商標弁理士のT.T.です。
新年2023年となりましたが、2022年の年末はいかがお過ごしだったでしょうか。年末といえば「年越し蕎麦」ですが、私は、「伊右衛門事件」にちなんだ年越し蕎麦を食べていました。
さて、判決にもあるように、福寿園が運営するカフェで「茶そば」を提供している事実が、商標法4条1項15号の判断に影響を与えたようですが、2023年1月時点で、福寿園が運営する飲食店で茶そばを提供しているのは、宇治市の「宇治茶亭」のみのようです。
宇治市といえば、10円玉の平等院鳳凰堂の他に、地域団体商標にも登録されている「宇治茶」(登録5050328)が連想させられますが、確かに、宇治の平等院周辺には、「宇治茶」ブランドにあやかって、茶そばを提供する飲食店が乱立しています。そんな福寿園の「宇治茶亭」は、平等院と宇治川に挟まれた好立地に位置し、平等院または宇治川を望みながら、茶そばや抹茶系スイーツを嗜むことができます。
一方、原告「はせ川製麺所」側を見てみると、商品「そばの麺」等としての「そば処 伊右ェ門」(登録5150330号)は登録無効となってしまったものの、山形市では、飲食店「そば処 伊右ェ門」が未だ営業しています。原告「はせ川製麺所」と飲食店「そば処 伊右ェ門」は、親戚の関係であり、原告が飲食店「そば処 伊右ェ門」へ、そば麺を納入しているとのことです。ちなみに、店名の由来は、福寿園の「伊右衛門」同様、先祖の名前からとのこと。
では何故、商品「そば」の「伊右ェ門」が許されなくて、役務「飲食物の提供」の「伊右ェ門」が許されているのでしょう?
おそらく、商品「そば」の方は、専用使用権者たる食品メーカー「サントリー」が「伊右衛門」という商品を販売している都合上、似たような登録商標を断固阻止したかったのだと思われます。一方で、役務「飲食物の提供」の方は、サントリー「伊右衛門」とは、直接的に関係なかったからと思われます。
そんな飲食店「そば処 伊右ェ門」は、山形駅から2駅北へ進んだ「羽前千歳駅」にあります。羽前千歳駅周辺は、新幹線と在来線の線路がダイヤモンドクロスする珍光景ぐらいしか、観光の見所は特になく、また、羽前千歳駅から田んぼのど真ん中を、徒歩で突っ切ること約20分という立地からも、「そば処 伊右ェ門」は、観光客向けというよりは、地元の蕎麦屋という側面が強いと思われます。
しかし、「そば処 伊右ェ門」は、山形の蕎麦屋ということで、ご当地蕎麦「板そば」を食べることができるのです。
「板そば」とは、山形県内陸部で食べられる蕎麦で、巷でよく見るザル蕎麦が、ザルの上に蕎麦を乗せて提供されるところ、「板そば」は、長細い木箱に所狭しと蕎麦が詰められ、ザル蕎麦の2倍量があります。その麺は、太くコシがあるため、かみ砕くまで時間がかかるため、ただでさえ量が多いのに、さらに満腹中枢が刺激されます。そのうえ麺ツユは、北国にしては珍しく薄味で、出汁も効いていることから、通常の蕎麦がツルっと喉越しを楽しむところ、「板そば」では、蕎麦を噛みしめ味わうものとなっています。
このように、山形蕎麦の「伊右ェ門」と京都福寿園の「伊右衛門」は、商標法上は、商品の出所等が混同を生ずるおそれがあると判断されましたが、「伊右ェ門」が提供する蕎麦と「福寿園」が提供する蕎麦では、両者とも地域の特性が全面に出ており、その味や食感は混同を生ずるはずがありません。
ところで、「そば処 伊右ェ門」の敷地内には、自動販売機が設置してあります。そこで、売られていたのは・・・
(T.T.)
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