2022年10月12日水曜日

原告&被告の「一升パン」を食べ比べてみた【三橋の森の一升パン事件】

 

 商標弁理士のT.T.です。
 私は当然、商標弁理士なので、今まで当ブログに登場したような古い商標系判決だけでなく、最近の判決も常にチェックをしています。その中で、2022年で最も「読み応え」そして「食べ応え」のあった商標法判決は、間違いなく、「一升パン」を巡って争われた「三橋の森の一升パン事件」(知財高裁 令和3(行ケ)10160号)でしょう。 

 ここで「一升パン」とは、もともと我が国に「一升餅」という伝統文化があり、それを「餅」から「パン」に置き換えたものです。
 そもそも「一升餅」とは、子供の1歳の誕生日を祝うため、一生(一升)食べ物に困らない等の意味を込めて作られた、一升(1.8kg)の米を使って作られた餅を言います。その「一升餅」を子供に背負わせることで、健やかな成長を祈ります。
 つまり「一升パン」とは、一歳児の誕生日を祝うための「1.8kg(一升)のパン」や「1.8kg(一升)のパン生地を使って作られたパン」といったパンを指す俗称なのです。 

 「三橋の森の一升パン事件」(知財高裁 令和3(行ケ)10160)とは、株式会社CBH(被告)の登録商標「三橋の森の一升パン」(指定商品「パン」等)に対し、株式会社ポンパドゥル(原告)は、自己の登録商標「一升パン」(指定商品「パン」等)を引用し、商標法4111号等に違反するとして無効審判(無効2021-890009)を請求した結果、棄却審決となったことから、株式会社ポンパドゥルが提起した審決取消訴訟です。
 知財高裁は、「つつみのおひなっこや事件」(最高裁 平成19年(行ヒ)第223号)の判旨に沿って、登録商標「三橋の森の一升パン」は一体不可分の構成であり、引用商標「一升パン」とは類似しないと判断しました。

 特に、「三橋の森の一升パン」の「一升パン」部分については、「一升」はパンの数量を表す単位として用いられない等の理由により、出所識別標識としての称呼・観念が生じるとしつつも、「一升パン」は「一升餅」の「餅」を「パン」に置き換えたにすぎず、100を超える事業者によって「一升パン」が製造・販売されていたことにより、「一升パン」自体が特徴的・印象的な語ではないことや、「一升パン」がポンパドゥルの商品を表示するものとして周知でなかった等の理由により、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではないことから、「三橋の森の一升パン」から「一升パン」部分を抽出し、引用商標と類否判断することは許されないとしました。 

(登録6113801号「三橋の森の一升パン」)
(登録5839434号「一升パン」(引用商標))

 ちなみに、ポンパドゥルの登録5839434号「一升パン」は、識別性がない(3号)等を理由として、逆に株式会社CBHから無効審判を請求されてしまった「一升パン事件」(知財高裁 令和3(行ケ)10154)というのもありまして、こちらは識別性有りと知財高裁に判断されました。

 ところで私は、この「三橋の森の一升パン事件」を知るまで、「一升パン」どころか「一升餅」の存在すら知りませんでした。実家が別に一生食べ物に困るほどでもなかったおかげか、1歳の私が「一升餅」を背負わされる機会はなかったためです。
 そのため、この商標事件で、初めて「一升パン」という言葉を聞いた時、「一升」といえば日本酒の一升瓶ということで、「一升瓶の分量丸ごと日本酒が入った、すごく酒臭そうなパン」と、奇妙なパンをイメージしてしまいました。「1.8kg(一升)のパン生地で作ったパン」とかも十分奇妙なパンですが。 

 そんな奇妙な商標からなるパンに、商標弁理士が惹かれない訳がなく、さっそく、原告「株式会社ポンパドゥル」被告「株式会社C・B・H(三橋の森)」で売られている「一升パン」を両方買って、味を類否判断することにしました。ちなみに、T.T.は子無しだし、そもそも独身です。 

