2023年3月27日月曜日

神様の名称を使用することは商標的使用に当たるか?【福の神仙臺四郎事件】

 

 商標弁理士のT.T.です。
 まるで野球漫画が飛び出したような、2023年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、世間の注目を大いに集めたようですが、そんななかT.T.はむしろ、春の選抜高校野球を注視。なぜならば、我が母校が出場していたからです。しかしながら初戦敗退。相手は、あの強豪・仙台育英だから仕方ありません。 

 ところで、仙台育英高校は、文字通りの宮城県仙台市の高校ですが、仙台市の商標法事件といえば、仙台市の伝統工芸品「堤人形」にまつわる、結合商標の類否が争われた最高裁判例「つつみのおひなっこや事件」でしょう。しかし、「つつみのおひなっこや事件」は別の機会に譲るとして、今回は、これもまた仙台市にまつわる商標法事件「福の神仙臺四郎事件」「仙台四郎」人形を入手するため、T.T.は仙台駅に足を踏み入れました。

(写真:仙台駅の仙台”駅”四郎)
 

 そもそも「仙台四郎」(18551902?)とは実在の人物で、仙台の鉄砲職人の四男として生まれ、本名を「芳賀四郎」又は「芳賀豊孝」と言います(ちなみに、現在も仙台市に「芳賀銃砲火薬店」がある。)。
四郎は、幼い頃に川で溺れた時の後遺症か、脳の障害により会話能力が低かったとされますが、四郎が訪れた店は大繁盛し、逆にソッポを向かれた店は潰れるという逸話があったことから、いつしか「福の神」と呼ばれるようになり、彼の死後も商売繁盛の神様として、現在もなお、仙台で崇拝されています。要は、招き猫やビリケンさんの仙台版でしょうか。

(写真:仙台四郎(登録4606886号より引用)) 

 実際、仙台の飲食店に行くと、仙台四郎の写真が飾られ、仙台駅や牛タン発祥の店等には、仙台四郎の像が飾られ、仙台駅周辺では、至る所で偶像化された仙台四郎を見ることができます。

(写真:飲食店に飾られた仙台四郎の写真)

(写真:牛タン発祥の店「味の太助」の仙台四郎像)

「仙台四郎」は、ということで、勿論それを祭る寺「三瀧山不動院」もありまして、仙台駅西部・クリスロード商店街沿いのビル内部に建立された珍しい境内の奥に、仙台四郎像が安置されています。この像を奉納したのが、東洋工芸株式会社」であり、この会社が原告となって起こした訴訟が「福の神仙臺四郎事件」(仙台地裁 平成15年(ワ)684号)です。

(写真:三瀧山不動院の山門

(写真:原告が奉納したという三瀧山不動院の仙台四郎像
 

福の神仙臺四郎事件」とは、仙台市内で飲食店・麻雀クラブ・民芸品製作を営んでいた「こま屋」(被告)が、「福の神仙臺四郎」や「商売繁盛仙臺四郎」の標章を付し、写真・のれん・キーホルダー・土鈴といった仙台四郎グッズを製造・販売していたところ、「福の神仙臺四郎」の商標権(登録3141495号等)を持ち、同じく仙台四郎グッズを販売する「東洋工芸株式会社」(原告)から、商標権侵害不正競争防止法違反著作権侵害を理由として、被告の仙台四郎グッズの販売差止・損害賠償等を求め、訴訟を提起された事件です。 

 商標権侵害について、仙台地裁は、原告登録商標及び被告標章のいずれについても、「実在した人物である仙台四郎の呼称又は商売繁盛の福の神との個性を表現したものであることからすると……仙台四郎及び同人がもたらす商売繁盛等のご利益を想起させ、これによって購買意欲を惹起させるものであるとみるのが相当であって、特定の製造者、販売者の商品であることを想起させるものとは認められない」として、被告標章は、出所表示機能・自他商品識別機能を果たしていない態様で使用されていることから、商標権侵害を認定しませんでした(仙台地裁 平成15年(ワ)684号)。 

 なお、不正競争防止法については、被告標章が、出所表示機能・自他商品識別機能を果たしていない態様で使用されていることから、不正競争行為(不競法211号・2号)に該当しないとし、著作権侵害についても、原告商品が、応用美術に当たり、また、創作性も低く、著作物に当たらないことから、認定されませんでした。

(原告登録商標・登録3141495

2023年現在、原告「東洋工芸株式会社」被告「こま屋」閉業してしまったようですが、その承継人たちによって、現在も仙台四郎人形が製作・販売されています。原告・被告の仙台四郎人形は、仙台の土産屋や「三瀧山不動院」の仲見世で購入することができます。T.T.は、開運祈願……と、商標的使用態様の研究のため、当然、原告と被告、両方の仙台四郎人形を購入しました(のべ23000円)。 

 原告版・仙台四郎人形は、外部のデザイン研究所に依頼し、デザインされた仙台四郎の図柄を基に、創作された土人形です(10000円)。「三瀧山不動院」に安置された仙台四郎像も、同じ図柄デザインが由来となっています。本物よりもデフォルメ化されたそのデザインは、仙台四郎というよりは、むしろ、西郷隆盛にも見えなくないです。
 

 被告版・仙台四郎人形(大)は、本物に近いリアル造形な土鈴人形です(13000円)。実は、意匠登録されていたようですが(意匠登録737242)、実在した人物をそのままフィギュア化したと思える本意匠登録には、どのような創作非容易性があったのか気になるところ。そして、被告「こま屋」謹製を示す木札と、五円玉が付属します。

 ところで、原告・被告の仙台四郎人形は、仙台産かと思えば、そうではなく、はるか離れた博多や名古屋で製作されているとのことです。仙台には、先ほど冒頭の最高裁判例「つつみのおひなっこや事件」に登場する「堤人形」があるにもかかわらずです。「仙台四郎」は仙台を代表する神である一方で、仙台の伝統工芸品である「堤人形」の「仙台四郎」を見かけないというのは、不思議な話でしょう。実は、「つつみのおひなっこや」の中の人曰く、仙台四郎の堤人形を制作してほしいという依頼はたびたび来るものの、“大人の事情”で製作していないのが真相のようです。
それでも、1868年、仙台四郎が「堤人形」を持ちながら、「福が来ました。」と呟いたとのエピソードが残っており、「つつみのおひなっこや事件」と「福の神仙臺四郎事件」が全く繋がりないわけではないようにも感じられました。
 

 さて、原告・被告の仙台四郎人形は、いずれも下半身部を見ると、陰部が丸出しとなっており、非常に生々しいです。これは、原告・被告の人形のモデルとなった、仙台四郎の座像写真のオリジナル版が、陰部丸出しだったことに由来します。しかし流石に、陰部丸出しの写真は、公序良俗を乱すためなのか、警察から修正の達しがあったようで、黒く塗りつぶされたものが現在普及していますが、人形については未だ無修正で鎮座しています。 

 そんなこともあって、仙台四郎は、男根信仰のシンボルともされているようです。男根信仰には色々解釈があると思いますが、恋愛成就のご利益もあると言われています(被告版には五円玉も付属しますし。)。そのため、2022年末に、原告版(10000円)、被告版(13000円)、わざわざ、のべ23000円もかけて仙台四郎人形を2体も購入したT.T.は、きっと恋愛運も通常の2倍に上がっているに違いありません!
(写真:仙台四郎人形、並びに「つつみのおひなっこや」の堤人形と松川だるま)

 

 


2023年のバレンタインデーは、チョコ0個でした。

(T.T.)


にほんブログ村
にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