヨコだけに。

(T.T.)


2023年12月4日月曜日

クリスマスケーキに「athlete Chiffon」はいかがですか?【athlete Chiffon事件 商3-1-3】

 商標弁理士のT.T.です。
 12月といえば、クリスマスシーズンということで、ケーキが食べたくなる季節となりましたが、商標弁理士的おススメなクリスマスケーキに、「athlete Chiffon」はいかがですか?
 何故おススメかといえば、今秋出来立てホヤホヤの審決取消訴訟「athlete Chiffon事件」があったからです。
(写真:athlete Chiffon

 「athlete Chiffon事件」(令和5(行ケ)10038)とは、商願2021-093231athlete Chiffon(標準文字)」(43類 飲食物の提供等)について、その識別性を争った事件です。

商願2021-093231 43類 飲食物の提供等

 知財高裁は、まず、「アスリートケーキ」「アスリートパンケーキ」等といった、運動選手向けであるという商品又は役務を表すものとして「アスリート(athlete)」の文字を語頭に配した語が広く使用される実情があると認定しました。また、「バナナシフォン」「バレンタインシフォン」等といった、語頭に提供対象・原材料・味を表す語が配された場合、語頭の部分は、後半に続く「シフォンケーキ」の種類、内容を表すものであると容易に理解できると認定しました。

 そうすると、本件商標は、これに接する需要者等に運動選手向けのシフォンケーキ」程度の意味合いを認識、理解させるものであるから、役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示させる商標といえるため、商標法313号に該当すると判断されました。

  ところで、「athlete Chiffon事件」の商願2021-093231athlete Chiffon」(43類 飲食物の提供等)は、出願人が弁理士の方のようですが、弁理士がケーキ屋を始めたということでしょうか?そうならば大変興味深いですが、違うようです。 

 実は、他にも、30類「菓子」等を指定商品とした商願2021-93227athlete Chiffon(標準文字)」もあり、こちらは別の個人の方が出願人となっています。そして、43類「飲食物の提供」の「athlete Chiffon」と30類「菓子」の「athlete Chiffon」は、出願人が異なりますが、代理人は何故か同じであることから、両出願は関連がありそうです。 

 どうやら、30類「菓子」の方の出願人が、静岡県・御殿場市で営業しているケーキ屋が「athlete Chiffon」というようで、つまり、ここが「athlete Chiffon事件」の舞台となったことは間違いないでしょう。
(写真:ケーキ屋「athlete Chiffon」)

 さて、「athlete Chiffon」でシフォンケーキを購入するには、ネットショップ経由で配達してもらうか、前日までに予約して当日店舗へ直接取りに行く方法があります。 

 ただし、特段の事情がない限りは、ネットショップで購入する方がいいでしょう。実店舗が水・木・金曜日(祝日含む)しかオープンしていないため、スケジュール的に、直接取りに行くのは難易度高めなためです。また、シフォンケーキは繊細な菓子であるため、持ち帰り時に潰さないよう、アスリート並みのバランス感覚が求められる点もあると思います。 

 もちろん、T.T.には、商標弁理士として、実店舗をこの目で確かめてみたいという特段の事情があったため、某祝日に、東京方面から小田急線とJR御殿場線を乗り継ぎ、約2時間かけて御殿場駅までやってきました。さらに、御殿場駅からバスで北西へ約3kmの所に「athlete Chiffon」があります。

(写真:JR御殿場線・御殿場駅)

(写真:ケーキ屋「athlete Chiffon」入口

 athlete Chiffon」では、「大豆athlete Chiffon」「ホエイathlete Chiffon」「黒豆きな粉athlete Chiffon」等の商品ラインナップがありましたが、今回は、最もオーソドックスと思われる「大豆athlete Chiffon」を購入しました。

(写真:大豆athlete Chiffon
 

 「大豆athlete Chiffon」は、大豆粉を使ったシフォンケーキで、スポーツ栄養学に基づき、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質をバランスよく配合した、アスリートの体づくりに最適なスイーツとなっています。ちなみに、30類「菓子」の方の出願人曰く、ご子息がスキーをやっていて、体づくりに最適なスイーツを研究した結果、「大豆athlete Chiffon」が誕生したとか。

