2017年5月16日火曜日

良いパロディと悪いパロディ

皆様こんにちは、弁理士のM.T.です。
最近このブログは副所長の美食日記になっていてけしからん、というお叱りを受けたわけではありませんが、商標部門のブログらしく、商標についても少し語ってみたいと思います。

商標部門では毎月「審決研究会」を行っています。これは、特許庁が商標について出した決定の中で興味深いものを取り上げて紹介し、議論を行うものです。先月末は私が発表の担当でしたので、パロディ商標に関する審決を二つ取り上げました。

審決研究会の様子(東京-京都‐福岡の各オフィスをテレビ会議で中継しています)

 一件目は以下のようなものです。この事件では左の商標(本件商標)は「ミシュラン」「MICHELIN」などの商標とは紛らわしいとはいえず、不正の目的があったとはいえないから登録されるべきであると判断されました。

本件商標は「vichelin」「美酒覧」「びしゅらん」の文字を組みあせたロゴです。この商標を登録することに対して、グルメガイドブック「ミシュランガイド」やタイヤで有名なミシュラン社が異議を申し立てた事例です。

本件商標はお酒をレビューするアプリの名称として使用することを意図していたようであり、レストランをレビューしたガイドブックであるミシュランを大いに意識したネーミングといえます。しかし、特許庁は本件商標は登録されるべきと判断しました。


そして2件目です。この事件では左の商標(本件商標)は登録されるべきで「ない」と判断されました。

本件商標は「跳躍する馬の図形」と「Cavallino Lampanti」という文字を組み合わせたロゴです。この商標を被服やかばん類について登録することに対して、スポーツカーで有名なフェラーリ社が異議を申し立てた事例です。

フェラーリ社のエンブレム(上記右)は「跳ね馬図形」と呼ばれており、これはイタリア語で「Cavallino Rampante」(キャバリーノ・ランパンテ)というそうです。本件商標の文字部分はつづりが少し違いますが、非常に似ています。デザインは異なるものの、横向きの馬の図形と「Cavallino Lampanti」という文字を組み合わせたという点で、明らかにフェラーリを意識したものといえます。

特許庁はフェラーリ社が公式グッズとしてTシャツや財布等を販売し、そこで「キャバリーノ・ランパンテ」と表示していることを指摘したうえで、本件商標の登録には不正の目的があったとして、登録できないと判断しました。


上記の2件はいずれも「パロディ商標」といっていい事案ですが、結論は正反対となりました。これはなぜでしょう。争点は色々あるのですが、個人的には、両者の「悪質さ」の程度が決定的な差を生んだのではないかと思います。

「美酒覧」が「ミシュラン」に「あやかった」ことは事実でしょう。しかし、「美酒覧」を見た人が、あの「ミシュランガイド」と間違えることはまずありません。おそらく、「美酒覧」の権利者はユーモアをもった洒落として「美酒覧」というネーミングを考えたと思います。

一方、「馬図形+Cavallino Lampanti」からは特にユーモアは感じません。しかし、フェラーリを知らずに偶然このロゴができたということはまずありえません。それでは、どのような意図をもってこのロゴが作られたのでしょう。

ちなみに私はフェラーリの跳ね馬図形は見たことがありましたが、はっきりとは覚えていませんでした。もし私と同じくらいの知識の人が「馬図形+Cavallino Lampanti」が付された商品を見たら、フェラーリのグッズと勘違いするかもしれません。仮に「馬図形+Cavallino Lampanti」はこのような勘違いを狙って作られた商標であれば、ある種のニセモノを販売するための商標ということになりますので、悪質といえます。もちろんこれは憶測にすぎませんが、おそらく特許庁もこのような印象を受けたのではないでしょうか。

「馬図形+Cavallino Lampanti」をめぐる審決では、全体を通して、フェラーリ社に好意的な判断がされているという印象を受けます。これは、上記のような「悪質さ」の違いによって特許庁の担当者が影響を受けた(=「馬図形+Cavallino Lampanti」に悪い印象を持った)ためではないかと考えられます。


ところで、パロディ商標といえば「フランク三浦」と「フランクミューラー」の間に混同は生じないと知財高裁が判断した事件が記憶に新しいところです。商標の実務を知らない人にとっては、なぜこんな「パクリ」が許されるのか思われたかもしれません。しかし、上記2件の審決を見ればご理解いただけるように、商標法において重要なのは「パクったかどうか」ではなく「悪質なパクリかどうか」なのです。この観点からみると、「フランク三浦」事件は理解しやすいのではないでしょうか。

*実は、「フランク三浦」事件では「悪質なパクリか(公序良俗に反するか)」が争点になっておらず、裁判所はこの点を判断していません。しかし、「フランク三浦」が上記のような意味では悪質とは言えないという点は、裁判官の心象形成にある程度影響しているはずです。

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