2017年10月31日火曜日

新人奮闘日記4 第四弾は逆転商標!

こんにちは。商標部門の新人弁理士T.Wです。

この判例勉強会も4回目を迎えましたが、4回目の発表が終わるころ、事件が起きました!

次回の日程を組んでいる最中、なんとK商標部門長は、(しれっと)「次回からもうオレは出なくてもいいかな。」といい出したのです! しかし、間髪入れずH弁理士から引き留められ、K商標部門長は次回以降もめでたく参加いただくことになりました。

そんな存続も危うい勉強会となってきていますが、私が担当した裁判例「肌優事件」(事件番号:知財高裁 平成21年(行ケ)第10071号)をご紹介したいと思います。

この裁判例は、漢字の順序が逆転した商標同士の類否が、知財高裁で類似と判断されるまでしつこく争われた事件です。

主な時系列は以下のとおりです。

平成17520日  出願(商願2005-44585
平成1823日    登録(登録第4926734号)
平成19727日  異議申立維持決定(異議2006-90188
平成2124日    無効審判請求不成立審決(無効2008-890053
平成211028日 無効審決取消判決(知財高判 平21(行ケ)10071

商標登録後に、異議申立て、無効審判、知財高裁と3度にわたり、登録商標同士が似ているかが争われました。争われた商標がこちらです。

本件商標             引用商標

登録4926734号          登録第4640129

    

第5類「ばんそうこう」他       第5類「ばんそうこう、医療用テープ」他
久光製薬株式会社           日東電工株式会社

ご覧いただき、いかがでしょうか。

逆転商標と名付けられたように、漢字の「肌」と「優」の2文字が入れ替わった商標同士という印象を持つ方は多いと思います。ただ、引用商標は、漢字「優肌」の上段に小さく「ゆうき」の平仮名が、下段に大きく「YU-KI」の欧文字が併記されているため、本件商標とは異なる印象を持つ方もいると思います。

特許庁では、この本件商標と引用商標が似ているかどうかの類否を、次のように判断しました。

①外観(見た目)は、明確に区別し得る(非類似)
②観念(意味内容)は、ともに特定の意味を有しない造語のため比較できない(非類似)
③称呼(呼び名)は、「キユウ」「ハダユウ」「ハダヤサ」の3つが生じる本件商標と、「ユウキ」のみが生じる引用商標とは、どれと対比しても互いに相紛れるおそれはない(非類似)
⇒以上から、両商標は非類似

これに対し、裁判所(知財高裁)では、氷山印最高裁判決を引用のうえで、取引の実情を考慮して、次のように両商標の類否を判断しました。

①観念は、ともに「肌に優しい」「優しい肌」「優美な肌」等が生じる(同一又は類似)
②外観は、下記点から離隔的(同じ時・同じ場所で並べないで)に観察すると紛らわしい(類似)
   ・確定した固有の意味を有していない造語
   ・漢字そのものが持つ意味が重要
   ・2つの漢字「肌」と「優」が共通
   ・指定商品「ばんそうこう」との関連性が強い文字を選択
   ・横書きで語順を正確に記憶しにくい
③称呼は、「キユウ」「ハダユウ」「ハダヤサ」が生じる本件商標と、「ユウキ」が生じる引用商標とは、どれと対比しても類似しない(非類似)
⇒以上から、観念と外観が類似し、本件商標は複数の称呼が生じるため、類否判断にあたり称呼(非類似)を重視するのは妥当でなく、両商標は類似する

知財高裁で考慮された「取引の実情」は、下記表の「引用商標の使用態様、宣伝広告の掲載」をはじめ、6項目以上に及びます。
商標 販売開始 標章使用
表示方法※例
宣伝広告
優肌絆
(優肌絆不織布,優肌絆スキンカラー,優肌絆プラスチック,優肌絆アルファを含む)
 H6.11
 H6.11
包装箱上面・側面に大きな文字で表示(ふりがな付き)
(ゆう)()(ばん)
誌臨牀看護,Nursing Today, 月刊ナーシング,透析ケア等の月刊誌広告
日本看護学会等
のパネル展示
優肌パッド
H11
H12.4
同上
(ゆう)()
同上
優肌パーミエイド
H14

 
H14.10
同上(四角の囲み)
優肌パーミエイド
同上
優肌パーミパッド
H15
H16.5
同上
優肌パーミパッド
同上
優肌パーミロール
H16
H16.8
同上
優肌パーミロール
同上

