2021年12月27日月曜日

元祖「ういろう」と「弁理士バッジ」がソックリな件について【普通名称化】

 商標弁理士のT.T.です。
みなさま、週末のクリスマスシーズンをいかがお過ごしだったでしょうか?私は、商標弁理士の鑑として、「普通名称化」の研究と称し、元祖「ういろう」を食べに小田原へ来ていました・・・

(写真:小田原の「ういろう」店舗)

 さて、「ういろう」というと、名古屋名産の菓子と思っている人も多いでしょうが、元々は、小田原に住む外郎(ういろう)さんが売っている菓子だから「ういろう」だったことは知っていたでしょうか?

外郎さんの先祖は、中国・元王朝の官吏で、本名を「陳延祐(ちん えんゆう)」といいました。しかし、1368年に元王朝が明王朝に滅ぼされると、日本へ亡命し、元での役職名「礼部員外郎」から引用した「陳外郎(ちん ういろう)」を名乗り、医薬師として活躍したことが、外郎家の始まりのようです。
 外郎家は、朝廷や室町幕府に仕え、特に中国から持ち込んだ家伝薬が評判で、時の天皇から「透頂香(とうちんこう)」のを賜り、「薬のういろう」と呼ばれていたようです。


(写真:薬のういろう「透頂香」)

また、外郎家は、朝廷で、外国使節団の接待役を務めており、接待用に考案した菓子が評判となり、「お菓子のういろう」と呼ばれていたようです。
 外郎家は、戦国時代(1504年)に、北条早雲に招かれ小田原に定住し、現代に至るまで小田原で薬と菓子を販売し続けているのです。 

このように、「ういろう」は、元々、外郎家が販売する菓子を表示するものとして、自他商品識別力を発揮していたはずなのですが、江戸時代以前に商標法がなく、それを保護する手立てがなかったためなのか、時代とともに普通名称化してしまい、名古屋名産と勘違いされるようになってしまったのでした。 

実際、外郎家(株式会社ういろう)は、名古屋の「青柳ういろう」等、「ういろう」(30類)に関連する他人の登録商標に対し、数々の無効審判を請求しましたが(理由:商418号・10号・11号・15号)、最終的には「ういろう」は普通名称化したものであるといった理由により、いずれの請求も認められませんでした(「ういろう事件」平成12年(行ケ)321号 等)

「本件商標中の「ういろう」の文字が外郎家の姓に由来し、かつて、外郎家の製造する菓子の「ういろう」であることを示す固有名詞であったことが認められる。しかしながら、当初特定の商品出所を表示する固有名詞であった語が、時代とともに次第にその商品の種類を表示する普通名詞となることは、決してまれではなく、「ういろう」の語についても、当初は外郎家の製造する菓子であることを示す固有名詞であったものが、次第に菓子の一種である「ういろう」を意味する普通名詞となったと解することができ、原告の主張する「ういろう」の由来は、この語が本件商標の登録出願時において既に普通名詞になっていたとする上記認定を左右するものではない。」(東京高裁 平成12年(行ケ)321


ところで、外郎家は、「ういろう」を販売する際に、2種類の紋章を並べて表示しております。
 一つは「菊」の紋、もう一つが「桐」の紋です。これは、上述したように、外郎家が皇室とゆかりが深いことから、「菊」と「桐」の紋の使用を許されたためです。

そうです。
 「菊」と「桐」の組み合わせは、弁理士バッジと同じじゃないですか!

(正確には、外郎家が「五七の桐」で弁理士バッジが「五三の桐」で微妙に違う)

 実際、菓子「ういろう」のパッケージにも、「菊」と「桐」をあしらった籠を背負ったういろう売りの絵を確認することができます。

 

また、小田原の実店舗においても、屋根の鬼瓦に、「菊」と「桐」の紋が使用されています。

  ここで面白いのが、鬼瓦は、「菊」が上で「桐」が下に重なるように配置されていることであり、「菊」が下に「桐」が上に配置された弁理士バッジとは真逆なところです。
 おそらく、「桐」は、外郎家の家紋としても使用されているため、皇室の家紋である「菊」を跨ぐとは畏れ多いことから、このような鬼瓦になっていると思われます。そうすると、弁理士バッジって、中々尊大なデザインだと思ってしまいました。

 さらに、菊と桐をモチーフにした「菊桐ういろう」も販売されています。化粧箱に、白餡が入った「菊」ういろうと、黒餡は入った抹茶生地の「桐」ういろうが入っており、贅沢仕様です。「菊」と「桐」ういろうを重ねて食べれば、まさに「弁理士バッジういろう」ですね?(そんな勿体ない食べ方はしない。)

(写真:菊桐ういろう)

 ちなみに、消費期限は2日しかないので、仮に弁理士の恋人ができたとして、洒落のつもりで買っても、クリスマスプレゼントには不向きです。 

T.T.