 そして、「大豆athlete Chiffon」の味は、植物由来甘味料のやさしい甘さが、「Chiffon(絹)」のような食感で口の中で溶けてきます。大豆粉だからといって、何も損なわれるものはありません。T.T.も3日間かけ、パクパク平らげてしまいました。

(写真:「大豆athlete Chiffon」)

 創英でも最近、「パワー部」という筋肉を鍛える部活ができて、毎日、大豆プロテインバーを食べている所員を見かけますが、「athlete Chiffon」は、そういう人におススメのシフォンケーキだと思います。

(写真:創英パワー部で使用される懸垂器具)

 「大豆athlete Chiffon」が凄く良かったので、今度は「ホエイathlete Chiffon」「黒豆きな粉athlete Chiffon」も試してみたいところですが、もちろん、クリスマスシーズンには、クリスマス仕様の「athlete Chiffonもあります。 

 ところが、クリスマス仕様の「athlete Chiffon」を試してみようにも、一緒にクリスマスを祝ってくれる人がT.T.には居ません。いや、「athlete Chiffon」の需要者たるアスリートは、ストイックであるべきであって、ロマンスにうつつを抜かしている場合ではないのかもしれないが・・・

(T.T.)

事務所説明会・見学会【令和5年度 弁理士試験 合格者・これから弁理士試験合格を目指す方向け】

開催日時・開催場所:

202312 6日(水)18:3021:00 京都オフィス

202312 8日(金)18:3021:00 東京オフィス・福岡オフィス

20231213日(水)18:3021:00 横浜オフィス


対象者:

「令和5年度 弁理士試験 合格者」及び「これから弁理士試験合格を目指す方」

※学生の方、会社勤務の方、特許事務所勤務の方等、現在の職業・実務経験の有無を問いません。

 
プログラム概要:

・事務所説明 「創英で弁理士として働くことの魅力」

・オフィス見学

・懇親会(※参加は任意です。申し込みフォームにて選択可能です。)



2023年11月6日月曜日

子育て世代と商標弁理士に魅力的な街・流山市おおたかの森【おおたかの森事件 50条・正当な理由】

 商標弁理士のT.T.です。
 T.T.の周囲にも既婚者・子育て世代が多くなってきており、彼らが好む話題といえば、「どの場所が住みやすい」とか「どの場所が子供の教育によい」ばかりで、実家暮らしの独身貴族T.T.には、会話内容についていけない一抹の寂しさを感じることがあります。そんな既婚者・子育て世代たちにとっては、特に「千葉県流山市・おおたかの森」が魅力的な場所のようです。 

 確かに、「千葉県流山市・おおたかの森」は、つくばエクスプレスと東武野田線がクロスする「流山おおたかの森駅」を中心にショッピングセンターやマンションが割拠し、既婚者・子育て世代には魅力的に映る街なのでしょう。そして、商標弁理士にとっては、不使用取消審判の「正当な理由」(商標法502項但書)が争点となった事件「おおたかの森事件」としても魅力的な街なのです。

おおたかの森事件」(平成20年(行ケ)1034410160)とは、流山市在住のX(個人)の登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」に対して、流山市で「おおたかの森」という純米吟醸酒等を製造販売していた酒小売業「有限会社かごや商店」が「33類 日本酒,洋酒,果実酒」について、また、同じく流山市で「おおたかの森」という和菓子を製造販売していた和菓子屋「菓匠 美しまや」Y(個人)が「30類 和菓子,洋菓子,飴菓子」について、それぞれ不使用取消審判を請求した事件です(取消2007-300926・取消2007-301260)。

登録4786694

いずれの審決取消訴訟においても、商標権者Xは、商標登録後、米国・ハワイ大学で博士号取得のため、農業資源経済学の研究に従事していて、年末年始・春季及び夏季の休業の間などに数日間一時帰国することはあっても、それ以外は、ハワイ大学での研究で多忙だった事情や、Xが優れた研究をしたことで学問・社会へ貢献した事情があることから、「登録商標の使用をしていないことに正当な理由502項但書)」があると主張しました。 