私は、「取引の実情」のなかで、商品の特徴として認定された内容が興味深いと思いました。

具体的には、看護・医療の現場では、かぶれがなく、剥がすときに痛くない製品開発が要望されていて、そうした要望を踏まえ、固定機能を維持しつつ皮膚の損傷を低減する低刺激のばんそうこうが開発されたといったストーリーを交えたくだりです。

このようなストーリーを交えることにより、「固定テープ、ばんそうこう」という商品に「肌に優しい」というイメージが刷り込まれ、上述の①観念、②外観の判断が非類似から類似へと傾いたのではないかと想像します。

さいごに、今、商標調査(商標の出願前に使用・登録できるかを事前に調べて報告すること)を日々行っていますが、この裁判例を通じて、調査の際は文字の順序を入れ替えて似ているかという観点も忘れないようにしようと思う今日この頃でした。

 

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2017年10月12日木曜日

【新人奮闘日記】第三弾は「結合商標」についてです。~ワールド事件(平成22年(行ケ)第10102号)~




こんにちは。

新人弁理士のD.Mです!

早いものでもう10月ですね。

 

 さて、早くも人気コーナーとなっている新人奮闘日記シリーズですが、今回のテーマは「結合商標」です。

 

 そもそも結合商標とは、「文字と文字、図形と図形のように同一種類の構成を結合してなる商標、さらに文字と図形、記号と立体的形状のように異種類の構成を結合してなる商標」を言います(平尾正樹著 学陽書房 商標法第2次改訂版 p4より)


 





 例えば、上記のようなものは、文字と図形からなる結合商標と考えられます。

 

ここで今回紹介させて頂く「ワールド事件」では、この「結合商標の類否」が争われました。(商標の類似についての判例は、新人奮闘日記第一弾をご参照ください!)



 



原告商標

 










引例商標2

引例商標4 

 

 

                   

 



事件の経緯としては、原告商標は、引用商標2及び4と類似すると判断され拒絶審決がなされました。

これは、引用商標2及び4の「WORLD」の文字が他の部分より大きいから、需要者は引用商標2及び4の「WORLD」の部分に着目すると考えられた結果、原告商標「WORLD」と引用商標2及び4のWORLD」部分が類否判断の対象となったため拒絶審決がなされたと思われます。

この様に結合商標の類否を判断する際には、商標の「要部を認定」をして類否判断をする場合があります。

今回のケースで言えば、引用商標2及び4を構成する「WORLD」部分が要部と認定され、類否の判断が行われたものと考えられます。

 

さて、本題に入っていく前に、この要部認定の判断基準を示した最高裁判決である「つつみのおひなっこや事件」(最高裁平成20年9月8日判決)を少しだけ紹介させて頂きます。

 

規範では、

商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,


① その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合,

② それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合

を除き許されないと述べられており、原告はこの規範をもとに主張をおこないます。

 

簡単に原告主張を説明すると、

・「WORLD」は広く一般に使われている語であるため、引用商標2及び4の「WORLD」部分は強く支配的な印象を与えるわけではない。(WORLDの語は結合しやすい性質を持ち、引用商標2及び4は不可分一体に結合されていると原告は主張しています)

・引用商標2を構成する「collezione」の文字部分及び引用商標4を構成する「ONE」の文字部分からも称呼観念が生じる。

 

以上の理由から、引用商標2及び4から「WORLD」部分を要部として認定し類否判断を行うのは間違いだといった主張を原告は行いました。

 

では注目すべき裁判所の結論ですが、、、、、、、、、、、、、、

 

「非類似」と判断されました。

 

つまり、引用商標2及び4を構成する「WORLD」部分を要部と認定するのは間違っているとの判断がされました。

 

ここで注目すべきは、裁判所は「つつみのおひなっこや事件」の規範をそのまま引用せず、以下のような規範を述べたことです。

 

複数の構成部分を組み合わせた結合商標を対比の対象とする際には,


まずは結合商標の外観,観念,称呼の態様を総合的に観察してみて,

一体のものとして対比の対象とするのか分離して対象とするのかを決し,

その上で,具体的な取引の実情が認定できる場合には,その状況も踏まえて,

不可分なものとするのか,それとも分離しその一部を抽出してみるのかを決すべきである。

 