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2021年12月13日月曜日

茨城県鉾田市で「HOKOTABAUM」を買ってみた(HOKOTABAUM事件3①3)

 商標弁理士のT.T.です。

 群馬県知事が法的措置を検討してしまうほど、たびたび話題になる「都道府県魅力度ランキング」によると、2021年は、茨城県が最下位だったとのこと。それは嘘だ!
 なぜなら、「HOKOTABAUM事件」という大変興味深い商標事件が茨城県にはあるから、茨城県が魅力的でないはずがありません。

HOKOTABAUM事件」とは、文字商標「HOKOTABAUM」として、第30類「鉾田市産のバウムクーヘン」を指定商品とした商用登録出願(商願2014-86622)について、HOKOTA」から茨城県鉾田市を容易に認識させ、BAUM」からバウムクーヘンを認識させ、菓子業界において、バウムクーヘンを表示する際に、地域名と「バウム」を組み合わせた標章が用いられていることから、その全体から、鉾田市を産地又は販売地とするバウムクーヘンという意味が認識されるといった理由により、商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標(商標法313)であるとして、商標登録が認められなかった事件で、商標の識別性判断における割と重要な判決であります(知財高裁 平成28年(行ケ)第10109)。


商願2014-86622
 

さて、「HOKOTABAUM」は、その標章が示す通り、茨城県鉾田市にある「深作農園」のバウムクーヘン専門店「ファームクーヘンフカサク」で販売されています(https://farmkuchen.com/)。もちろん、このご時世、「HOKOTABAUM」を通信販売で買うことも容易ですが、やはり、その観念が示す通り、リアルに「鉾田市で販売されている」ものが欲しくなってくるのが商標弁理士の宿命(?)。

・・・ということで、第三セクター鹿島臨海鉄道の「大洋駅」(茨城県鉾田市)へやってきました。


 そこから、国道354号線と国道51号線を歩き続けること約40、「ファームクーヘンフカサク」にたどり着きました。


ところで、「ファームクーヘンフカサク」では、バウムクーヘンの商品名として「HOKOTABAUM」は現在使用しておらず、「Farmkuchen(ファームクーヘン)」へ改名されたようです。「HOKOTABAUM事件」は、商標の識別性を争った事件なので、商標登録ができないからといって、「HOKOTABAUM」の名称が使用できなくなる訳ではありませんが、ここは、誰でも使用できる名称でなく、より独自性のある名称で売り込みたいという意図があったのでしょうか?
 もちろん、「ファームクーヘン\FARM KUCHEN」は、深作農園の経営者により、商標登録されています(登録5321452号 第30類「菓子及びパン」等)。

登録5321452 

ここで購入したのが、「ファームクーヘン」と「HOKOTA苺ばうむプレミアム」です。


写真:ファームクーヘン


写真:HOKOTA苺ばうむプレミアム

 「HOKOTA苺ばうむプレミアム」も購入したのは、名称から微かに「HOKOTABAUM」の雰囲気を残していることと、「HOKOTA苺ばうむプレミアム」を横から撮影した写真について商標登録出願もされており、その形状の識別性の有無を審判(拒絶2018-007249)でも争ったことから、意匠・商標的に興味深かったためです。

 (商願2016-091397 

ちなみに、鉾田市は、メロンの産地として有名であり(生産量1位)、深作農園で生産されたメロンを使用した「HOKOTA Melon Baum プレミアム」もあります。こちらの方は、商標登録されています(登録5868132号)。ただし、「HOKOTA Melon Baum プレミアム」は要予約なので、当日にフラっと立ち寄って購入することはできません。


(登録5868132号)

