2023年5月25日木曜日

弁理士受験生が行っちゃダメな知財スポット?【タコの滑り台事件 応用美術】

 

 商標弁理士のT.T.です。
 さて、「タコ」は英語で「オクトパス(octopus」なんていいますが、「置くとPASS」するということで、旧来より、受験の縁起物として、様々なタコグッズが販売されています。実際、私も弁理士受験生時代、宮城県南三陸町のゆるキャラ「オクトパスくん」人形を購入したその年、最終合格できました。

(宮城県南三陸町のゆるキャラ「オクトパスくん」)

(広島県・三原駅の駅弁「元祖珍辨たこめし」)

 しかしながら、いくら「タコ」といえども、中には、受験生的に不吉なものもあり、それが、著作権法「タコの滑り台事件」に登場する「タコの滑り台」でしょう。 

タコの滑り台事件」(令和3()10044)とは、被告「株式会社アンス」が製作したタコの滑り台2に対し、原告「前田環境美術株式会社」のタコの滑り台の著作権を侵害しているとして、損害賠償を求めた事件です。

(原告滑り台:兵庫県赤穂市「尾崎第3公園」)

(被告滑り台1:東京都東久留米市「南町第12緑地」)

(被告滑り台2:東京都足立区「上沼田東公園」)

 知財高裁は、タコの滑り台のような応用美術ついて、「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものについては,当該部分を含む作品全体が美術の著作物として,保護され得る」ことを基準(分離可能性説)として、その著作物性を判断しました。 

その上で、原告滑り台の「天蓋部分を除いたタコの頭部を模した部分」「タコの足を模した部分」「空洞(トンネル)部分」については、滑り降りる・転落防止・隠れん坊をする等の機能を有し、滑り台(遊具)としての実用目的に必要な構成であるとしました。 

一方で、「タコの頭部を模した部分の天蓋部分」は、滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成から分離できるとしたものの、その形状自体が単純で、タコの頭部の形状としてもありふれていることから、創作性がないとしました。
 そのため、原告滑り台は、美術の著作物としての著作物性がないと判断されました。

(写真:分離できるとされた天蓋部分)

また、原告滑り台が、建築の著作物として保護されるかという点についても、先ほどの分離可能性説の判断基準を用いた上で、建築物である遊具のデザインとしての域を出ないとして、著作物性がないと判断されました。 

 したがって、原告滑り台は、美術の著作物(著2104号)や建築の著作物(著2105号)にも該当しないとして、被告滑り台による著作権侵害は認定されませんでした。

ちなみに、被告滑り台2(東京都足立区「上沼田東公園」)から、北東へ徒歩15分ぐらいのところには、原告の前身「前田商事」が、1971年頃に製作したという、日本で初めて設置されたタコの滑り台1(新西新井公園)が、未だ現役バリバリです。ただし、タコというよりは、宇宙船に魔改造されていますが。

(写真:タコの滑り台1号(足立区・西新井公園))

 今回の「タコの滑り台事件」に登場した原告滑り台は、タコの滑り台1号よりも小型の「ミニタコ」と呼ばれるバリエーションらしく、兵庫県赤穂市の「尾崎第3公園」にあります。
 赤穂市といえば、赤穂藩の“浪人”が活躍した「忠臣蔵」でもお馴染みの「赤穂城(跡)」が街のシンボルです。また、日本百景にも選ばれた岬「御崎(みさき)」も有名で、恋人の聖地として祭り上げられています。

(写真:兵庫県赤穂市・播州赤穂駅)

(写真:赤穂城)

(写真:恋人の聖地「御崎(みさき)」)

そして、「尾崎第3公園」は、「赤穂城(跡)」と「御崎(みさき)」の中間辺りに位置し、元々江戸時代には、塩田が広がっていた地域のようです。平坦で長方形の土地からなる「尾崎第3公園」は、一見何も変哲ないようで、実は、かつて日本一と言われた赤穂の塩田を彷彿とさせます。

(写真:尾崎第3公園)

 

そんな中、原告滑り台は、「尾崎第3公園」の北東部角に鎮座しています。「タコの滑り台事件」判決文に添付された原告滑り台の写真は、塗装が剥げていましたが、2023年時点では、赤く再ペイントされたようで、茹でタコみたいで美味しそうです。
 なお、タコの滑り台だけでなく、「尾崎第3公園」には、ミニミニタコ像や、タコの水飲み・水洗い場もありました。

(左:判決文添付の写真 右:2023年時点の写真)
(写真:ミニミニタコ像)

(写真:タコの水飲み・水洗い場)