と述べています。

 

この規範のポイントとしては、

    要部の認定の際にも、外観称呼観念を総合考察する。

    要部の認定の際にも、取引の実情を考慮する。

 

この二点が読み取れると私は考えました。

 

この規範をもとにして判断をした場合には、当然のことながら、引用商標2及び4の「WORLD」の文字が「他の部分より大きいから要部となる」といった外観上の理由だけで「WORLD」部分を要部と認定をするのは誤りかと思われます。

 

 

【裁判例へのコメント】

つつみのおひなっこや事件の規範では、①どのような場合に強く支配的な印象を与えるか②どのような場合に出所識別標識としての称呼、観念が生じないかが不明であると私は思います。

この点、本裁判例の規範では、要部認定の際にも外観称呼観念を総合考察し、さらに取引の実情も考慮すると述べらており、つつみのおひなっこや事件の規範を少し具体化したものなのではと私は考えました。

 

また、原告商標「WORLD」が一般に広く知られるようになっていたものであると認定が本裁判ではなされており、この点も引用商標の「WORLD」部分を要部として認めなかったことに大きく作用しているのではと私は考えました。

 

今回はここで以上となります。

実務を行っていく中で、「結合商標」「要部認定」はとても難しいところではありますが、さらに勉強を進めていき「自分の中の答え」を一日でも早く見つけていきたいです!!

新人弁理士D.M


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2017年10月5日木曜日

♪ベトナムへの出張♪

月曜日からベトナムのハノイに来ています。ハノイのエネルギーはすごいですね。

巨大な荷物を積んで走るバイクを見ると「ハノイに来たなあ」という感じになります。

今回は、東南アジア知財ネットワーク(https://www.jetro.go.jp/world/asia/asean/ip/seaipj/)というグループの活動で、ベトナム知的財産研究所(VIPRI)とのワークショップを開催するためにハノイに来ました。VIPRIは、ベトナムにおける知的財産権の侵害・非侵害について、鑑定書をしてくれる機関です。ベトナムでは、①裁判所の判決文が公開されない、②裁判所はVIPRIの鑑定結果を尊重して知的財産権の侵害・非侵害を判断することが多い、ことから、知的財産権の侵害判断について、VIPRIの考え方を知っておくことは極めて重要です。そこで、今回は、「商標の類否判断ワークショップ」と題して、日本とベトナムとの双方における、商標の類否判断手法についてディスカッションをしてきました。


ディスカッションはすごく盛り上がりました。ベトナムの知財実務家はすごく勉強熱心です。私たちの日本実務に関するプレゼンについても、わからないところ、納得のいかないところについては、どんどん質問してきます。私たちも、これらの質問に対して自分の意見も交えながら一つ一つ答えていったので、朝8:30から始まったワークショップが終了する正午には、くたくたです。
でも、その後は、さらにカジュアルな雰囲気での意見交換ということで、VIPRIのメンバーと一緒に昼食に行きました。すると、午前中のワークショップには参加できなかったVIPRIの所長が、会食の場に突然現れました。所長自らが来てくれるとは、とてもうれしいことです。「今日は日本から素晴らしいお客様が来てくれて有意義なディスカッションができた特別な日だから乾杯しよう!」と言い、昼間から一升瓶の酒を注文し、みんなで乾杯しました。私たちは夕方に別のミーティングが入っていたため、酒は控えめにしましたが、このように酒を酌み交わしながら良好な人間関係を築いていくのは、ベトナムの文化のようです。日本と似ていますね。
他にもいくつかのミーティングをこなし、もうすぐ帰国です。今回も、仕事の合間に、たくさんの美味しいベトナム料理を楽しんできました。



ベトナムはいいなあ。また来たいです。

(商標部門長T.K.

