2021年4月30日金曜日

~審決紹介~ 「しょうゆ差し」立体商標の識別力

 「とんかつ三田」が閉店してしまった!!


少し前の話になりますが、横浜市日吉の「とんかつ三田」(とん三田)が、令和3331日をもって閉店するとの噂を聞きつけ、商標弁理士T.T.は駆けつけました!
 青春の味に別れを惜しもうと、私だけでなく、学生から社会人までもが列を成し、まるでそこはラーメン二郎。噂によると、列が日吉駅を横切り、綱島街道まで突破したとか?

 やはり、「とん三田」と言えば、唐揚げ定食(昼
820円、夜920円)。デカ唐揚げの山盛りに加え、ご飯とみそ汁がオカワリ食べ放題!なんと、贅沢品なのでしょう。
 私も、親から毎日500円の昼食代を貰いながら、平日は180円の学食うどんで耐え忍び、土曜の部活の合間に「とん三田」唐揚げ定食で散在していました。


 とんかつ屋なのに、最後の最後で唐揚げ定食を頼むのは若干罪悪感ありましたが、周りもやっぱり唐揚げ定食を注文していて、みんな大好きなのでした。

さて、「とん三田」の商標的着目点といえば・・・
 とんかつ屋なのに唐揚げ定食が有名とか、日吉にあるのに「三田」を名乗るとか、これは役務の質の誤認のおそれはないのか?・・・といったこともあるかもしれませんが、弁理士T.T.
が着目したのは、テーブル上のしょうゆ差し   

(写真一番左の容器)

 このしょうゆ差し、立体商標として登録されているのです!
    
登録第6231658
(指定商品第21類「しょうゆ差し」、権利者:リス株式会社)    

しょうゆうことで、今回は、創英の審決研究会で過去に取り上げたしょうゆ差しの立体商標に関する拒絶査定不服審判(不服2019-7188)について、要約して紹介いたします。

不服2019-7188審決日:2020210日)

(1)事件の概要
 地模様的な装飾が施された商品(しょうゆ差し)の立体商標登録出願(商願2017-96914)について、自他商品識別力がないとした拒絶査定に対し、審決では、自他商品識別力があるとした事件。

(2)原査定の拒絶の理由(抜粋)
 本願商標の指定商品『しょうゆ差し』は、商品の機能の発揮や需要者の目を引くための装飾等を目的として、様々な立体形状が採用され、それに色彩、模様が用いられている実情があるから、これをその指定商品に使用しても、取引者、需要者は、商品の形状を立体的に表したものと認識するにとどまり、本願商標は、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示してなるものといえる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。

(3)審判請求人の主張(審判請求書より要約)

  1. 「通常の形状より変更され⼜は装飾を施される等により特徴を有しており」かつ「需要者において、機能⼜は美感上の理由による形状の変更⼜は装飾等と予測し得る範囲のもの」でなかった場合、⼜は「商品等の形状そのものの範囲を出ない⽴体的形状に、識別⼒を有する⽂字や図形等の標章が付されている場合」には、商標法第3条第1項第3号には該当せず、登録が認められるべきである。
    参照:審判便覧
    49.02〔基本的考え方〕(1)(3)

  2. 商品等の形状と模様のみからなる立体商標であっても、商標登録例がある。
    (登録例の一部抜粋)

    登録5485174
    (第5類「薬剤」

    登録5882712
    (第3類「化粧品」等)


  3. 地模様的に散りばめられたサクランボの図形は、自他商品識別力を有し、商品等の美感や機能等を向上させるための装飾又は単なる地模様的装飾ではない

    ◆ 「ブルーム」シリーズと呼ばれる調味料入れとして、1987年から30年以上発売されたロングセラー商品で、需要者もサクランボ図形を目印として使用している事実も確認できる。

    ◆ 
    サクランボの平面図形について商標登録例がある。

    (登録例の一部抜粋)

    登録5267502
    第3類「化粧品」等


    登録6019896
    25類「被覆」等

    ◆ 平面の地模様的な図形にも商標登録例がある。
    (登録例の一部抜粋)

    登録3093184
    39類「バスによる輸送」等

    登録5786168
    第9類「カメラ用ケース」等

  4. 本願商標が、「しょうゆ差し」を扱う取引界で商品の形状として普通に使用されている事実はなく、需要者等に普通に用いられる方法で表示する標章としては認識されていない。

(4)当審の判断(一部抜粋)
 「さくらんぼ図形は、指定商品との関係において、商品の美感や機能等を向上させるための装飾として認識されるというよりは、むしろ、さくらんぼをモチーフとした特徴的な図形として認識、理解されるものといえ、それ自体が自他商品識別標識としての機能を十分に果し得るものとみるのが相当である。」として、商標法313号には該当しないことから、原査定を取消し、商標登録された。


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 以上のように、サクランボ模様しょうゆ差しの立体商標登録出願は・・・

①商品の形状と模様のみからなる立体商標・サクランボ図形・地模様の商標登録例

30年以上に及び長年使用されている点

③他者によりサクランボ模様のしょうゆ差しが使用されている実情がない点

といった理由が総合的に考慮され、審判便覧49.02〔基本的考え方〕(3)商品等の形状そのものの範囲を出ない⽴体的形状に、識別⼒を有する⽂字や図形等の標章が付されている場合」に該当し、サクランボ模様には自他商品識別力があることから、商標登録が認められたものと考えられます。

 しかしながら、今回の登録立体商標は、サクランボ模様に識別力が認められたのであり、しょうゆ差しの形状そのものには識別力があると認められたわけではありませんので、「とん三田」に置いてあるような「模様ナシしょうゆ差し」までもが、商標権の効力を有しているとはいえないことに注意しましょう。

(T.T.)




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