しかし、知財高裁は、「正当な理由」とは、法的な規制や天災で商品を製造販売できなかったなど、商標権者等の責めに帰すことができない事情によって審判請求の予告登録前3年以内に登録商標を使用できなかった場合を指し、Xの事情は「正当な理由」には該当しないとして、登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」は、「33類 日本酒,洋酒,果実酒」及び「30類 和菓子,洋菓子,飴菓子」について、登録が取り消されました。

 ちなみに、知財高裁には、202010月~20236月に所長も務めた、大鷹一郎裁判官(現・弁護士)がいらしたかと思います。「おおたかの森事件」を大鷹裁判官が担当していたら面白いなとは思っていましたが、別に担当ではありません。
これは、「おおたかの森」と「大鷹」が一致するから、裁判の公正を妨げるべき事情にあたり、民訴法24条により忌避されたという訳ではなく、そもそも、事件当時の2008年、大鷹裁判官は東京地裁に赴任していたので、物理的に担当できなかっただけなのですが。


 さて、ユニークな町名「おおたかの森」の由来は、「流山おおたかの森駅」近くの「市野谷の森」にオオタカが生息していることから来ています。ただし、「市野谷の森」でオオタカを見かけた例は滅多になく、むしろ、市境を流れる江戸川で、餌のネズミを求めて飛来する目撃情報の方が多いとのこと。これでは、「流山おおたかの森」というよりは、「流山おおたかの川」になってしまいますし、こっちの方が、語呂がよいような気がします。

(写真:市野谷の森


(写真:流山市から望む江戸川)

冗談はさておき、「流山おおたかの森駅」は、2005年のつくばエクスプレス開業に先立ち、当初は「流山中央駅」となる予定だったのですが、流山市からの提案により、2003108に「流山おおたかの森駅」が正式採用されることとなりました。 

 ところが、登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」が出願されたのは、2003116と、駅名の正式採用から約1か月後になります。これは、偶然に出願されたものだったのでしょうか? 

 場合によっては、登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」とは、市の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、「おおたかの森」名称による利益の独占を図る意図があったようにも見えてしまいます。そうすると、商標法417号・公序良俗違反による無効審判を請求する余地もあったような気がしてなりません(cf. 母衣旗事件、激馬かなぎカレー事件)。 

 しかし、無効審判とは、審判請求人が無効理由を主張する必要があり、おまけに公序良俗違反の立証は特に容易ではありません。その一方で、不使用取消審判の場合は、商標権者が登録商標の使用を立証しなければならず審判請求人側の立証責任は基本的にありません
 その点では、「継続して三年以上……使用をしていない」という条件はあるものの、「有限会社かごや商店」や「菓匠 美しまや」にとって負担の軽い、不使用取消審判の方が、やはり、解決策としては適切だったのでしょう。

 

そうして、登録4786694号の一部指定商品が取消となり、安心して商品名「おおたかの森」を使用できるようになった流山市の「有限会社かごや商店」や「菓匠 美しまや」ですが、現在においても、「流山市ふるさと産品」として「おおたかの森」商品が販売されています。 

 「有限会社かごや商店」の「おおたかの森」は、純米吟醸酒・梅酒・柚子酒の3種です。梅酒・柚子酒というと、通常は焼酎に漬けて作られると思いますが、梅酒・柚子酒の「おおたかの森」は、純米吟醸酒「おおたかの森」に漬けて作られています。そのためか、純米吟醸酒「おおたかの森」そのものも、甘めなテイストに仕上がっています。

(写真:有限会社かごや商店)

(写真:梅酒・純米吟醸酒・柚子酒の「おおたかの森」)

 「菓匠 美しまや」の「おおたかの森」は、白餡饅頭です。流山市はブドウ農園が多いということで、ブドウ果汁が餡に練られており、むしろ餡饅頭です。今まで、「ひよ子立体商標事件」の「ひよ子」、「竹久夢二事件」の「夢二」、「野路菊事件」の「野路菊の里」といった商標事件にまつわる数々の白餡饅頭を食べてきましたが、味の斬新さは「おおたかの森」が抜きん出ているでしょう。 

(写真:菓匠 美しまや
(写真:紫餡饅頭「おおたかの森」)

 こうして、今も今後もT.T.とは縁がないであろう「千葉県流山市・おおたかの森」に、「おおたかの森事件」をキッカケとして来てしまいましたが、つくばエクスプレスにより造成された近未来的都市のイメージだけでなく、その名の通り、自然もちゃんとあり、実は果物天国の側面があることも知ることができました。
 ちなみに、T.T.のような独り身が「おおたかの森」に突撃すると、病むとの噂もありましたが、そんなことは全くなかったです。流石、丸の内に毎回出社して、キラキラした人ばかり見ていたら、耐性がついてしまったようだ。

(T.T.)