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2017年10月2日月曜日

🎵第2回パテントカップ®フットサル大会🎵

9/30の土曜日に、豊洲のMIFA Football Park(http://mifafootballpark.com/) で、第2回パテントカップ®フットサル大会が開催されました。知財業界のフットサル大会です。偶然にも、第54回パテント杯争奪野球大会の決勝戦と同日開催となりました。創英は、野球大会の決勝戦まで進んだため、スポーツ万能なメンバー(約4名)は、野球大会に参加するかフットサル大会に参加するかの選択を迫られました。

幸いなことに、野球の才能のない私は、選択の余地はなく、フットサルに専念することができました。第2回パテントカップ®フットサル大会は、昨年の第1回と比較して、より盛大となり、勝負を意識して真剣に戦う一般リーグに6チーム、勝敗度外視でとにかく楽しむことを目的とするMixリーグに6チームの合計12チームが参加し、熱戦を繰りひろげました。

開会式もユニークに進みました。第1回優勝チームである創英フットサルサから優勝杯が返還された後、吉本新喜劇を思わせる息のぴったり合った選手宣誓、そして特許庁からの参加者による始球式です。始球式で蹴られたボールが鮮やかにゴールに決まり、大会の始まりです。

私は、創英フットサルサ一軍のメンバーからは惜しくも漏れ、フットサルサMixのメンバーとして参加しました。きっと、年齢のためガチの試合に出て怪我でもされては困るという、キャプテンの優しさゆえの判断でしょう。でも、ガチの戦いよりは、男女混合でキャーキャー言いながら戦う方が、結果的には楽しくてよかったです^^;
 
 
 

我がフットサルサMixチームは、41分で、6チーム中第6位でしたが、悔いはありません。笑いあり、涙ありの楽しい5試合でした。中でも、商標部門のルーキーM君が唯一の得点をしました。M君、ナイスゴール。でも、調子に乗るなよ!


ちなみに、一般リーグに参加した創英フットサルサ一軍は、昨年は優勝したものの、今年は残念ながら6チーム中4位でした。昨年よりも参加チームのレベルが上がっていることは確実です。来年は、私もトレーニングを積んで一軍に復帰し、優勝を目指したいです。

勝っても負けても、スポーツ後の打ち上げは欠かせません。今年は、月島のもんじゃ焼きの店で健闘をたたえ合いました。

 

(商標部門長T.K.

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2017年9月28日木曜日

新人奮闘日記2 第二弾「取引の実情」とは

こんにちは。はじめまして、商標部門の新人弁理士T.Wです。

私は、弁理士D.Mさんのあと6月に入所し、はや3か月以上が経ちました。
まだまだ慣れないことも多くありますが、日々の業務のほか、毎週のように繰り出されてくる新人向けの研修課題にD.Mさんと一緒に立ち向かっている毎日です。

そんな中、少し遡る7月の終わりころ、K商標部門長に突然呼ばれて、「来月8月から、(心優しい?商標部門の先輩方の計らいで)MくんとWくんが商標の判例を先輩らの前で発表する勉強会をやろうと思ってるんだけど、どうだい、やるかい?」と声をかけられました。

新人たるもの(そう思っていなくても)「もちろん、やります!」と反射的に答えたところ、すぐに日程が組まれ、D.Mさんと毎回交代で判例を分担し発表することになりました。


今回は、D.Mさんが担当した1回目の内容に続き、2回目の内容をご紹介します。
私が担当したのは、「保土谷化学工業社標事件」(事件番号:昭和47年(行ツ)第33号)と呼ばれる最高裁判所の判例です。

この判例は、ひとことで言うと(普段から結論は冒頭にわかりやすくひとことでと口を酸っぱく言われます)、商標の類否判断にあたり考慮できる取引の実情とは何かについて判決中で示された事件です。

その取引の実情とは何かを見ていく前に、商標の類否判断として何と何との商標の類否が問題となったのかを見たいと思います。ちょっと長くなりますがお付き合いください。


この事件の主な時系列は次のとおりです。
 
昭和411018日:商標登録出願(昭和41年商標登録願60685号)
昭和43615日  :拒絶査定
昭和4585日    :拒絶審決(昭和43年審判6302号)
昭和47125日  :請求棄却判決(昭和45(行ケ)101号)
昭和49425日  :上告棄却判決(昭和47(行ツ)33号)

まず、保土谷化学工業㈱が、特許庁に対して、「自社の社標のマーク」を商標登録しようと出願しました。
 
しかし、特許庁は、審査の結果、先に商標登録された「オリヱント化学工業㈱の社標のマーク」と類似するため、保土谷化学の社標のマークは商標登録できないと判断しました(拒絶査定)。その後、保土谷化学は、特許庁の審判、東京高裁、最高裁と争いましたが、商標登録は認めてもらえませんでした(拒絶審決、請求棄却判決、上告棄却判決)。

簡単に経緯を説明するとこのようになります。

 