「ファームクーヘン」も「HOKOTA苺ばうむプレミアム」も、じっくりお家でおいしくいただきました。ここのバウムクーヘンは、他者のものと比べて柔らか食感であることを特徴としており、登録商標「ファームクーヘン\FARM KUCHEN」(登録5321452号)から暗喩されるが如く、自然の優しさで作られたバウムクーヘンであることを感じさせられました。


さて、「HOKOTABAUM」の「深作農園」では、バウムクーヘン専門店「ファームクーヘンフカサク」だけではなく、農場体験・バウムクーヘン手作り体験といったアクティビティや、洋菓子店「LEFUKASAKU(ル・フカサク)」で深作農園産の作物入りスイーツなども楽しむこともできます。


写真:LEFUKASAKU(ル・フカサク)

(秋限定さつまいもパフェ)

また、「深作農園」は、最寄り駅から40分も歩くので、公共交通機関で行くのは大変ですが、国道51号線に面したロードサイド店舗であるため、自家用車でのアクセスは非常に容易です。そのため、「深作農園」は、すごくごった返してました・・・カップルで。

HOKOTABAUM」は、商標の勉強・研究のためではなく、デートに活用することをお勧めいたします!

T.T.


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2021年12月6日月曜日

商標「激馬かなぎカレー事件(4①7)」のカレーを食べに金木町(青森県)へ行って北

かつて一人暮らししてた時、毎日の夕食が、ほぼカレーだった商標弁理士のT.T.です。
 そんなカレーを愛してやまないT.T.にとって、興味深い商標事件といえば「激馬かなぎカレー事件」です。


激馬かなぎカレー事件」とは、金木町の地域活性化事業として、NPO法人かなぎ元気倶楽部により考案された「激馬かなぎカレー」の名称が、第三者の先取り的出願により商標登録(登録5346443号)されたものの、「(第三者の出願行為は、)事業の遂行を阻止し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、……利益の独占を図る意図でしたものであって、剽窃的なもの」であるとして、公序良俗違反(商標法417号)により、商標登録が取消となった割と有名な事件です(知財高裁 平成23年(行ケ)第10386 cf.母衣旗事件)。 

この「激馬かなぎカレー事件」は、剽窃的出願事件独特の(カレーなだけに)ドロドロとした展開も面白いですが、おそらく「激旨」と「激馬」をかけ合わせたであろう光るネーミングセンスに惹かれるのです。
・・・ということで、都内から列車を乗り継ぐことXX時間、青森県五所川原市金木町芦野公園駅」へ、激馬かなぎカレーを食べにやってきました。

 激馬かなぎカレーが提供されているのは、芦野公園駅に併設されている喫茶店「駅舎」。建物は、芦野公園駅の旧駅舎を改装したもので、レトロ感あふれる内装は、居心地が良いです。

 
 

 そして、これが「激馬かなぎカレー」。名前の通り、地元産の馬肉が入っていることを特徴としており、福神漬けの代わりに高菜の漬物が添え付けております。

 

じっくり煮込まれたカレーは、とても「激旨」でしたが、私が思う「激馬」とはちょっと違うような気がしました。すなわち、「激馬」というからには、ラーメン二郎「ぶた入りラーメン」の如く、「馬肉がめちゃくちゃ入っている」みたいなカレーを個人的にイメージしておりましたが、実物は特に肉肉しいカレーではありません。 

先程も述べたように、「激馬かなぎカレー」の「激馬」とは、常識的に考えれば「激旨(とても旨い)」をもじったダジャレなのは明らかですが、商標審査基準的には、直接的に「とても旨い」と言っているわけではないのです。だから、「激馬」から、「とても旨い」だけでなく、「馬肉がめちゃくちゃ入っている」みたいな意味合いを解釈しても良いはずなのです。

 ところが、「激馬かなぎカレー」は、じっくり煮込んだことにより、馬肉がカレールーに溶けこみ、肉肉しさは失われしまったのです。それが、「激旨」の秘密でもあるのですが。

 このように、「激馬かなぎカレー」のような造語商標は、普通名称・慣用商標・記述的商標と比べても、様々な解釈ができるので、とても面白いですね。

  

ところで金木町は、作家「太宰治」の出身地でもあり、「津軽三味線」発祥の地でもあります。また、金木町を通る「津軽鉄道」は、日本最北端の私鉄であり、風鈴列車・鈴虫列車・ストーブ列車等、観光列車に力を入れています。


(写真:太宰治の実家「斜陽館」)
 

そのため金木町は、文学・歴史マニア、邦楽マニア、鉄道マニアが集う大変盛況な場所でした。もちろん、激馬かなぎカレーを食べるために、金木町へやってきた商標マニアは自分だけでしたが・・・

(T.T.)