さて、原告滑り台は、頭部空洞から、正面・右・左に2つ、のべ4つの「スライダー(タコの足)」が伸びていますが、どのスライダーも、仰角約45度と滑り台にしては急斜面であり、モルタル製なのも相まって、一段と滑りやすいです。やはり、ゲン担ぎに神経質な受験生には、本当にオススメしません。

(写真:正面スライダーから滑った図)
 

ところで、原告滑り台の「側面」に着目すると、正面スライダーから頭部にかけて連続して流れるように後方に向かって天を衝くような形となっており、また、頭部と背面部により「」の字を形作っており、この形状によって、ある種の緊張感を与えているところに、著作物性があると、原告は主張していました。

(写真:原告が著作物性を主張する側面の形状)
 

 しかし、現実に、ある種の緊張感を与えていたのは、側面から見た形状よりも、背面に備え付けられた階段ではないでしょうか?その足場は、細い鉄棒を「コ」の字に曲げて作られた簡素なもので、階段としては心もとない感じがします。そのため、タコの滑り台で遊ぶ児童にとっては、この階段を登ることに、ある種の緊張感を強いられるように思われます。

(写真:背面)

(写真:滑り台の階段)

 そして、原告滑り台の「空洞部」に着目すると、実態との対比において、絶妙な虚の世界ないし神秘的な空間を醸し出しており、また、左右の空間と頭部の空間で、トライアングルをなして、バランスのとれた虚の空間を生み出しているところに、著作物性があると、原告は主張していました。

(写真:原告が著作物性を主張する3つの空洞)

 そこで私も実際に、原告滑り台の空洞へ籠ってみて、その創作的に表現された思想又は感情とやらを体感してみることに。穴に籠った私は、何か哲学的悟りを開いたというより、むしろ、いい歳の大人が、滑り台で遊んでいることに対する羞恥心が上回ってきました。まさに、穴があったら入りたい。ほらやっぱり、タコの滑り台はただの実用品じゃないか。

(写真:空洞に籠ってみたが、何も悟りを得られなかった。)

(T.T.)


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2023年5月2日火曜日

弁理士が「それパク」ロケ地を聖地巡礼してみた #チザテツ

 「聖地巡礼弁理士」こと、商標弁理士のT.T.です。
 しかしながら、そもそも「聖地巡礼」とは、ドラマやアニメの舞台となった地を実際に訪れることを言い、当ブログのように、知財判決スポットを訪れることを本来意味しません

 ところで最近、日テレで毎週水曜2200から、弁理士が主演のドラマ「それってパクリじゃないですか?が始まりましたが、やはり「聖地巡礼弁理士」を称する以上、そのロケ地を巡礼するのが使命である気がしてなりません。

 そこで、この記事が投稿された時点では、3話までしか放送されていませんが、他の知財系ブログにネタをパクられる前に、早速、「それパク」のロケ地を聖地巡礼してきました。 

 聖地とは言っても、全て紹介するとキリないので、「聖地巡礼弁理士」厳選、巡礼し甲斐ある4スポット「①月夜野ドリンク」「②上総緑町駅」「③落合製菓食品」「④カフェ『ふらフラワー』」を紹介することにしましょう。

 ①月夜野ドリンク(ZERO NOIR

 「それパク」の主人公・藤崎亜季や北脇弁理士が勤務する「月夜野ドリンク」は、群馬県の中堅飲料メーカーという設定のようですが、実際のロケ地は、千葉県木更津市です。
 JR内房線「巌根駅」から徒歩6分の所にある撮影スタジオ「ZERO NOIR(ゼロ・ノアール)」が「月夜野ドリンク」社屋となります。どおりで、中堅企業からイメージされる堅実さとは真逆の、あの独特の建物だった訳です。 
(写真:JR内房線「巌根駅」)
(写真:月夜野ドリンク社屋)

 ただし、撮影スタジオということで、関係者以外は立ち入り禁止のため、「月夜野ドリンク」社屋は、塀の外からしか眺められません。ちなみに、「ZERO NOIR」の正門からは、あの非常階段(?)を望むことができました。

(写真:あの非常階段?)

②上総緑町駅(小湊鐡道・上総鶴舞駅)

 ドラマ「それパク」第2話で、パロディ商品「緑のおチアイさん」に対し、亜季と北脇弁理士が「落合製菓食品」へ警告に行くために乗った列車が、千葉県のローカル私鉄「小湊鐡道」になります。 

 ここで、注意しなければならないのが、ドラマでは、列車が走る様子を映した映像には「キハ200形気動車が使われていた一方で、何故か、列車内でのシーンには「キハ40系気動車が使われおり、つまり、車外と車内で異なる列車が映像に使われていた点でしょう。