 まず、原告「株式会社ポンパドゥル」の「一升パン」は、フランスパンで出来ており、その上に粉を振って名前や絵柄が描かれています。一升パンのデザインは予め決められたテンプレートから選ぶことができ、T.T.は6月生まれなので、6月の絵柄にしました。
 
お値段は3240円。おまけで、198で一升パンを背負うための「お祝い袋」も購入できます。


 ちなみに、私はネット注文のクール便だったので関係ありませんでしたが、ポンパドゥル実店舗で一升パンを購入した場合には、絶対に失敗が許されないということで、お店で同じものを2個、念のために作るらしく、予備の2個目が、購入した店舗で陳列されているとの噂です。


(ポンパドゥルの「一升パン」は、熨斗紙風の包装箱に入れられている。)

 
 次に、被告「株式会社CBH」の「三橋の森の一升パン」は、その名の通り、埼玉県大宮にある「三橋の森」の一升パンです。「三橋の森」とは、地名ではなく、大宮駅からバスで西へ約5分の「三橋一丁目」バス停で下車した所に位置し、結婚式場・ベーカリー・フレンチレストラン等が入った複合商業施設の名称です。 



 そして、「三橋の森の一升パン」は、施設内のベーカリー「三橋の森カフェボスケ」で購入することができます。「三橋の森カフェボスケ」は、カフェも併設されており、ワンちゃんと同伴もできる大人気カフェでした。


 さて、「三橋の森の一升パン」は、ライ麦を使用した田舎風パンで、その上に立体的に名前や絵柄が描かれています。「三橋の森の一升パン」最大の特徴は、オリジナルデザインの一升パンを作ることができる点です。その際、通常のテンプレデザイン一升パンが4000円のところ、デザイン料として500円を追加し、4500円となります。

 私もオリジナリティを追求すべく、一升パンに弁理士バッジ(菊花紋章&桐)と同じ模様を描いて貰おうと依頼しましたが、断られてしまいました。パンはオーブンで焼いた際に膨らむので、弁理士バッジのように複雑すぎる形だと崩れてしまうので、無理だそうです。

 そこで、数字「22077」を一升パンに描くことにしました。一升パン職人さんは、何の数字だと奇妙に思ったかもしれませんが、「22077」は、私の弁理士登録番号です。
 そして、一升パンの上には、私の名前と弁理士登録番号だけだと寂しいので、草で囲むことにしました。この草はまるで、並行輸入が争点となった「フレッドペリー事件」(最高裁平成14()1100号)を思い起こさせます。上部の星図形は、スペースが余ったので、加えてみました。
 以上により、私の「三橋の森の一升パン」のデザインは、一升パンの量に負けず劣らずの情報量になりましたが、かなりカッコいい感じに仕上がりました。 

 また、「三橋の森の一升パン」は、無料でクルミレーズンを追加することで、味に変革を与えることができます。その他の留意点としては、ポンパドゥルみたいに背負うための袋は売っていないようなので、背負う際には自前で用意する必要があります。


(ポンパドゥルで購入したお祝い袋を流用。)


 ということで、原告の「一升パン」被告の「三橋の森の一升パン」を食べ比べてみましたが、どちらの味も、間違いなくおいしいかったです。違いがあるとすれば、有名パン屋「ポンパドゥル」で我が子を手堅く祝いたいなら、原告・ポンパドゥルの「一升パン」を買うことをおススメしますが、オリジナリティを追求したい人は、被告「三橋の森の一升パン」を買うことをおススメするでしょう。 


 もちろん、「一升パン」と「三橋の森の一升パン」は、切り分けられ、冷凍庫で保管しながら、T.T.が最後までおいしくいただきました。そのため、朝食&夕食の「一升パン生活」が、のべ3週間は続きました。こんな生活が3週間も続くと、やはり日本人なので、米が懐かしくなってくるものです。気分としては「一生コメを食いたい!

T.T.



にほんブログ村
にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