商標弁理士のT.T.です。
さて、私が弁理士になった一番のキッカケは、最早、士業しか生きる道がないほど、人生の瀬戸際に立たされていたためでしょう。しかし結局は、私の中に士業という選択肢があったのは、不動産鑑定士だった祖父の影響が大きかったと思います。
そんな私の祖父は、不動産鑑定士の第一期生として、様々興味深い不動産を取り扱ったとのことでした。例えば、ニュースで毎年報じられる銀座の土地の値段は、その評価基準を祖父が初めて定めたとか、一見プライスレスに思える「御用邸」も鑑定したとか。
ところで「御用邸」とは、「皇室の別邸」を意味し、現在では、那須(栃木県)、葉山(神奈川県)、須崎(静岡県)の三か所にあります。
そのうち、「那須の御用邸」がある「那須高原」を舞台として、登録商標「御用邸」の有効性について争ったのが、「御用邸事件」(知財高裁 平成25年(行ケ)第10028号)です。
「御用邸事件」(知財高裁 平成25年(行ケ)第10028号)とは、「株式会社いづみや」が販売していたお菓子「御用邸の月」(登録5415157号)に対して、「御用邸チーズケーキ」を販売する「株式会社庫や」と創業者X氏から、登録商標「御用邸」(登録3161363号)の商標権を侵害しているとして訴訟を提起されたため、逆に、「株式会社いづみや(被告)」が、登録3161363号「御用邸」に対して、公序良俗違反(商4条1項7号)を理由とした無効審判(無効2012-890048)を請求した結果、無効審決となったことから、原告X氏が提起した審決取消訴訟です。
知財高裁は、「『御用邸』が皇室の別邸であることは広く知られて」いることから、「皇室と何らの関係もない者が,自己の業務のために指定商品について『御用邸』の文字を独占使用することは,皇室の尊厳を損ね,国民一般の不快感や反発を招くものであり,相当ではない」として、登録3161363号「御用邸」の公序良俗違反(商4条1項7号)を認定しました。
もちろん、公序良俗違反で商標登録が無効になったとしても、特段、商標として「御用邸」の使用を禁止された訳ではないため、現在でも、原告側の「御用邸チーズケーキ」は販売されています。被告の「御用邸の月」も販売されています。
即ち、我々のような庶民は、通常、御用邸に立ち入ることは不可能ですが、那須高原では2つの御用邸を楽しむことができるのです。
まず、被告の「御用邸の月」とは、あの「杜の都銘菓」系統のお菓子で、まさに那須を照らす満月のようです。
「御用邸の月」が販売されているのは、JR黒磯駅からバスで約10分、「お菓子の城」バス停で下車してすぐの「お菓子の城 那須ハートランド」です。
そして次に、原告側の「御用邸」こと「御用邸チーズケーキ」とは、すごく濃厚チーズケーキです。
「御用邸チーズケーキ」が販売されているのは、「お菓子の城」バス停から奥へ進むこと約1km、「チーズガーデン前」バス停で下車してすぐの「チーズガーデン(那須本店)」です。
こちらも「チーズガーデン」とメルヘンチックな銘を打っていますが、別に地面はチーズで出来ていません。「チーズガーデン」のエントランスに来てみると、デカデカ「御用邸」と掲げられ、ロイヤルな風格を感じられます。
「御用邸チーズケーキ」は、お持ち帰りだけでなく、チーズガーデン内にあるレストラン「しらさぎ邸」でも味わうことができます。
早速注文したのが、「4種のチーズケーキ」です。4種とは、「御用邸チーズケーキ」と「御用邸栗チーズケーキ(季節限定)」と、その他2種のチーズケーキになります。一緒に頼んだ紅茶の名も「御用邸」。まさに(商標法上の)公序良俗違反づくしです。
ということで、那須では2つの「御用邸」を訪れた訳ですが、T.T.は、自家用車を持っておらず、公共交通機関を乗り継いできた都合上、被告「御用邸の月」の紙袋を持ったまま、原告側の「チーズガーデン」に乗り込む事態となってしまいました。例えるならば、阪神の応援席に単身、巨人のユニフォームを着て応援するような自爆行為に等しいです。私の存在自体が、公序良俗違反にならないか心配でした。
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