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2021年11月30日火曜日

♪丸の内オフィスリニューアル♪

  弊所所長のブログ「東京の特許事務所 創英・所長Hのほんやら日記」に先を越されてしまいましたが(https://soeipatent.blog.jp/)、丸の内オフィスのリニューアルがほぼ完成しました!

 昨年4月からのコロナ禍で、所員の働き方もかなり制約されています。その制約された働き方の中で、できるだけ効率を高める工夫をしてきました。

1つは、在宅勤務設備の拡充です。現在では、創英のほとんどの所員は在宅勤務設備を持ち、自宅の執務スペースから事務所の基幹システムにログインして、オフィスにいるのと同じ環境で業務をすることができるようになっています。

2つ目は、首都圏サテライトオフィスの開設です。満員の通勤電車に長時間揺られて丸の内オフィスに通うのはちょっと抵抗があるけど、自宅では仕事の集中できない、という所員のための、いわゆる「職住接近オフィス」です。丸の内から見て様々な方向に位置する三鷹、大宮、柏、千葉、横浜の5か所にサテライトオフィスを開設しました。現在、これらのオフィスには、それぞれ1020人の所員が勤務しています。

そして、3つ目は、丸の内オフィスリニューアルです。

在宅勤務やサテライトオフィス勤務で互いに働く場所がバラバラになった所員がときどき顔を合わせてリアルなコミュニケーションをとれる場所、すなわち、普段はWEB会議システムで指導し指導されている先輩と後輩とがたまには顔を突き合わせて議論できる場所、協働している事務スタッフや情報システムスタッフと業務改善についてみんなでワイワイガヤガヤとアイデアを出せる場所、ときには業務終了後にビールやワインを片手に仕事仲間と楽しく語らえる場所、こんな場所を作りたい、というのが丸の内オフィスリニューアルの出発点です。

それが、やっと形になりましたので、ちょっと紹介します。

まずはフリーアドレス席エリアです。「Future SOEIエリア」と命名されました。

特許・意匠・商標実務を担当する担当者のうち、おおよそ70%の人たちが自席を捨て、フリーアドレス席を使います。飽きが来ないように、いろいろなタイプの席を用意しました。眠くなったり腰が痛くなったら立って仕事ができる昇降型デスクや、周りが見渡せるように周りより一段高くなっている席もあります。目の前に緑があふれ、森の中で仕事をしているようタイプの席も作りました。


 集中するために、周囲が囲われている席も用意しています。


 一方、「フリーアドレス席では集中できない。今まで通り、固定席で効率を上げていきたい。」という人たちのために、今までと同様の固定席エリアもちゃんと用意しています。ここは、「Traditional SOEIエリア」と命名されました。

最後は、所員同士のコミュニケーションを促進させるエリアです。「化学反応エリア」と命名されました。(はじめはこの命名に「えっ?」と思いましたが、徐々に、この名前がしっくりくるようになりました。)

 みんなが集まってコミュニケーションをしやすいように、ソファーやテーブルを点在させ、しゃれたデザイナーズホテルのロビーのような空間に仕上がりました。




コーヒーを飲みながらおしゃべりできるカウンターテーブルも用意しました。(スタイリッシュな冷蔵庫も設置される予定ですが、半導体不足のために納期が遅れています。)


 ミニライブラリーも用意しました。ミニライブラリーは、あえて所長席の前に設置しました。「書籍を利用するためにミニライブラリーに来た人に声をかけ、所長とのコミュニケーションを活発化する」というのが所長の狙いです。(所長との会話を避けるために、)ミニライブラリーの活用度が下がってしまわないか、ちょっと心配ですが(笑)。

 遊び心で、テント型の会議室も設置しました。あたかもキャンプ場で会議しているような感じになり、よいアイデアがどんどん出るかも。

こんな形で出来上がった新しい丸の内オフィスで、どんな化学反応が生まれていくか、とても楽しみです!

(意匠商標部門長T.K.

 

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