事務所説明会・見学会【令和5年度 弁理士試験 合格者・これから弁理士試験合格を目指す方向け】

開催日時・開催場所:

202312 6日(水)18:3021:00 京都オフィス

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2023年10月23日月曜日

商標弁理士♂がバレナイ二重を付けても本当にバレないか?【バレナイ二重事件 商標権の効力の制限(26条)】


 商標弁理士の
T.T.です。
 T.T.は、まだ弁理士受験生だった頃、渋谷の予備校代を捻出するために、渋谷のドラッグストアで品出しバイトをしていたことがありました。 

品出しで特に大変と感じていたのが、T.T.とは縁もない、女性用化粧品の陳列でしょう。多岐にわたる用途がある女性用化粧品は、覚えるのが大変でしたが、知見を広げられた点では有意義だったと思います。 

そんな女性用化粧品の中で、特に印象的だったのが、ノーブル株式会社の「バレないふたえ」という商品です。その名の通り、バレないように二重を作るためのテープですが、そこまでして二重になりたいのかと、美に対する女性の執念に驚かされました。

(写真:ノーブル株式会社の「バレないふたえ」)
 

ところが、「バレないふたえ」は正式名称ではなく、本当の商品名は「Prudor(プリュドール)」という罠です。確かに、「バレないふたえ」の文字は、大きく明瞭な書体で目立つように表示されている一方で、その上方でPrudor(プリュドール)」の文字が、小さくやや不明瞭に表示されており、一見しても、「バレないふたえ」が商品名のように思えてしまいます。

しかし、商品棚のプライスカードにも「プリュドール」と記載されており、「バレないふたえ」の「バ」の字もないので、「バレないふたえ」が商品名でないことは明らかです。そのため、いくら探しても「バレないふたえ」のプライスカードが見つからずに、品出しで苦労させられた思い出があります。 

 このことから、「バレないふたえ」とは、「バレない」ように「ふたえ」を作るという商品の効能を簡潔に伝えるための説明文としての側面を持っており、それで問題になった事件が「バレナイ二重事件」になります。 

 「バレナイ二重事件」(令和3()33526)とは、被告の二重テープと二重ノリのパッケージに表示された「バレナイ二重」が、ノーブル株式会社(原告)の登録商標「バレないふたえ(登録5648844号・登録5607340号、指定商品「3類 二重瞼形成用化粧品等」)の商標権を侵害しているとして、販売等の差止め・損害賠・謝罪広告を求め、訴えを提起した事件です。 

(被告の二重テープと二重ノリ
 

 東京地裁は、①「二重瞼形成用化粧品等…の宣伝広告においては、化粧品…により一重瞼を二重瞼に整えたことが他人に容易に露顕しないという当該化粧品…の効能や役務の内容を説明又はそのような効能等をうたうキャッチフレーズと理解される表現として、『ばれない』等に、『二重』を組み合わせたものが多数みられる」、②「需要者に対して商品等の内容等を積極的・効果的に訴求するために、当該商品の包装の目立つ位置ないしデザイン等で当該商品の内容などを示すことは通常行われる」といった理由により、被告「バレナイ二重」の表示は、商品の効能等の説明ないしキャッチフレーズに該当し、自他商品識別又は出所表示機能として機能しないとしました。 

したがって、被告「バレナイ二重」の表示は、何人かの業務に係る商品であることを認識することができない態様で使用されていることから、商標権の効力が及ばない(商標法2616号)として、商標権侵害が認定されませんでした。

(原告・登録5648844
(原告・登録5607340

 さて、原告「バレないふたえ」とは、レーヨン不織布の片側接着テープで、テープをまぶたの上に貼り、まぶたに食い込ませることで、二重を作る仕組みです。レーヨン不織布の色が肌色と近いため、二重テープを付けたまま、その上に化粧をしてもナチュラルに仕上がることから「『バレない』ふたえ」なのでしょう。

