2022年5月12日木曜日

「立体商標の類否」判決の発祥の地で蛸を食す【たこの立体商標事件 たこやき大阪蜂来饅頭】

 商標弁理士のT.T.です。
 突然ですが、熊本は、実は日本の法律の歴史において重要な地だったりするのです。

 例えば熊本藩では、日本で最初の刑法典御刑法草書」が制定されました。そんな熊本藩で刑法的思考が機能していた逸話として、1867年、ある男が無断で熊本城天守の屋根によじ登り、瓦を投げ捨てて捕まる事件があり、通常ならば問答無用で死罪であったところ、きちんと裁判を行い、男はいわゆる心神喪失の状態であったから、中国の法令で「狂人の場合は終身刑」とした例に倣って、牢に入れるに留まったということもあったようです。 

 そして、熊本藩には「木下犀潭塾(きのしたさいたんじゅく)」と呼ばれる塾があり、唐・明・清の「律」を教えていました。その門下生たちによって、大日本帝国憲法、旧刑法、治罪法(ちざいほう)等の法律が生み出され、日本が近代国家として歩むための礎を築いたのでした。 

 (写真:木下犀潭塾跡 熊本市京町台公園隣)

 ところで、治罪法(ちざいほう)とは、刑事訴訟法のことを意味し、知財法(ちざいほう)ではありません。しかしながら熊本は、知財法においても、画期的な判決を生み出した地でもあるのです。それが、立体商標の類否について、初めてその判断方法の見解を示したたこの立体商標事件」(東京高裁 平成12(行ケ)234号)です。 

 「たこの立体商標事件(蛸の商標事件・タコ事件・蛸擬人化立体商標事件)」とは、「蛸の形状」からなる立体商標登録出願(商願H9-134776)が、「蛸の平面商標」(登録3061941号)と類似することから拒絶査定・審決となり、その審決取消訴訟にて、立体商標と平面商標の類否の判断方法について争われた事件です。
 立体商標の外観の類否判断について、原告は、「商標全体」で行われるべきであると主張したものの、東京高等裁判所は、「所定方向(看者が、立体商標を観察する場合に主として視認するであろう一又は二以上の特定の方向)」から見た時に視覚に映る姿から判断すべきであるとした上で、「蛸の形状」の所定方向(正面図)と「蛸の平面商標」は外観上類似しているとのことから、原告の訴えを退けました(東京高裁 平成12(行ケ)234)。

(出願立体商標:商願H9-134776 第30類「たこ焼き」等)

(引用平面商標:登録3061941号 第30類「たこ焼」等)

 この「たこの立体商標事件」で立体商標(商願H9-134776)の登録が認められなかった原告は、「たこやき大阪 蜂来饅頭」という店を営業しています。商号の一部に「大阪」を名乗っているものの、ばりばり熊本発祥の店であり、熊本を中心として九州中に店舗を展開しているのです。(ちなみに、引用商標(登録3061941号)の商標権者は、北海道北見市の飲食店経営会社のようですが、現在はたこ焼き屋を営業していないようです。)

 そんな蛸の立体商標は、「たこやき大阪 蜂来饅頭」の広告塔として使用されているようです。
 確かに審決・裁判では、第30類「たこ焼き」等の指定商品では登録は認められなかったものの、第42類「飲食物の提供」で出願したものについては、一応、立体商標での登録が認められています(登録4276581)。ちなみに意匠登録もされています(意匠登録1107577 物品:広告塔)。

 タコ焼き屋といえば、駅前商店街、繁華街、ショッピングモールに出店しているイメージですが、「たこやき大阪 蜂来饅頭」は、街の中心街から少し離れたロードサイド型店舗なのです。だから、車から見ても目立つように、「蛸」の広告塔を設置しているという訳ですね。 

 ところで、「たこやき大阪 蜂来饅頭」に設置されている実際の蛸の広告塔は、「たこの立体商標事件」のものとは、異なる部分が存在します。
 それは、顔が、正面だけではなく、背面にも付いている点です。審判や裁判では、立体商標から「擬人化した蛸」という観念が生ずると認定しましたが、実際に使用されている広告塔は、「擬タコ化した生物」若しくは「エイリアン」と言った方が正しいかもしれません。やはり、ロードサイド型店舗ということで、右側から見ても、左側から見ても、蛸の顔が見えるようにするため工夫なのでしょう。

(蛸の背面)

(蛸の側面)

実は、蛸の広告塔には、「たこの立体商標事件」に登場した、棒に刺さったバージョンだけでなく、屋根から乗り出しているバージョンも存在します。こちらの方が、蛸が2体も居座り、インパクト大です。こちらは、平面商標と立体商標で商標登録されています(登録2372403号、登録4179711号)。


(登録2372403号 第30類「たこ焼き」等)

(登録4179711号(立体商標) 第30類「たこ焼き」等、第42類「飲食物の提供」)

 そして、「たこやき大阪 蜂来饅頭」の看板メニューは、タコ焼き550円)と蜂来饅頭110円)です。ソフトクリームも売っています。 
 タコ焼きには、通常のタコ焼きと「たこネ~ズ」の二種類があり、どちらも丁度良い火加減なので、とても食べやすい代物です。やはり、ロードサイド型店舗ということで、車内でも食べやすいようにすることを意識したのでしょうか? 

特に「たこネ~ズ」は、その名の通り、マヨネーズが生地内に練り込まれたオリジナルタコ焼きです。だから一応、商標登録もされています(登録4288659)。ちなみに、通常のタコ焼きにもたっぷりマヨネーズが入っているので、「たこネ~ズ」と通常のタコ焼きに何か味の違いがあるのかと言えば、特にないのかもしれませんが(もちろん大きさや数は異なります)。

(写真:たこネ~ズ)



(写真:普通のたこ焼き)

 「蜂来饅頭」とは、いわゆる今川焼です。生地にはハチミツが練り込まれており、確かに、舌の中でほんわか漂います。白あんと小豆あんの二種類がありますが、私が来た時は、キャラメル味もありました。


 

 さて、「たこやき大阪 蜂来饅頭」まで、私は、軽い気持ちで熊本市中心街からレンタサイクルを借りて行ったのですが、何度も述べるように「たこやき大阪 蜂来饅頭」はロードサイド型店舗であるため、熊本市中心街から10km以上離れた場所に点在しています。そのため、たった2店舗巡るだけでも、いつの間にか日が沈んでいたのでした。

 熊本には馬刺し・太平燕・辛子蓮根といった名物があるにも関わらず、粉ものを食べるだけで終わってしまった。

 (T.T.


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