(写真:キハ200形気動車
(写真:キハ40系気動車

 聖地巡礼としては、やはり、亜季や北脇弁理士が座った「キハ40系気動車」に乗ってみたいところですが、どちらの車両が来るかは、運次第のようです。ちなみに、亜季や北脇弁理士が、ドラマ内で座っていたのは、下り方面(上総中野方面)進行方向右手の最後尾の席と推定されます。 

(写真:亜季&北脇が座ったと推定される席)

 そして、「落合製菓食品」の最寄である「上総緑町駅」は、小湊鐡道の始発・五井駅から35分乗った先にあります。本当の名前は「上総鶴舞駅」です(千葉県市原市)。

(写真:上総鶴舞駅)
 この駅の特徴としては、駅舎が大正14年に建造されたものと古く、「関東の駅百選」にも認定されたことでしょう。ドラマ「相棒」のロケ地、「ゆず」や「ももクロ」のPVといった、映像作品にも多数登場します。ただし、駅周辺には民家と畑と新聞屋以外、特に何もありません。もちろん、「落合製菓食品」もありません。 

③落合製菓食品(たぶん…世界一小さいチョコレート工場)

 そんな「落合製菓食品」のロケ地は、上総緑町駅こと「上総鶴舞駅」近くではなく、JR東金線「福俵駅」(千葉県東金市)から徒歩30分、「たぶん世界一小さいチョコレート工場」になります。
 これは、千葉の菓子メーカー・株式会社三真の工場直売所で、確かに、直売所横には、家のリビングほどの小さなチョコレート工場が併設されていました。ちなみに、工場はガラス越しに見学できますが、写真撮影は禁止です。ドラマでは、他人の商品をパクっちゃうほど知財に疎い設定だったのに、現実は、知財対策バッチリなようです(?)
(写真:JR東金線「福俵駅」)

(写真:たぶん世界一小さいチョコレート工場(国道126号沿い)

 看板は、「たぶん…世界一小さいチョコレート工場」の部分が、ドラマでは、「カネ”オ”」マークと「()落合製菓食品」となってましたが、「¥100税込 ミルクシェイク」の部分は、本物もドラマも同じです。その「ミルクシェイク」も、実際にテイクアウトできました。


(写真:ドラマでもチラッと映ってた牛の人形とミルクシェイク)

 そして、ドラマに映っていた落合製菓のお菓子も、テレビ局が用意したセットではなく、実際に販売されているものです。せっかくなので、聖遺物としていくつか購入しました。

(写真:店内の様子)

(写真:聖遺物)

 ただし、流石に「緑のおチアイさん」は売っていませんでした。やはり、類似商標に厳しい某社が番組スポンサーなだけあるのかもしれません。
 その代わり、「緑のおチアイさん」っぽいものとして、抹茶味のお菓子が3種類(ピーカンナッツ&板チョコ×2)あったので、購入してみました。味はいずれも、濃厚な抹茶味でしたが、「緑のお茶屋さん」みたいな初めて飲んだ人は顔をしかめるが、だんだん癖になるような苦さ」ではないです。
(写真:抹茶味のピーカンナッツ、板チョコ×2)

④カフェ「ふらフラワー」(ALL THE ORZA

 「それパク」のロケ地が千葉県に集中する中、亜季の親友・根岸ゆみが勤めるカフェ「ふらフラワー」は、打って変わって、神奈川県川崎市にあります。JR南武線「中野島駅」から徒歩7分の所にあるカフェ「ALL THE ORZA」がロケ地です。
(写真:JR南武線「中野島駅」)

(写真:ALL THE ORZA

 「ALL THE ORZA」には、看板猫(リリィ)も居ませんし、キャットタワーもありませんが、ドラマでたびたび映る、特徴的な薪ストーブはありました。席の配置も、ドラマと全く同じようです。

(写真:特徴的な薪ストーブ)

  また、ドラマには出てきませんが、「ALL THE ORZA」には庭園があり、植物・ブランコ・動物オブジェを眺めながら食事ができる、テラス席やベンチ席があります。加えて、料理もおいしいと評判なことから、「ALL THE ORZA」は地元の女性に人気のようで、予約が必要な時もあるほど混雑しています。

(写真:テラス席から見える庭)

 私が「ALL THE ORZA」に来た時も混んでおり、入店できないこと覚悟しましたが、運よく、入口入って右手側、電子オルガン裏のお一人様ソファー席が空いていました。この席、ドラマ「それパク」第1話冒頭にて、北脇弁理士が座っていた席だった模様。図らずも、T.T.弁理士と北脇弁理士は、おシリ合いとなってしまったようです。

(写真右下の電子オルガン裏に北脇弁理士が座っていた。)

(写真:北脇弁理士が実際に使っていた机)

(T.T.)

参照:今回紹介した「それパク」聖地のJR路線図




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