確かに、「千葉県流山市・おおたかの森」は、つくばエクスプレスと東武野田線がクロスする「流山おおたかの森駅」を中心にショッピングセンターやマンションが割拠し、既婚者・子育て世代には魅力的に映る街なのでしょう。そして、商標弁理士にとっては、不使用取消審判の「正当な理由」(商標法50条2項但書)が争点となった事件「おおたかの森事件」としても魅力的な街なのです。
「おおたかの森事件」(平成20年(行ケ)10344号・10160号)とは、流山市在住のX(個人)の登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」に対して、流山市で「おおたかの森」という純米吟醸酒等を製造販売していた酒小売業「有限会社かごや商店」が「第33類 日本酒,洋酒,果実酒」について、また、同じく流山市で「おおたかの森」という和菓子を製造販売していた和菓子屋「菓匠 美しまや」のY(個人)が「第30類 和菓子,洋菓子,飴菓子」について、それぞれ不使用取消審判を請求した事件です(取消2007-300926・取消2007-301260)。
いずれの審決取消訴訟においても、商標権者Xは、商標登録後、米国・ハワイ大学で博士号取得のため、農業資源経済学の研究に従事していて、年末年始・春季及び夏季の休業の間などに数日間一時帰国することはあっても、それ以外は、ハワイ大学での研究で多忙だった事情や、Xが優れた研究をしたことで学問・社会へ貢献した事情があることから、「登録商標の使用をしていないことに正当な理由(50条2項但書)」があると主張しました。
しかし、知財高裁は、「正当な理由」とは、法的な規制や天災で商品を製造販売できなかったなど、商標権者等の責めに帰すことができない事情によって審判請求の予告登録前3年以内に登録商標を使用できなかった場合を指し、Xの事情は「正当な理由」には該当しないとして、登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」は、「第33類 日本酒,洋酒,果実酒」及び「第30類 和菓子,洋菓子,飴菓子」について、登録が取り消されました。
さて、ユニークな町名「おおたかの森」の由来は、「流山おおたかの森駅」近くの「市野谷の森」にオオタカが生息していることから来ています。ただし、「市野谷の森」でオオタカを見かけた例は滅多になく、むしろ、市境を流れる江戸川で、餌のネズミを求めて飛来する目撃情報の方が多いとのこと。これでは、「流山おおたかの森」というよりは、「流山おおたかの川」になってしまいますし、こっちの方が、語呂がよいような気がします。
冗談はさておき、「流山おおたかの森駅」は、2005年のつくばエクスプレス開業に先立ち、当初は「流山中央駅」となる予定だったのですが、流山市からの提案により、2003年10月8日に「流山おおたかの森駅」が正式採用されることとなりました。
ところが、登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」が出願されたのは、2003年11月6日と、駅名の正式採用から約1か月後になります。これは、偶然に出願されたものだったのでしょうか?
場合によっては、登録4786694号「OOTAKANOMORI\おおたかのもり」とは、市の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、「おおたかの森」名称による利益の独占を図る意図があったようにも見えてしまいます。そうすると、商標法4条1項7号・公序良俗違反による無効審判を請求する余地もあったような気がしてなりません(cf. 母衣旗事件、激馬かなぎカレー事件)。
しかし、無効審判とは、審判請求人が無効理由を主張する必要があり、おまけに公序良俗違反の立証は特に容易ではありません。その一方で、不使用取消審判の場合は、商標権者が登録商標の使用を立証しなければならず、審判請求人側の立証責任は基本的にありません。
その点では、「継続して三年以上……使用をしていない」という条件はあるものの、「有限会社かごや商店」や「菓匠
美しまや」にとって負担の軽い、不使用取消審判の方が、やはり、解決策としては適切だったのでしょう。
そうして、登録4786694号の一部指定商品が取消となり、安心して商品名「おおたかの森」を使用できるようになった流山市の「有限会社かごや商店」や「菓匠 美しまや」ですが、現在においても、「流山市ふるさと産品」として「おおたかの森」商品が販売されています。
「有限会社かごや商店」の「おおたかの森」は、純米吟醸酒・梅酒・柚子酒の3種です。梅酒・柚子酒というと、通常は焼酎に漬けて作られると思いますが、梅酒・柚子酒の「おおたかの森」は、純米吟醸酒「おおたかの森」に漬けて作られています。そのためか、純米吟醸酒「おおたかの森」そのものも、甘めなテイストに仕上がっています。
「菓匠 美しまや」の「おおたかの森」は、白餡饅頭です。流山市はブドウ農園が多いということで、ブドウ果汁が餡に練られており、むしろ紫餡饅頭です。今まで、「ひよ子立体商標事件」の「ひよ子」、「竹久夢二事件」の「夢二」、「野路菊事件」の「野路菊の里」といった商標事件にまつわる数々の白餡饅頭を食べてきましたが、味の斬新さは「おおたかの森」が抜きん出ているでしょう。
こうして、今も今後もT.T.とは縁がないであろう「千葉県流山市・おおたかの森」に、「おおたかの森事件」をキッカケとして来てしまいましたが、つくばエクスプレスにより造成された近未来的都市のイメージだけでなく、その名の通り、自然もちゃんとあり、実は果物天国の側面があることも知ることができました。
ちなみに、T.T.のような独り身が「おおたかの森」に突撃すると、病むとの噂もありましたが、そんなことは全くなかったです。流石、丸の内に毎回出社して、キラキラした人ばかり見ていたら、耐性がついてしまったようだ。
開催日時・開催場所:
2023年12月 6日(水)18:30-21:00 京都オフィス
2023年12月 8日(金)18:30-21:00 東京オフィス・福岡オフィス
2023年12月13日(水)18:30-21:00 横浜オフィス
「令和5年度 弁理士試験 合格者」及び「これから弁理士試験合格を目指す方」
※学生の方、会社勤務の方、特許事務所勤務の方等、現在の職業・実務経験の有無を問いません。
・事務所説明 「創英で弁理士として働くことの魅力」
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