(写真:原告「バレないふたえ」の中身)

 一方の被告「バレナイ二重」は、二重テープと二重ノリの2タイプがありますが、テープの方は、両面テープで、両面にまぶたを張り付けることで、二重を作る仕組みなのが、原告「バレないふたえ」とは異なります。また、こちらの本当の商品名は「Eye Catching Beauty(アイキャッチングビューティー)」のようです。

(写真:被告「バレナイ二重」の中身)
 

 しかし、被告「バレナイ二重」は、「バレナイ二重事件」では勝訴したものの、事前のリスク回避のためか、その使用を既に終了しており、あざかわ二重」という表示に変更していました。「あざかわ二重」の「あざかわ」とは、もちろん、「あざとい」と「可愛い」を合体した造語あざとかわいい」を意味するのでしょう。

(写真:変更前「バレナイ二重」→変更後「あざかわ二重」)

 ところで、T.T.は「あざとかわいい」ことで知られる有名人A氏と高校の部活が同じでした。高校時代を知る私からすれば、可愛いことは無論のこと、彼女のあざとさは、天性の才能であり、決してテレビのために仕組まれた演出ではありません。 

 つまり、何が言いたいかといえば、「あざかわ二重」こと被告の二重テープを装着することで、「可愛く」なることはできるかもしれませんが、後天的に「あざとく」なることはできないはずです。そうすると、被告「あざかわ二重」の表示は、比喩的であり、商品の効能等を直接的に説明しているとまでは言い難いことから、商品の識別標識として機能しているのでしょうか?また、第三者に「あざかわ二重」が商標登録されるリスクはないのでしょうか? 

 現実は、複数の化粧品会社から「3類 化粧品(04C01)」を指定商品として「あざと可愛い」(商願2021-35033)や「あざとカワイイ」(商願2021-43420)が出願されていましたが、いずれも「透明感のあるナチュラル系メイクに用いる商品の宣伝文句として使用されている実情」があることから、商標法316号に該当し、拒絶査定となっていました(ただし、両者とも意見書は提出されていない。)。

(商願2021-35033)
(商願2021-43420)

 そのため、「あざかわ二重」も、キャッチフレーズに該当するため、「3類 二重まぶた形成用テープ(04C01)」を指定商品としてプレーン書体で、第三者に登録される可能性は低いでしょうし、万が一、第三者に商標登録されたとしても、商標権の効力は及ばないとの主張(261項各号)も可能と考えられます。結論として、被告が「バレナイ二重」から「あざかわ二重」へ表示を変更したとしても、安心して使用できる可能性が高く、真っ当なリスク回避だったことが分かります。 


 さて今回、「バレナイ二重事件」のために、原告「バレないふたえ」と被告「バレナイ二重(あざかわ二重)」の両方を購入しましたが、ここで、右目に原告「バレないふたえ」を装着し、左目に被告「バレナイ二重」を装着し、商品の効能表示どおりに、T.T.が二重であることがバレないのか、という「一周間バレナイふたえ生活」企画していました。 

 ところが、T.T.は、まぶたの皮が厚いようで、二重テープごときでは二重が形成できず、企画はおじゃんとなりました。T.T.は面の皮が厚いと、たまに言われますが、リアルにまぶたの皮まで厚くなくていいのに・・・

(T.T.)

事務所説明会・見学会【令和5年度 弁理士試験 合格者・これから弁理士試験合格を目指す方向け】
https://careers.soei.com/tour/

開催日時・開催場所:

202312 6日(水)18:3021:00 京都オフィス

202312 8日(金)18:3021:00 東京オフィス・福岡オフィス

20231213日(水)18:3021:00 横浜オフィス


対象者:

「令和5年度 弁理士試験 合格者」及び「これから弁理士試験合格を目指す方」

※学生の方、会社勤務の方、特許事務所勤務の方等、現在の職業・実務経験の有無を問いません。

 
プログラム概要:

・事務所説明 「創英で弁理士として働くことの魅力」

・オフィス見学

・懇親会(※参加は任意です。申し込みフォームにて選択可能です。)


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