では次に、その似ていると判断された両社の社標のマークをみてみましょう。

保土谷化学工業の社標のマーク        オリヱント化学工業の社標のマーク
昭和41年商標登録願第60685号                     商標登録第595188

                      

指定商品:旧5類                              指定商品:旧第5
「 染料、顔料、塗料(電気絶縁塗料を除く)          「 染料、顔料、塗料(電気絶縁塗料を除く) 」
 印刷インキ(謄写版用のものを除く)、
 くつずみ、つや出し剤 」
 


いかがでしょう。似ている似ていないどちらにも取れるように思えてきます。。。


ただ、一見すると、2つの六角形の亀甲(きっこう)紋章様の図形を鎖状に重ね合わせた構成というのが基本的な特徴として認識できないでしょうか。そうすると、差異があったとしても、ともに同じ基本的な構成を有するその外観上の印象が人の記憶に残り、このマークはお互いに紛らわしいといえ、外観上類似すると判断されたと考えることができると思います。

訴訟でも問題となったこの2つの商標が類似するとの結論は特許庁の審査段階から変わりませんでしたが、最後に最高裁で、取引の実情とは何かについて、その判決中で示されることになったわけです。

 ※ちなみに、現在の両社の社標はこちらです(保土谷化学の方は少し変更されたようですね)。 
  http://www.hodogaya.co.jp/  https://www.orientchemical.com/ から引用)

 
ようやく判決の内容に入りますが、その内容がこちらです。
 

「商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであって、単に該商標が現在使用されている商品についてのみ特殊的、限定的なそれを指すものではないことは明らかであり、所論引用の判例も、これを前提とするものと解される。」(下線・赤字引用者)
 
この内容の理解は「一般的、恒常的」の意味などが抽象的で難しいのですが、「取引の実情」については、なんでもかんでも取引の実情に取り込んでその範囲を無限定に拡大してはいけない(その意味では変動し得る事情などを一切考慮していけないわけでもない)ということを意図したものだと私は考えています。
商品以上に商取引は無数にあるといってよく、自らに都合の良い取引の実情を探し取捨選択し、それと関連づけて商標の類否を主張立証できてしまうことが予想されます。
そこで、そのような都合の良い主張立証が将来的に頻発されることやそれによる混乱の歯止めとして、氷山印事件最高裁判決に付け加える判示をしたと私は受け止めました。
 
その他で私が一番気になった点は、保土谷化学の言い分を支える証拠というのが、書証という書面によるものがあまりなく、証人K氏による証言に大きく頼っていた点です。
保土谷化学は、染料に関する取引の実情(専門業者間で取引され、染料は色合いなどを確かめて取引する特殊な商品であるからより注意するなど)を考慮すべきと争っていました。しかし、それを支える証拠を証人K氏の証言にほとんど頼っていたのは解せません。よほどの大家の方であったのか、他に書証がなくやむを得なかったのかはわかりませんが、もし機会があれば、事件の関係者に事情を伺ってみたいです。
 
なお、この最高裁判決は、最新の特許庁商標審査基準(平成293月改訂第13版)において、判決文に沿った形(取引の実情の例については別)で取り入れられています。
  商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。
  なお、判断にあたっては指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮するが、当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的・限定的な取引の実情は考慮しないものとする。 (下線・赤字引用者)
(一般的・恒常的な取引の実情の例)
  指定商品又は指定役務における取引慣行
(特殊的・限定的な取引の実情の例)
  ① 実際に使用されている商標の具体的態様、方法
  ② 商標を実際に使用している具体的な商品、役務の相違
 
一方、裁判所においても、知財高裁の判決(平成20(行ケ) 10285号)では、「商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は、当該商標が現に、当該指定商品に使用されている特殊的、限定的な実情に限定して理解されるべきではなく当該指定商品についてのより一般的、恒常的な実情例えば、取引方法、流通経路、需要者層、商標の使用状況等を総合した取引の実情を含めて理解されるべき」(下線・赤字引用者)と具体例が示されるなどされています。
 
特許庁と裁判所では絶妙に相違しているようで、男女のすれ違いみたいで面白いのですが、このように昭和49年に出されたこの最高裁判決は、今でも影響を与えているということができます。
 
突然呼び出されたことがきっかけでたまたま担当した判例でしたが、これからもどのように扱われていくのかに着目したいと思う今日この頃でした。



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